超富裕層は今も「マシュマロ2個」を選ぶ

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高学歴、高収入、高資産、健康長寿……。それらすべてを手に入れる人の唯一の条件とは、「自制心」。なぜ、そう断言できるのか? 金融資産5億円超の富裕層でもある金森重樹氏が、国内外の疫学調査に基づいて解説する。

■収入の低い人ほどタバコを吸う

前回*は、主に「収入と寿命」の関係について論じました。

世帯収入が上がるにつれて寿命が延びているという調査結果があり**、それによれば「収入上位1%」層は「下位1%」層より男性で14.6年長生き、女性で10.1年長生き、といった内容でした。

以前、報告したように「収入と幸福度」の関係については、ある一定の所得にまで上昇すると「幸福度の上がり方はゼロになる」(飽和点が存在する)のですが、命の長さは飽和点が存在しない。従って、「人の命はお金で買えない」という“定説”は必ずしも正しいとは言えないのではないか、と僕は考えました。

*「タワマン住民が抱く劣等感と寿命の"相関"」http://president.jp/articles/-/22409
**スタンフォード大学のChetty Rとハーバード大学のCutler Dらが、収入と寿命の関係について2016年4月に『The Journal of the American Medical Association(略称:JAMA)』(米国医師会雑誌)に発表。

この調査の中で担当教授らが、収入階層の「下位25%」が“短命”であることについて、相関関係があると判断できた項目は「喫煙、肥満(などの保健行動)」でした。「下位25%」はタバコを吸い、太っている率が顕著に高かったのです。

▼「所得が少ない人は死亡リスクが2倍近く高い」

日本でも興味深い調査がされています。2009年〜2013年度の文部科学省科学研究費による新学術領域研究をまとめた「健康社会格差」に関するリポートで、「教育年数が短い人は教育年数が長い人より死亡リスクが1.5倍高い」「所得が少ない人は所得が多い人より死亡リスクが2倍近く高い」といった事実が判明しました。

このリポートでは、なぜ学歴や所得と健康状態が関係するかについて、いくつかの仮説をあげていますが、そのひとつの仮説として、他人と比べて自分は豊かでないという劣等感(相対的剥奪感)が健康をむしばむ可能性について述べています。それを「相対的剥奪仮説」と呼んでいます。

ある人物が、人より収入が少ないといった劣等感(相対的剥奪感)によって慢性的なストレスを抱えているとします。そのストレスは、ホルモン分泌や自律神経のバランスを崩し、脳の構造や機能を変えることがあります。また劣等感のストレスにより、健康に悪い生活習慣(酒やタバコなど)をあらためることが難しくなり、そうした嗜好品への依存を続けてしまうリスクがあります。その結果、死亡リスクが上昇する、という仮説です。

■「所得と喫煙」の関係を掘り下げ、判明したのは……

今回は、所得と喫煙(と寿命)の関係について掘り下げてみましょう。

まず、そもそもの前提として喫煙が寿命と関係あるのでしょうか。これについては損失余命(lost life expancy=LLC )という考え方があります。

損失余命とは、人間が行う食事や日常の行動などに寿命を短くするリスクがどれくらいあるのかを示したもので、WHO(世界保健機関)をはじめ、各国の医療機関でリスク指標のひとつとして使用されています。

2001年1月に発表された医学雑誌『the BMJ(British Medical Journal)』の内容は次のようなものでした(http://www.bmj.com/content/bmj/320/7226/Letters.full.pdf)

英国の喫煙者は17歳から71歳までに1年5772本(1日15.8本だから1箱未満)、トータルで31万1688本を吸うと推計されます。また、英国の40歳以上の男性医師3万4000人の喫煙習慣を40年間追跡調査した結果出た、喫煙者と非喫煙者の寿命の差は6.5年でした。

こうしたデータを基に、タバコ1本あたりの損失余命を計算すると、1本吸うごとに寿命が11分短くなるという結果が出ました。1日1箱(20本)吸うと、単純計算で11×20=220分寿命が短くなり、1年間だと55.7日。かなり寿命に影響を与えることがわかります。

▼「1日1箱吸う人」は1本ごとに寿命が4.04分短くなる

日本国内でも、喫煙と損失余命の算出が行われています。

大阪工業大学工学部の渡辺信久教授は、タバコを吸い始める年齢を20歳とし、死ぬまで40歳時点でのペースで吸い続けると仮定して計算することで、「1日1箱(20本)吸う人」は、1本吸うごとに寿命が4.04分短くなると算出しています(http://www.oit.ac.jp/env/cardamom/~wastcoex/6_Risk_Percept_Accept/6_Risk_Percept_Accept_OkayamaUni2011_Slide_Wata.pdf)

タバコ1本でどれだけ寿命が短縮するか、その細かい時間は置いておくとして、喫煙が寿命と関係あることはわかりました。そこで次の段階として所得と喫煙の関係について見てみます。これがわかれば、喫煙を介して所得と寿命の関係が明らかになりそうだからです。

