『わたしのかたち 中村佑介対談集』(青土社)

写真拡大

 繊細なタッチで描かれる美少女と花鳥風月…。イラストレーター・中村佑介と聞けば多くの人が彼の画風を思い浮かべることができるだろう。中村のイラストが魅力的だからなのはもちろんだが、それ以上にイラストを目にする機会が本当に多い。CDジャケットから書籍の表紙まで、数多くの仕事を手がける中村は間違いなく現代日本を代表するイラストレーターである。

 そんな中村が「天才に会いたい」という願望をかなえるため、さまざまな雑誌で行ってきた対談企画が一冊にまとめられた。『わたしのかたち 中村佑介対談集』(青土社)では13人のクリエイターと中村の創作に関する深い話が読める。中村やそれぞれのクリエイターのファンだけでなく、仕事にまつわる姿勢で刺激を受けたい社会人にもおすすめである。

 本書で対談相手に選ばれているクリエイターのジャンルはさまざまだ。そして、対談相手によって盛り上がるポイントも変わる。たとえば、中村が強い影響を受けたという漫画家の山本直樹とは、描線のフェティシズムについて深く語り合う。美少女の描き手として有名な二人が、手描きやパソコンの違いを挙げながら、「スケベ」について共感しあう様子が面白い。

 イラスト界の大御所である和田誠との対談では、中村といえども圧倒され気味だ。和田から「昔は絵も描くし、デザインもするというのは普通」「線画は1時間くらいで、色指定は30分もあればできる」などの発言がサラッと出てくるあたり、中村の希望通りに「天才」を感じられたのではないだろうか。

 大学時代の同級生である漫画家・石黒正数とは友人同士のざっくばらんな話が聞けて楽しい。大学時代からお互いの作品を意識していた二人だが、デビュー後も石黒は中村の仕事ぶりが気になって仕方なかったという。石黒が漫画家として芽が出なかった間に、中村は人気イラストレーターの階段を上っていった。「毎日毎日佑介のことを考えていた」と強烈なライバル意識を口にできるのも、青春時代を共に過ごして才能を認めあう仲だからこそだろう。

 中村とクリエイターたちとの対話を読んでいて気づかされるのは、オリジナリティーの塊のように見えた中村の画風も、膨大な影響のもとに確立されていたということだ。中村は林静一の美少女画に衝撃を受け、わたせせいぞうの絵から「ストーリー性」を学び、奥浩哉の途切れない創作意欲に刺激を受けてきた。「天才」を作り出すのもまた、「天才」の存在なのである。本書を読んでいると、他人の行動に心を動かされ、素直に取り入れていく姿勢の大切さを確認できる。

 そして、中村佑介といえばASIAN KUNG-FU GENERATIONである。中村はアジカンがデビューしてから全てのCDジャケットのイラストを手がけてきた。アジカンの音楽世界を語るうえで中村の存在は欠かせなくなっている。これほどまでにミュージシャンとイラストレーターが密接な関係を構築しているのは、世界的に見ても稀なケースだろう。本書の最後は、アジカンのフロントマン、後藤正文との対談で締めくくられている。

 アルバムを出すたびに解散を口にするほどの苦悩を抱えながらバンドと向き合う後藤、自分のイラストがアジカンのイメージを固定していないかと迷っていた中村、畑の違う二人だが「音楽作品を残す」という一点で思いはつながっている。ネガティブな感情も洗いざらい吐き出しあえる二人は、ただの友人を超えた戦友だといえるだろう。

 ASIAN KUNG-FU GENERATIONは2004年にリリースしたアルバム『ソルファ』をレコーディングし直し、2016年に再リリースしている。このとき、中村も2004年版のアートワークをもとにしてジャケットや歌詞カードの修正を施した。より繊細に、ユニークになった2016年版のイラストは中村が進化を続けている証でもある。中村のエネルギッシュな創作活動の原動力が、本書からは読み取れるだろう。

文=石塚就一