キキキキと車輪をきしませ、右へ左へと身体を揺らして進む電車の車窓に、踏切待ちの老若男女の表情と、黄昏どきの賑やかな街の光景が交互に映る。
 これぞザ私鉄沿線という車窓が、ひとつ、またひとつと消えていく…。
 街を縫うように走る東京のレールは、地面から剥がされ、地下へ高架へと移されている。東京都が、開かずの踏切の解消や平面交差による事故を防ぐための対策のひとつとしてすすめる、連続立体交差事業ってやつだ。
 いずれ地下へ潜ってしまう、慣れ親しんだ路線の光景を、イッキにめぐって記憶にとどめようじゃないか! というワケで、東京都などが公表する資料を片手にウチを飛び出すと…。
 「イノズがいい具合に結んでる!?」
 今回、異なるタイプの地下化予定区間を3つチョイス。東急東横線と東京メトロ副都心線が相互直通運転を行う予定の渋谷・代官山エリア、地下化される小田急線の下北沢エリア、さらに驚きの計画がある京王線の明大前エリアだ。
 渋谷・下北沢・明大前。この3つの現場は、京王井の頭線(イノズ)で結ばれているじゃないか!
 いずれ地下化されて消滅するかもしれない、沿線の車窓や雑踏の賑わい(ノイズ)に浸ろうということで、このイノズに乗って3つの街をさ迷った。

渋谷…ポニーワーレントラスが消える

 来春、東横線の渋谷と代官山の間が地下化し、副都心線と結ばれて、メトロと東急の相互直通運転がい始まる。
 となると、現在の、山手線と上から跨いで越える東横線の姿がなくなるワケで、あのポニーワーレントラスの橋を渡る電車のノイズが、消える。
 およそ100年の歴史を持つこの鉄橋の行方は不明だが、激変する山手線と東横線の位置関係にまず、合掌。
 時を同じくして消滅する東急渋谷駅にも立ち、雑踏のなかで瞑想…。

下北沢…方角を失うカオス街が消える

 イノズで下北沢へ。方向感覚すら失うほどの、路地から路地へ、カオスな雰囲気がザ・シモキタだけど、街の南北を分断するように走る小田急線が地下に潜ると、横はクルマの往来が激しくなり、縦に高層ビルが乱立するとか。街の行方は不明だが、シモキタの踏切待ちとカンカン音が、消えるのは確か。
 踏切が鳴ると、ありとあらゆる人たちがどこからともなく集まり、遮断機が上がると、ふたたびその一団が四方へと散っていく。そんな光景も、数年後には、過去のものに…。

明大前…まるで手品?特急が消える!?

 京王線ではどんな激変が予想されるかというと、特急が消えるとか!?
 これ、人気作家による鉄道ミステリーなどではないらしい。
 代田橋と千歳烏山の間を高架化し、なんと、さらに地下に急行線を掘るという計画があるというのだ! 
 つまり高架化工事と地下化工事を同時にすすめて、特急を地下に、それ以外のノロい電車を高架に走らせるという複々線化計画なのだあああ!(興奮)
 が、この計画、まだ先の話で、いま下高井戸の駅に立ってみると、いつもどおりの私鉄沿線風景が広がっている。
 杖をついたおじいちゃんと買い物袋を下げたおばちゃんと自転車に乗った女子大生とサッカーボールを抱えた少年が、同じ踏切の上を行き交っている。
 下高井戸駅前市場の踏切脇に構える立ち呑み屋から、日が暮れるまでカンカン劇場を観覧。踏切を渡る人たちの影が、どんどん長く伸びていく。
 繰り返される踏切待ち集団の静と動。
 東急・小田急・京王、それぞれの事情で変化し、線路が地下化されていく。
 街も路線もダイナミックに進化しているというのに、ジョッキを抱えた自分は、酒臭いし、相変わらずで…。

この連載は、社会福祉法人 鉄道身障者福祉協会発行の月刊誌「リハビリテーション」に年10回連載されている「ラン鉄★ガジンのチカラ旅」からの転載です。今回のコラムは、同誌に2012年12月号に掲載された第8回の内容です。

鉄道チャンネルニュースでは【ラン鉄】と題し、毎週 月曜日と木曜日の朝に連載します。

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