米大統領が独断で核攻撃できることの是非 しかもトランプ氏が……上がる不安の声

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 核兵器の使用を巡って、北朝鮮の金正恩委員長とアメリカのトランプ大統領の舌戦が続いている。事態の先行きが見えない膠着状態の中、米英メディアには、真の脅威は核兵器を開発中の北朝鮮よりも、実際に核ミサイルのボタンに手をかけているトランプ大統領だという論調が出始めている。アメリカが戦争を行うにあたっては、基本的には議会の承認が必要だが、核の使用についてはグレーゾーンが多く、大統領の独断で行うことができるという見方が強い。これまでも、しばしば核の使用に言及してきたトランプ氏なだけに、リベラル派の論客を中心に危機感が広がっているようだ。

◆大統領の独断で即時に核を発射可能
 英ガーディアン紙のコラムニスト、ジョナサン・フリードランド氏は「真の核の脅威はトランプだ」と警告。アメリカの核ミサイル発射に至るプロセスは大統領に全ての権限がある非常にシンプルなもので、「聞けば聞くほど恐怖が増す」と同氏は書く。それによれば、通称「フットボール」と呼ばれる黒いブリーフケースを持った担当官が常に大統領の側におり、核の使用を決断した大統領は「蓋を開けろと命じればいい」という。

 ブリーフケースには、ペンタゴン(国防総省)に通じるホットラインが備えてあり、「大統領は受話器を取って合言葉を言い、命令を下すだけでいい」という。「誰かと協議する必要はなく、電話を受けた者は命令に逆らうことはできない。たった1人の人間にこのような権限があるのは、恐ろしいことだ」とフリードランド氏は書く。相手が先に攻撃を仕掛けて来た場合にこのような素早い対応が求められるのは仕方がないが、核による先制攻撃や一部で囁かれている予防的な攻撃の権限までもが大統領に集中しているとすれば、非常に危険だという意見だ。

 ただし、米軍の核兵器担当官たちは、核はあくまで抑止力であり、先に発射することは絶対にありえないという信念を持っているという主張もある。核兵器廃絶運動「グローバル・ゼロ」の提唱者である元米軍核ミサイル発射担当官、ブルース・ブレア氏はワシントン・ポスト紙(WP)で、核で先制攻撃をするという選択肢はないという現場の空気を経験者の立場で代弁している。「私にとっては、予防的核攻撃の命令は、軍に対する一種の“契約違反”だ。米軍の誰1人として、それを行う“契約”はしていない。我々の使命は敵の攻撃に対処することであり、もし(核の)抑止力が失われれば、敵の戦争遂行能力を破壊することであった」

◆議会の承認を巡るグレーゾーン
「議会はトランプが北朝鮮に核攻撃することを止められるか」と題した別のWPの記事は、核兵器の使用に対する米議会の“抑止力”に着目する。同記事は、大統領は議会の承認なしに宣戦布告=戦争を始めることはできないとしながら、核兵器の使用については「そう単純には片付けられないグレーゾーンが多い」としている。

 アメリカでは、宣戦布告の権限は議会にある。しかし、戦争の遂行そのものには大統領に強い権限があり、議会の承認を得ずに行うことができるとされてきた。このグレーゾーンの狭間で、朝鮮半島やベトナム戦争は宣戦布告なしで、大統領の判断で開戦している。その反省のもとに、1973年に「戦争権限法」が成立し、大統領が外国に軍隊を派遣する場合は事前に議会と協議することなどが定められた。

 ただし、歴代大統領の多くは大統領の権限を侵すものとして戦争権限法は違憲だとする対場を取ってきた。トランプ大統領も同様だと見られる。また、戦争権限法には継続性のある戦争行為には適用されるが、単発的な作戦には適用されない。そのため、今年4月のシリアへの空爆もトランプ大統領の独断で行われた。議会の中には、グレーゾーンの中で大統領に権限が集中することを危険視する動きもあり、今年1月には大統領が議会の承認なしに核兵器を先制的に使用することを禁じる法案が提出されるなど、大統領と議会の綱引きが続いている。

◆大統領権限のボーダーラインは「先制攻撃」
 一方、オバマ政権化で国防副次官補を務めたレベッカ・ハーズマン氏はWPに「大統領は責任を持って迅速に対応する必要がある」と語り、議会が大統領の核ミサイルの発射権限を過度に削ぐのはアメリカにとって非常に危険だと指摘している。同氏は、アメリカが大統領の独断で核ミサイルを発射できることにしているのは、実際にそうすることが目的だというよりは、他の核保有国への牽制の意味があるとしている。

 一方で、ことトランプ大統領に限っては、核使用の権限を与えるべきではないという意見もあるようだ。ガーディアンのフリードランド氏は、トランプ氏は核兵器の使用に積極的な危険思想の持ち主であると主張。大統領選中の外交専門家との会談では「持っているのになぜ核兵器を使えないのだ?」と1時間に3回も問いかけたというエピソードを紹介している。CBSの最新の世論調査によれば、61%のアメリカ人がトランプ大統領の北朝鮮危機への対応を不安視している。

 WPは、核使用に対する大統領の権限のボーダーラインは「先制攻撃」にあると見る。つまり、現状では、「疑わしきは叩く」という発想で行うイラク戦争のような予防戦争や事前に敵ミサイル基地を叩く先制攻撃には、議会の承認が必要だが、敵が先に攻撃してきた場合は、通常攻撃であろうが核攻撃であろうが大統領の独断で報復できるという解釈だ。議会の強い意思があれば、この権限を弱めることも可能だが、「彼らはそれを望まないかもしれない」とWPは書く。一方、核兵器廃絶運動「グローバル・ゼロ」の提唱者、ブルース・ブレア氏は前出のWPへの寄稿を、「アメリカは、核を先制使用しないことを公式に表明するべきだ。そして、究極的には、核保有国全ての唯一の真の解決策は、核を完全廃絶する『グローバル・ゼロ』だ」と結んでいる。