ボルボC30エレクトリック(「Wikipedia」より)

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●ヨーロッパで燃え上がるEV熱

 ヨーロッパで電気自動車(EV)が熱い。多くのメーカーがEVの開発、生産に意欲をみせている。北欧ではボルボ・カーが、ドイツではフォルクスワーゲン(VW)を筆頭に、BMW、メルセデス・ベンツ、アウディ、ポルシェと、ほとんどのメーカーがEVに突き進む。フランスでは、ルノーが早々にEVを発売し、1充電で400キロメートルも走る新たなモデルも発売し、EV戦略の第2弾に動き出した。三菱自動車工業と共同でEVを開発してきたグループPSA(プジョー・シトロエン)も独自にEVを開発し始めている。

 EVには距離を置いていた英国でも、大排気量エンジンでユーザーを魅了してきたジャガー、ランドローバー、アストンマーチン、そしてロールス・ロイスさえもEVに参入する。
 
 あれほどディーゼル車に傾倒してきたヨーロッパが、なぜ急激にEVに向かうのか。そして本当にEVは必要なのだろうか。

●EV化へ先陣を切るドイツ・メーカー

 ボルボ・カーは2019年以降すべてのモデルをEVあるいはハイブリッド車(HV)にし、エンジンだけのモデルを廃止する。VWは排ガス不正を起こしたディーゼルから大転換し、25年までに30種類のEVを発売する。BMWはすでにEV、プラグインハイブリッドカー(PHEV)のブランドである「i」を立ち上げ、すべてのモデルにPHEVを加え、電動車に急速に転換している。

 ダイムラーは、25年までに10車種以上のEVあるいはPHEVを発売する。100万台といわれるディーゼル車の排ガス不正を問われる現在、さらにEV化を推進することになるだろう。アウディは第1弾としてe-tronクワトロ(18年)に続いて、第2弾のSUV、e-tronスポーツバック(19年)を出す。加えて、VWと共通車台(プラットフォーム)MEBを使う小型のEVの用意もあるといわれる。VW傘下のポルシェは、コンセプト・モデルとして発表した「ミッションE」をベースにEVを開発、20年に発売する。

●追う英国メーカーとフランス・メーカー

 これに英国のメーカーも追従する。早ければ19年には英国製EVが発売される。さらにフランスでもEVの波が起きている。ルノーはすでに数種類のEVを発売しているが、その1台である「ZOE」をマイナーチェンジし、電池搭載量を増やして航続距離を400キロメートルとしている。

 PSAは、中国・東風汽車と共同で、EV・PHV用の車台(プラットフォーム)、e-CMPを発表した。EV版のそれには航続距離が400キロメートルを可能にする電池が搭載される。

●各国政府がエンジン車を禁止 EVを推進

 自動車メーカーだけではない。多くの政府がエンジン車の販売を禁止し、EV化を進めようとしている。パリの大気汚染に泣くフランス政府は、40年までに国内のガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する。インドはそれに先駆けて30年までに、ノルウェー、オランダは25年までにエンジン車の販売を禁止する。また、自動車生産大国のドイツも、連邦議会で30年までにエンジン車の販売を禁止すべきという決議をしている。

●トランプの米国もEVへ
 
 米国では、トランプ大統領はパリ協定から離脱を表明しているが、カリフォルニア州をはじめとする12州は、実質的なエンジン車締め出しのZEV規制の内容を強化して18年モデルから適用する。12州の販売台数は全米のおよそ30%である。20年には、そこでは販売台数の5台に1台から4台に1台がEVになる。年間100〜130万台ほどのEVが販売されることになる。ZEV規制に違反すると、1クレジットにつき5000ドルの罰金である。

 中国では、米国のZEV規制と同様のNEV規制が18年から実施される。これは実質的なエンジン車の締め出しであり、大気汚染がひどいことを考えれば、当然の措置だろう。

●EVが迫る自動車産業の大転換
 
 エンジン車からEVに移行すると、経済産業省の試算では部品点数は3万個から1万9000個と約4割の部品が不要になる。
 
 まずエンジン本体だ。シリンダーブロック、シリンダーヘッドといった大型の鋳物から、ピストン、コンロッド、吸気バルブ、排気バルブ、点火プラグなど小さな部品まで含めると数千点に上る。それ以外にラジエター等の冷却系、オイルフィルター等の循環系、触媒などの排ガス浄化装置やマフラーなどの装備品も不要である。また、大きな部品では変速機が不要だ。このコストはエンジンに引けを取らない。

 これらの部品が不要になれば、1次、2次の協力メーカーは、場合によっては会社ごと不要になる。トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車といった大きなメーカーでは、これらの協力下請けメーカーは100社に及ぶ。

 一方、EVに転換することで新しく必要になる部品は、モーター、インバーター、そして電池である。大型のリレー等も必要だが、これらのメーカーはHVで十分に育っており、規模が大きくなるにすぎない。 

●電池メーカーがイニシアチブを握るか

 EV化によって大幅に雇用を増やすのは、電池メーカーである。小さな自動車メーカーであれば飲み込んでしまうほどの規模の電池メーカーが出現するだろう。

 エンジン車からEVへの転換は、自動車産業の大幅な構造転換であり、自動車産業は縮小すると考えるべきだ。自動車メーカー内では大幅な社員の削減、配置転換あるいは転職の推進が、協力企業は自動車事業に代わる新たな事業計画が必要だ。

 そこまでして、エンジン車をEVに転換する必要はあるのだろうか。

●エンジン車の苦悩
 
 世界でもっとも早くモータリゼーションの始まった米国は、世界でもっとも早くから排ガス規制を実施した。エンジン車による大気汚染はカリフォルニア州を悩ませ、戦前から排ガス規制が始まったのだ。1908年に発表されると19年間で1500万台以上も売れたT型フォードに始まる米国のモータリゼーションは、たった30年ほどで米国の主要都市の大気を汚染してしまったのだ。
 
 それからおよそ100年。自動車は、今度は途上国の大気を汚染するばかりか、自動車先進国の大気汚染も拡大するに及んでいる。

 一方、世界の石油の半分を消費してしまう自動車は、エネルギー問題も深刻にしている。このまま自動車の燃料を石油に依存していると、不安定な中東情勢を抱えざるを得ず、自動車のあり方を石油産油国に握られたままとなる。それは、ますます広がろうというモータリゼーションにとって大きな不安要因となる。

 極めつけは地球温暖化問題である。石油を燃料にするエンジン車は、必ず二酸化炭素(CO2)を排出する。そして今やCO2排出量削減(燃費向上)は限界を迎えつつある。

●EVは地球を救えるか
 
 エンジン車は、大気汚染、石油エネルギー問題、地球温暖化問題の大きな3つの問題を抱えており、もしこれらの問題を解決できる自動車があれば、それに早急に取って代わられることは明らかだ。EVは、そうした限界を迎えた世界のモータリゼーションの苦悩を救う可能性を持って現れた。電池性能がもう少し向上し、その価格が低下し、充電インフラが整えば、エンジン車に取って代わることは明らかだ。そして、その条件は満たされつつある。

 時代はEVを求め、EVは期待に十分に応えられるだけ進歩し始めた。どうやらEVは必要のようだ。
(文=舘内端/自動車評論家)