シングル「ユメマカセ」と、アルバム『真夜中のハリネズミ Music from and inspired by ハロー張りネズミ』を同時リリースしたSOIL&“PIMP”SESSIONSの社長(左)とタブゾンビ

 ジャズバンドのSOIL&“PIMP”SESSIONSが23日に、シングル「ユメマカセ」と、アルバム『真夜中のハリネズミ Music from and inspired by ハロー張りネズミ』を同時リリース。2001年に結成し、“爆音ジャズ”と評される音楽性は海外でも評価が高く、これまでに28カ国でライブをおこなう他、英国BBC放送主催の音楽アワードで賞も受賞している。TBS系ドラマ『ハロー張りネズミ』の主題歌「ユメマカセ」では、作詞とボーカルにRADWIMPSの野田洋次郎をフィーチャリングし、90年代のジャズヒップホップをイメージしたという。90年代のアシッドジャズが流行の兆しだが、「当時をリアルタイムで聴いていた自分たちだからこその“本物”をちゃんと作りたい」とその真意についても語る。野田洋次郎との制作や、アルバムの根底に流れる“下町感”についてなど、タブゾンビと社長の2人に話を聞いた。

リヴァイヴァルではない“本物”を

SOIL&“PIMP”SESSIONS

――「ユメマカセ」は、RADWIMPSの野田洋次郎さんが作詞と歌を担当していますが、どういった経緯でコラボすることに?

社長 ドラマの大根仁監督の引き合わせです。最初は「劇伴をお願いします」と依頼を受けまして、その劇伴制作のなかばで「主題歌も」と話をいただいて。じゃあ誰に歌ってもらおうかと、話し合っている中で監督から「野田くんはどう?」と。僕らは接点がなかったのですが、素晴らしいアーティストであることはもちろん知っていたので「歌っていただけるなら是非に!」とお願いしました。

タブゾンビ こういうコラボは、わりと近いジャンル感で集めがちですが、「SOILと野田くんが一緒にやったら面白いケミストリーが生まれる!」と考えた、大根監督の発想力がすごいです。

――実際に野田さんとの制作はいかがでしたか?

社長 曲のデモを送った時が、ちょうどRADWIMPSの海外ツアー中だったのですが、信じられないことに帰国した翌日には歌詞を仕上げて、仮歌を録って送ってくれて。歌詞を書く大変さを考えると、そのスピード感はすごかったです。それに上がった歌詞も、脚本を読み込んで、キャラクターの心情を見事に言葉で表現してくれていて。

タブゾンビ だから、この件に関しては「ユメマカセ」ならぬ「野田くんマカセ」でした(笑)。

――「ユメマカセ」の気怠い感じのテンポ感や歌い方が、すごくハマったと思うのですが、何かイメージされたものはありましたか?

社長 RADWIMPSの曲を聴くと、早口で言葉を詰め込んで歌うところがあるじゃないですか。

――ラップっぽい曲もけっこうありますね。

社長 その早口の歌をラップと解釈して、ジャズヒップホップみたいに仕上げたいと思いました。僕のルーツが90年代のアシッドジャズなので、その流れを汲んだグルーヴ感を歌ってもらいたくて。それで、歌とラップの中間みたいな譜割を考えて。

――90年代のジャズヒップホップと言うと、ガリアーノなどの感じでしょうか。

社長 まさしくそこですよ。言ってしまえば、この「ユメマカセ」は、ガリアーノをイメージして作っていて。野田くんには、その説明は軽くしかしていなかったけど、僕の意図を見事100%汲み取ってくれて、この曲が上がりました。

(※編注:ガリアーノ=1988年〜1997年にかけて英・ロンドンを中心に活動していたアシッドジャズバンド)

――今音楽シーンでは、アシッドジャズがちょっとしたリヴァイヴァルになっていますよね。

社長 そうそう。J-POPのシーンでも、当時のレアグルーヴみたいなものが注目されていて。ただ僕がやりたかったのは、決して単なるリヴァイヴァルではなくて。当時をリアルタイムで聴いていた自分だからこその“本物”をちゃんと作りたいと思って。

――ウネウネしたベースがかっこいいですよね。

社長 そうそう。歌メロに対しての、カウンターメロディと言うかね。本来は、テレビだとベース音があまり聞こえないけど、そこはいろいろ工夫してテレビのスピーカーでもベースが鳴るように加工してあります。

――野田さんとやったことで、何か影響を受けたことはありましたか?

