数多くの居酒屋が立ち並ぶ名駅南界隈でも屈指の老舗だ

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戦後間もない1948(昭和23)年ごろに創業を果たした名駅南の「柳ばし 角重(かどじゅう)」。一時代を築いた有名力士や大相撲名古屋場所の関係者にも愛されてきた名物のちゃんこ鍋をはじめ、焼鳥や天ぷら、刺身など豊富なメニューで人気の老舗居酒屋だ。

【写真を見る】具材は豚肉、鶏肉、エビ、つくね、厚揚げ、白菜、こんにゃく、ニンジン、ゴボウなど。代々受け継がれてきたダシ汁が、おいしさの秘密だ

■ 昭和の番付表や手形など相撲にまつわる記念品が多数

年季の入った引き戸をガラッと開けてまず目に入るのは、昭和50年代の番付表や有名力士の写真など相撲にまつわる記念品の数々。25年ほど前に内装を改修したというが、そうした記念品は昔のまま(座敷席のある2階にも、たくさんの手形やサインがズラリ!)。まるでタイムスリップしたような気分にさせられる。

「この店をはじめた祖父が相撲部屋の後援会に入っていた関係で、贈り物としていただいたり、名古屋場所の呼出(よびだし)さんが店に寄るついでに持ってきてくれたり。そういったものを飾らせてもらっているんです」と話すのは、3代目店主の中田正吾さん。20代から父の見習いとして厨房に入り、今年で54歳になるというベテランだ。

■ 創業当時から変わらない秘伝のダシ汁

名物の「角重特製ちゃんこ鍋」(1人前2160円)は、2人前から注文できる。「うちは居酒屋なので専門店というわけではないのですが、店ができた当初からメニューにあったと聞いています」と中田さん。創業当時といえば、ちゃんこ鍋がまだあまり一般的ではなかったころ。初代店主が相撲部屋の後援会の集まりで初めてちゃんこ鍋を口にし、そのおいしさに感動したことが、メニューに取り入れるきっかけになったという。

ダシ汁はカツオダシ、醤油、麹味噌、黒胡椒など7〜8種類の調味料をブレンド。初代店主が試行錯誤を重ね、やっとの思いで作り出した味である。一番の特徴は黒胡椒によるスパイシーな風味。代が変わっても、このダシ汁の味だけは大切に守り続けているという。

一方、焼鳥や天ぷら、揚物など、ちゃんこ鍋以外のメニューも豊富だ。特に人気が高いのは刺身(マグロ864円ほか)。柳橋中央市場から徒歩圏内という立地のよさもあり、信頼できる馴染みの店から毎朝取り寄せた新鮮なものだけを使っている。

カウンターの上には季節の野菜などを使った日替わりのおばんざい(1品432円)も並ぶ。毎日5〜6種類を作っており、優しい家庭的な味付けが店のもう1つの名物となっている。

■ 父から子へ受け継がれる店の伝統

酒のオススメは知多半島の酒造会社「盛田」から直送されてくる「無濾過吟醸」(グラス756円)。無濾過のため、しぼりたての生の味わいが楽しめる。「特に寒い季節は、ちゃんこ鍋との相性が抜群」と中田さんも太鼓判を押すおいしさだ。

店は名古屋駅から徒歩数分。そのため、客は会社帰りのサラリーマンが中心だ。時には長年の常連が定年の挨拶に来ることも。「わざわざ足を運んでくれて『長い間、お世話になったね』なんて言われると、思わずホロッときちゃうこともありますよ」と中田さん。息子の竜馬さんは、そんな父の背中を見ながら、客を大切にする姿勢など日々多くのことを学んでいるという。

今年で創業から約70年。今も大相撲名古屋場所が開かれる季節になると、現役の力士が来店することも珍しくないという。昭和の雰囲気を色濃く残した店内で、一般の客も力士も分け隔てなくおいしい料理と酒を楽しみ、1日の疲れを癒す。そんな「柳ばし 角重」の日常が、これからも変わらずに続いていくことを願ってやまない。【東海ウォーカー/藤原均】