[写真]8月14日、反発を受けトランプ大統領は白人至上主義を批判する声明を発表した(ロイター/アフロ)

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 アメリカ東部バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者とそれに抗議するグループが衝突した事件をめぐり、トランプ大統領の発言が批判を浴びています。またこの衝突の後、各地で南北戦争の南軍司令官らの銅像を撤去する動きも相次いでいます。白人至上主義はなぜアメリカで容認されないのか。アメリカ政治に詳しい上智大学の前嶋和弘教授に寄稿してもらいました。

白人至上主義と「オルトライト」

 バージニア州の事件以降、「白人至上主義」という言葉が全米だけでなく世界中の注目を集めている。白人至上主義とは何を意味し、なぜアメリカ社会はここまで忌み嫌うのか。これについて考えてみたい。

 白人至上主義(ホワイト・スープレマシズム、ホワイト・ナショナリズム)とは、白色人種こそ最も優れた人種であるという白人優越思想の考え方である。「白人は神に選ばれた人種であり、それ以外は劣等な悪魔の子」であるという人種差別の立場をとる。

 白人至上主義者のグループとして挙げられるのが、KKK(クー・クラックス・クラン)やネオナチである。KKKはアフリカ系へのリンチを続けてきたアメリカ社会の暗黒部を象徴するようなグループである。そのリンチには、家への放火や外を歩いている黒人を集団で撲殺したり、列車にひかせるような実に凄惨な手口も含まれている。ネオナチはナチズムを復興しようとする運動の総称であり、外国人排斥・同性愛嫌悪などを掲げている。反ユダヤ主義的な思想や有色人種への強烈な偏見が行動原理となっている。

 もちろんそうした人たちの数は全米的には少ない。KKKの場合、トレードマークともいえる頭部全体を覆う三角白頭巾を被り、全身白装束に身を包むのは、反社会的な行動のため、自分たちの顔をさらしてはいけない秘密結社の証であった。

 ビリー・ホリデイの有名な「奇妙な果実」という歌のタイトルの「果実」とは、木にぶら下がる黒人の死体のことである。この歌のモチーフになったのは、強盗容疑の二人の黒人が白人群衆にリンチされ殺された1930年のインディアナ州での事件だが、白人至上主義への警鐘として広く世界的に知られている。白人至上主義者というレッテルはアメリカ社会では忌み嫌われる存在あり続けた。

 この2つのグループとともに、今回の白人至上主義のデモの立役者となったのが「オルトライト」運動である。「オルトライト」という言葉はかなり包括的で、ネット上のサブカルチャー的な扱いであったこともあったが、昨年の大統領選挙でトランプ氏を支持することで広く知られるようになった。今回のデモには「オルトライト」運動の主導者であるリチャード・スペンサー氏も参加していたほか、デモに反対していた女性を車でひき殺した若者は「オルトライト」と自称している。「オルトライト」系といわれる保守系ネットメディア「ブライトバート」もKKKなどに比べるとマイルドにみえるが、反ユダヤ主義的な傾向は明らかに見える。その分、運動そのものが大きくなっている。

 今回のデモは、南北戦争(1861〜65年)の南軍司令官ロバート・リー将軍の銅像の撤去計画に反対することを名目で集まった。しかし、実際は全米から銃や盾を持った白人至上主義者が集結。最初から大きな騒ぎにさせることを狙い、人種問題を歴史問題にすり替えた武装集団運動であった側面が強い。その狙い通り、運動は大きくなっていった。

「パンドラの箱」を開けた?

 白人至上主義に対して、アメリカの歴代大統領はかなり慎重に対応し、KKKの活動などを明確に拒否し続けてきた。昨年の選挙戦ではトランプ氏は「白人至上主義者」のレッテルを張られたくないため、白人至上主義団体のKKKのデューク元最高幹部との関係をきっぱりと否定していた。

 今回の事件に対して、トランプ氏は当初はどちら付かずの態度だったが、3回目となる15日の記者会見では「白人至上主義者らと反対派の双方に責任がある」とかなりの断言口調でまくし立てた。

 白人至上主義者擁護とも取れるこの発言で、一気に状況は変わってしまった。

 この発言以降、白人至上主義団体のKKKのデューク元最高幹部が「左派のテロリストたちを非難した大統領の誠実さと勇気に感謝する」「真実を語ってくれて感謝する」などとツイッターに投稿した。そのことでトランプ氏が次第に「白人至上主義」にみえてしまう。