タブゾンビ 影響というよりも、単純に「野田洋次郎スゲエ!」と(笑)。歌詞もすごいし、何より歌が上手いし。ちょっとトランペットをやりたいと言うので、少しアドバイスしただけで、もう吹けていましたから。何をやってもすごいな、と。

社長 MVでは、ちょっとしたダンスシーンがあるのですが、踊りもすぐ出来ちゃって。

下町独特の匂いとスタイリッシュさ

アルバム「真夜中のハリネズミ Music from and inspired by ハロー張りネズミ」

――SOILのみなさんは、ドラマ『ハロー張りネズミ』の劇伴も担当して、劇伴曲を収録したアルバム『真夜中のハリネズミ』も同時リリースしますね。劇伴は、様々なシーンを想定したメニュー表があり、それに沿って作っていくと思いますが。

タブゾンビ 通常はそうですが、今回は「1枚のアルバムを作る感覚で作ってくだい」というお話で。

社長 要は、好きに作ってくれて良いと。ただ1話完結なので、放送回によってホラーなどのテーマがある場合があるので、その時は「それっぽい音が欲しい」など何かしらのオーダーをいただいて、追加で作っていくという。過酷なスケジュールだったので、作業は大変でしたが、めちゃめちゃ楽しかったですね。

 あと大根監督が、すごく音楽に精通している方で、「ベースの音をもっとこういうイメージにして欲しい」など、こと細かくフィードバックがあって。

社長 それが、すごく的確で。音色のことなど、「ここにシンセはいらない」みたいな。すべて「なるほど〜」と思うものばかりで、相当音楽が好きな人だな〜と思いました。

――『ハロー張りネズミ』のような探偵モノだと、1970年代の『探偵物語』や『傷だらけの天使』などがイメージとして浮かびますが、監督から何か提示されたり、みなさんの中で想い描いたりということはありましたか?

社長 大根監督からも、ショーケン(萩原健一)さん主演の『傷だらけの天使』が、参考資料として名前が挙がったりしていましたね。

タブゾンビ でも、我々の世代だと『私立探偵 濱マイク』の印象がすごく大きいですね。キャラクターやストーリーは『ハロー張りネズミ』とはまったく違うけど、音楽のセンスがすごく良かった印象があって。ああいった、音楽にインパクトのある作品に出来たら良いなと思っていました。

(※編注:『私立探偵 濱マイク』=映画監督林海象による、同名の探偵を主人公とするハードボイルド探偵ドラマのシリーズの総称。映画は3部作で1994年〜1996年に公開。2002年に日本テレビ系でドラマ化された)

――瑛太さん演じる七瀬五郎の“いなたさ”など、良い意味での軽薄さとその裏腹な熱さ。それを音で表現するのは、すごく難しいですよね。主題となるトランペットのメロディは、どうやって考えていったのですか?

