<北朝鮮で逮捕され、帰国後死に至ったアメリカ人大学生ワームビアは、「母親が行かないでほしいと思う場所を訪ねる」が売りのツアーに参加していた。ダークツーリズムだ。では、学生を連れてホロコーストの現場を訪ね歩く筆者の旅はどこが違うのか>

2016年夏のよく晴れた日、私は教え子の大学生たちと一緒に、松かさが転がるよく踏み慣らされた遊歩道を歩いていた。誰もが憂鬱そうだった。鳥のさえずりや、緑の丘で草の上の雫が太陽の光の中に消える美しい光景を見ても、気分は晴れない。

ほんの一昔前、ここで何が起きたかを知っているからだ。

そこはリトアニアの首都ビリニュス郊外にあるポナルの森。第2次大戦中、ビリニュスと近郊の村に住む老若男女のユダヤ人7万2000人が、ナチス・ドイツとその手先によって虐殺された場所だ。

筆者の専門はホロコースト(ユダヤ人大虐殺)で、研修のため中欧のあちこちにあるホロコーストの現場に学生を連れて行く。虐殺の現場を実際に訪れて、学んでほしいからだ。

講義の一環なのだが、場所が場所なので、人類の苦しみや死への好奇心を利用した「ダークツーリズム」の一種ではないか、と非難される可能性は十分にある。

ダークツーリズムとは何か、何が問題なのか。虐殺の地を訪問することに意義が見出せるとすればそれは何か。

危険なのぞき見趣味

2016年1月、アメリカの大学生オットー・ワームビアが北朝鮮の首都平壌で政治プロパガンダのポスターを持ち去ろうとして逮捕された。彼は1時間の裁判の末、15年の労働強化刑を言い渡された。17カ月後、昏睡状態で解放され、アメリカの両親のもとに帰ったが、数日後に死亡した。

【参考記事】米学生は拷問されたのか? 脱北女性「拷問刑務所」の証言

ワームビアは中国の旅行会社「ヤング・パイオニア・ツアーズ」が企画した訪朝ツアーに参加していた。同社の宣伝文句は「母親が行かないでほしいと思う場所への旅を格安で提供する」。

これはまさに「ダークツーリズム」の代表例だろう。人の死や自然災害、暴力、あるいは人類そのものを標的にした悲劇や犯罪の現場を興味本位で訪れる。そうしたツアーのなかには、ワームビアの場合のように政治的な危険と隣り合わせのものもある。

ダークツーリズムの参加者数を示すデータはないが、人気の高まりを示す兆候はある。過去20年間で、ダークツーリズムについての論文が大幅に増えている。1996〜2010年は年間3〜7本だったが、2011〜2016年には年間14〜25本。グーグルで「ダークツーリズム」を検索すると、400万件近くヒットする。

ダークツーリズムの根底には、禁断のものを見たい「のぞき見趣味」があると指摘する研究者もいる。一般的には、ダークツーリズムに参加する動機は過去の出来事について学ぶことであり、現場への好奇心が参加を後押しするのだろう。

ダニエル・ビトラン(米カレッジ・オブ・ザ・ホーリー・クロス心理学教授)