■年間所得が高くなるごとに喫煙率は低くなる

厚生労働省の国民健康・栄養調査(2010年)は、世帯の年間所得と体形および主要な生活習慣の状況について調べられた初めての調査でした。「命はお金で買えるか」、「お金持ちほど長生きなのか」という健康格差のテーマについて正面から取り組むものです。

これによれば、世帯の年間収入が「200万円未満」「600万円未満」「600万円以上」の場合を比べると、世帯の年間所得が上がるにつれて男女共に喫煙率が減少する結果となっています(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000020qbb-att/2r98520000021c30.pdf)。

どうやら所得と喫煙率の相関関係はあると言えそうです。

▼自制心がない人は何も手に入れられない

ただ、前出の「健康社会格差」の報告書がまとめた「所得が低い→相対的剥奪感→慢性的なストレス→喫煙習慣を改められない」という因果関係の仮説は、そのままうのみにはできません。「所得が低いことを喫煙率の高さの原因」と捉えている点にいささか疑問を感じます。相関関係があるとは言えますが、因果関係があるとまで言えるかどうかはわかりません。

本連載で以前、「高学歴」と「高収入」は擬似相関の関係にあって、その2つの要因とは異なる第3の要因である「自制心」が働くことが、「高学歴」にも「高収入」にもつながるという内容の原稿を書きました。(堕ちた“番長”にも読ませたい「本物の富裕層はマシュマロを2個食べる」http://president.jp/articles/-/17376)

簡単におさらいしましょう。

■自制心が、高学歴や高収入を発生させる

高学歴と高収入の関係を考える場合に、高学歴(A)、高年収(B)、そのほかの何か(C)とすると、考えられる関係としては以下の3つあります。

<1>A(高学歴)がB(高収入)を発生させる
<2>B(高収入)がA(高学歴)を発生させる
または
<3>C(そのほかの何か)がA(高学歴)とB(高収入)を発生させる

A(高学歴)とB(高収入)はいかにも相関関係があるように感じられます。しかし、実際は擬似相関です。一般的に考えて、いい大学を卒業すれば年収が高くなるとは限りません。また、いい大学を出ていなくても年収が高い人はいます。学歴と年収が完全な原因と結果の関係にあるわけではないのです。

AとBともに影響を与えているのは、実はC(そのほかの何か)なのです。

では、Cとは何か。これこそが、自制心です。自制心が、高学歴や高収入を発生させるのです。その考えを支えているのが有名な「マシュマロ・テスト」の結果です。

「マシュマロ・テスト」はスタンフォード大学の心理学者ウォルター・ミシェルが50年間(のべ600人参加)にわたって実施した大規模な実験です(詳しくは『マシュマロ・テスト 成功する子・しない子』(早川書房)を参照ください)。同大学のビング保育園(心理学部の教育研究機関)の4歳の園児たちに、「マシュマロ1個を今すぐもらう」か「最長20分待ってマシュマロを2個もらう」のどちらかを選択させました。

▼「マシュマロ2個」を選んだ子は大成する

ウォルター・ミシェルは、この「マシュマロ・テスト」で欲求充足を長く先延ばしにできた(「待ってマシュマロ2個」を選んだ)子どもの成人期について、こう述べています。

「長期的目標の追求と達成が得意で、危険な薬物はあまり使わず、すでに高い教育水準に達し、肥満指数が大幅に低かった」

つまり自制心こそが、その後の人生の「成功」の礎となるものなのです。経済的な富を呼び込み、健やかな人生(とそれに伴う長寿)をもたらすのです。先ほどお話した、収入と喫煙率に関しても、自制心がその両方(「収入の高さ」、「喫煙率の低さ」とそれに伴う「寿命の長さ」)に関係していると僕は考えています。

■自制心ある人だけが「収入・寿命・富」を得る

自制心は、「喫煙習慣の抑制」や、肥満の原因となる「暴飲暴食の抑制・食事の質のコントロール」などの保健行動に影響を与える。また自制心は、学歴や収入にも影響を与える。

「収入と寿命」に100%明確な因果関係があるとは言い切れませんが、「自制心と収入」「自制心と寿命」「自制心と富」は密接な関係があると僕は考えています。僕の知っている資産家も、みな自制心の強い人間です。

僕自身も自制心は強いと思います。以前にも書きましたが、僕はコンビニへは行かないし、コーヒーなどの飲み物もテイクアウトでは買いません。もちろん喫煙もしません。自制心というと、欲望を堪えているイメージを持つ人がいるかもしれませんが、自制心のある生活が普通なので、我慢することは何の苦でもありません。もし今、マシュマロ・テストのような実験を受けたとしたら、ちゃんと我慢できる自信があります。

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(行政書士・不動産投資顧問 金森 重樹)