タブゾンビ あの作品の舞台は、東京・板橋区の下赤塚で、スタイリッシュでありながら“下町感”というものがすごくあって。僕ら自身も下町の出身なので、作品の根底に流れる雰囲気は手に取るように分かりました。だから、僕らがもともと持っている感性とドンピシャだったので、その点ではとても作りやすかったです。

 社長は、今も下町に住んでいるし。下町独特の風景や匂いがあって、そこから生まれるスタイリッシュさやムードが絶対的にあるので。それが、僕らの音とすごくハマったと思います。

社長 僕は福井県の出身ですが、親戚が下赤塚にいたので、実は僕にとっての東京の原体験は下赤塚です。初めて東京に一人で来たのが小学3年生の時で、最初に降り立った駅が東武東上線の下赤塚駅でしたからね。だからドラマに出てくる商店街も、子どものころから知っているし。その下赤塚が舞台だというのは、僕自身すごくうれしかったですね。

――東京の下町独特のムードや、そこに暮らす人ならではの感性が共鳴し合ったということですね。でもこういう音楽は、一歩間違えると任侠ものっぽくもなりそうですが。

社長 そこはやっぱり、人間くさいかどうかだよね。

タブゾンビ それと昭和感と今の感じをミックスして、出汁が利いた感じと言うか。決してコリアンダーとかクミンとかオシャレなエスニックではなく、鰹と昆布みたいな(笑)。

新しいところにリーチ出来ている

左からタブゾンビと社長

――サントラ盤は、サウンドで言うとジャズだけではなく、いろいろなサウンドがあって。そもそもSOILはジャンル無用といった感じですが、このサントラで肝になっているのは、ビートかなと思いました。

タブゾンビ そうですね。だから、ドラムのみどりんと一緒に、動画サイトを見漁ったり、彼がいろいろ研究してくれたので、それをみんなで共有したりしながら、いろいろ考えましたね。

ーー「この静寂の中で」は、後期マイルス・デイヴィス(米・ジャズトランペット奏者)のような、エレクトリックなサウンドも感じさせていて。

タブゾンビ 僕は、SOILの前にやっていたバンドでは、エレクトリックトランペットをずっとやっていて。SOILに入ってからは、ずっと生でしか吹いてなかったのですが、今回の作品では、けっこうエフェクトを駆使しています。だから、そこも聴きどころの一つかな。

――「Great Buddah」という曲は、メロディが独特で。昭和の歌謡曲みたいなところもあって、面白かったです。

社長 そこを指摘してもらえたのは、すごく嬉しいですね。そう、昭和です(笑)。だけど、実はエチオピア経由です。「エチオピアンジャズ」というものがあって、音作りもそれを参考にしていて。

――エチオピアなのに、なぜ昭和っぽいのですか?

社長 実は昭和の時代に、日本の歌謡曲がエチオピアに輸入されていて。特に日本の演歌がすごく流行って、そのエッセンスが取り込まれているのが、エチオピアンジャズです。だから、現地では小林幸子さんがすごく人気です。よく聴くと、キメやブレイクなどは、演歌のオケに出てくるような感じで。それを逆輸入するみたいな形でやったのが、この曲です。

――何でまた「Great Buddah」と?

社長 下赤塚に、赤塚大仏(東京大仏)という大仏があって。銅製の座っている大仏では、日本で3番目の大きさなんですよ。余談ですが、その赤塚大仏があるのは、乗蓮寺というお寺で、蓮に乗ると書くじゃないですか。9曲目の「On The Lotus」という曲名は、そこから来ています!

――下赤塚っぽさが、至る所に!

社長 こういうところで言っていかないと、わりと気づかれないので(笑)。

――ライブでは、アルバムの曲もやっていますか?

タブゾンビ けっこうやっていますよ。「ハロー張りネズミのテーマ」もやっているし、「ユメマカセ」や、「人生」もやっていて。このアルバムは、サントラよりも1枚のアルバムという感覚で作っているので、楽曲はライブでもどんどんやっていく予定です。

――「ハロー張りネズミのテーマ」は、シングルのカップリングに「真夏のハリネズミver.」が入っています。アルバムには「グッドナイト・ハリネズミver.」と「真っ昼間のハリネズミver.」もあって。

タブゾンビ いろんなバージョンが、すぐ出来ましたよ。スカやスウィング、ダブ…ジャンル名を言ったら、すぐそういう音が出るので。夏はスカの「真っ昼間のハリネズミver.」が似合うし、季節ごとにいろんなバージョンが出来そうで楽しいです。

――ジャケットもすごくかっこいいですね。

タブゾンビ グラフィックデザイナーのYOSHIROTTENくんが描いてくれました。彼は僕と同じ鹿児島県の出身で、僕が鹿児島でやっているラジオ番組にゲストで出てもらったことがあって。もうイメージにバッチリのかっこいいものを描いてくれました!