 トランプ氏の発言の意図は分かりにくい。コアの支持者である白人ブルーカラー層がトランプ氏の頭をよぎったのかもしれない。アフリカ系などの貧困問題が大きくメディアで取り上げられる中で、“見えない存在”だったこの層を救うことに注目したのが、トランプ氏の当選の理由の一つだった。ただ、白人ブルーカラー層の中に白人至上主義者が必ずしも多いとはいえない。

 行進の際には、昨年の大統領選挙の際のトランプ氏の代名詞となった「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)と書いた赤い帽子をかぶっていた人もいた。トランプ氏の当選とともに、これまで表立って発言できなかったような人たちが、メインストリーム化しつつある。今回の白人至上主義のデモでは、KKKも自分の顔を全くと言っていいほど隠さなかった。多文化主義の流れが過去40年間次第に強まっていく中、それに抗う人々の反作用ともいえ、トランプ発言をきっかけに、さらにこの声は大きくなってくるのは必至だ。つまり、パンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。

「双方に責任ある」がダメな理由

 トランプ大統領の「双方に責任がある」発言は一見、「喧嘩両成敗」のようにも聞こえる。しかし、「差別的な白人至上主義はアメリカの暗黒部」「KKKは容認してはいけない」というこれまでのアメリカの一般的な言説からすると、両論併記は白人至上主義者擁護に他ならない。

 人種はアメリカにとって建国以来の最大の社会問題である。なかなか解決できない問題だ。だが、公民権運動に代表される反差別や平等主義、多元主義の流れは、過去40年以上の社会の大きく太いベクトルであった。もちろん、法的な平等がある程度達成されても、「皮膚の色」という問題は大きく、「心の平等」は程遠い。それが近年のアフリカ系に対する警察の過剰な対応についての反発なども生んできた。

 それでも平等に向けて、少しずつ困難を解決に近づけようと動いてきたのが、アメリカの現代史でもある。その精神はツイートの「いいね」の数で記録を作ったことで話題となっているオバマ前大統領のツイートが見事に象徴している。オバマ氏の13日の投稿は、南アフリカのマンデラ元大統領の言葉を引用して「誰も生まれながらに、肌の色や生い立ち、宗教によって他人を憎まない」「人は憎むことを学ばなければならない。憎しみを学べるのなら、愛を教えられる」とある。自分自身が黒人や白人の子供たちにほほ笑みかける写真が効果的だ。

 オバマ氏の今年1月の退任演説では「2歩前進するたびに、1歩後退しているようにいつも感じる。しかし、アメリカの長い道のりは、前進することで決められてきた。一部の人ではなく、全ての人を受け入れる建国の理念を常に広げていった」と述べた。

 今回の白人至上主義をめぐる一連の騒動は、今後も余波を広げていく。今回のトランプ氏の発言は、オバマ氏の目には間違いなく「1歩後退」にみえているであろう。

 ただシャーロッツビルの事件後に行ったワシントンポストとABCの最新の調査によると、「白人至上主義の主張は認められない」としたのは83%と圧倒的だったが、「容認できる」と回答した人が9%いた。この数字の解釈は難しいが、筆者の想像以上に多い。それだけ、アメリカ社会が変化しているのかもしれない。

辞任したバノン氏の意図

 白人至上主義デモをめぐるトランプ氏の一連の発言の余波が続く中、8月18日、大統領首席戦略官・上級顧問を務めてきたスティーブ・バノン氏が辞任した。辞任直前、首席戦略官のバノン氏はデモに参加した白人至上主義者たちを「道化師」とさげすんでいる。「オルトライト」系といわれる保守系ネットメディア「ブライトバート」の会長であったバノン氏のこの発言の意図も分かりにくい。

 想像するに、バノン氏がホワイトハウスで何よりもやりたかったのは、中国やメキシコとの貿易不均衡などから白人ブルーから層を守る「アメリカ第一主義」「経済ナショナリズム」だったのかと想像される。「白人至上主義者のメインストリーム化」ではなかったのかもしれない。トランプ氏も、トランプ氏の仕掛人も意図しない形で白人至上主義が膨れ上がってしまっているのかもしれない。そう考えると、今回のデモは何とも皮肉である。

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■前嶋和弘(まえしま・かずひろ) 上智大学総合グローバル学部教授。専門はアメリカ現代政治。上智大学外国語学部英語学科卒業後,ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA),メリーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(単著,北樹出版,2011年)、『オバマ後のアメリカ政治:2012年大統領選挙と分断された政治の行方』(共編著,東信堂,2014年)、『ネット選挙が変える政治と社会:日米韓における新たな「公共圏」の姿』(共編著,慶応義塾大学出版会,2013年)