――リリイベなどもやりますか?

社長 そういうのはないですが、キャンペーンですね。各地のラジオに出たりとかですね。

タブゾンビ そこは、大人数ではあれなので、社長一人で対応していて。つまり“社長マカセ”です(笑)。でも良いよな〜、いつも美味しいものをご馳走になっているでしょ?

社長 いや、そんなこともないよ。だってこのご時世だよ。福岡も日帰りだから(笑)。

――でも、ジャズを聴かなかった人など、ファン層が広がりそうですね。

社長 だと思います。実際に今までは無かったところから、すごく反応が返って来ているので、新しいところにリーチしている手応えはありますね。

【取材・撮影=榑林史章】

シングル「ユメマカセ」と、アルバム『真夜中のハリネズミ Music from and inspired by ハロー張りネズミ』を同時リリースしたSOIL&“PIMP”SESSIONSの社長(左)とタブゾンビ 左からタブゾンビと社長 SOIL&“PIMP”SESSIONS シングル「ユメマカセ」 アルバム「真夜中のハリネズミ Music from and inspired by ハロー張りネズミ」

◆SOIL&“PIMP”SESSIONSとは タブゾンビ(Tp)、丈青(Pf)、秋田ゴールドマン(Ba)、みどりん(Dr)、社長(Agitator)の5人組ジャズバンド。2001年に結成し、デビュー前の2003年にFUJI ROCK FESTIVAL2003に出演。翌年の2004年にアルバム『PIMPIN’』でCDデビューした。ジャズの枠を越えた活動をおこない、これまでにRHYMESTER、椎名林檎、一青窈などのアーティストとコラボ。海外でも評価が高く、2005年にはBBCが主催の『WORLDWIDE AWARDS 2005』で「John Peel Play More Jazz Award」を受賞。すでに世界28カ国でライブをおこなっている。WOWOW時代劇『連続ドラマW ふたがしら』、ドラマ、CM、アニメなど様々なタイアップ楽曲も手掛けている。

作品情報

SOIL&“PIMP”SESSIONS feat. Yojiro Noda
9thシングル「ユメマカセ」
8月23日発売
CD 1200円(税抜)VICL-37318

▽CD収録内容
01.ユメマカセ feat. Yojiro Noda
02.CRAWLIN'
03.ハロー張りネズミのテーマ(真夏のハリネズミ ver.)
04.ユメマカセ(Instrumental)

SOIL&“PIMP”SESSIONS
10thアルバム『真夜中のハリネズミ Music from and inspired by ハロー張りネズミ』
CD 2500円(税抜)VICL-64835
8月23日発売
▽CD収録内容
01.ハロー張りネズミのテーマ
02.人生
03.Blow Up
04.Under The Red Mound
05.Great Buddha
06.Reasoning
07.この静寂の中で
08.Puzzle
09.On The Lotus
10.Feel Nothin'
11.Soilent Remedy
12.Magnetic
13.The Man From A.K.T.K.
14.Rambling Pass
15.Blue Sky
16.Love Step
17.ハロー張りネズミのテーマ(グッドナイト・ハリネズミ ver.)
18.All Over Again
19ハロー張りネズミのテーマ(真っ昼間のハリネズミ ver.)

ライブ情報

▽夏のワンマンライブ「Summer Action」
8月25日 大阪・Billboard Live OSAKA(昼夜2公演)
8月26日 愛知・Blue Note NAGOYA(昼夜2公演)