「ママだって出かけたい」はワガママ?授乳期のお出かけは控えたほうが良いのか、産婦人科医に聞いた【特集:公共の場での授乳問題(7)】

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「公共の場での授乳」を語る時に投げかけられる「子どもが小さいうちくらいは家にいたら?」「赤ちゃんの感染症だって怖いでしょ」。授乳期のお出かけは、やはり控えたほうが良いのでしょうか。

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産婦人科医で【母乳110番】の顧問も務める村上麻里先生に聞きました。

産後ママのお出かけはとにかくダメ?産婦人科医&【母乳110番】顧問が徹底解説!

――「公共の場での授乳」が問題視される時に「なんでそんなに“出かけたい”の?」「赤ちゃんのためにも授乳期くらい家でおとなしくしていたら?」という厳しい意見が寄せられることがあります。

ママのひとりとして困惑してしまうのですが、村上先生は産婦人科医として、また【母乳110番】顧問として、どのようにお考えになりますか。教えてください!

村上麻里先生(以下、村上):「産後の外出」については、外来でもよく聞かれる質問です。

「とにかくダメ!」という意見もありそうですが。

そんな人には「じゃあ赤ちゃんが幼児になるまで、ずーーーーっと家に籠もっていろ、ということか!?」と突っ込みたいですね。

――お医者様から、まず「出かけてもいい」と伺えて、ちょっとホッとしました(笑)。では具体的に、いつ頃から、どんな風にお出かけを楽しんだらいいのでしょうか。

村上:いつまでならダメで、いつからOKというものは、簡単には決められません。

お産も、赤ちゃんも、ママの身体もそれぞれですから。

ひとつの基準として、産後の1カ月健診は「家から病院まで出かける」機会です。

母体については、少なくとも出産後1カ月は横になって寝ている時間を取り、緩んだ骨盤や筋肉の回復を待ちたいです。しっかり休んで、腰痛や恥骨痛、尿漏れなどが残らないようにしたいですね。

でも、人によっては身体が戻るのに2カ月くらいかかります。その間は、家事も、お出かけも無理しない範囲で、になるでしょう。

あまりにずっと家にいてばかりで、誰かに相談もできず、育児の手伝いもいない状態が続くと、産後のウツも心配されます。孤独な子育ては一番しんどいです。周りから声を掛けてもらって、安心するママは多いのではないでしょうか。

とはいえ、外来や【母乳110番】など現場のママたちの声からは、外出で安心するのではなく「よその親子と比較して落ち込む」例や「余計な一言に落ち込む」例も聞きますから、これもケースバイケースでの判断になると思います。

赤ちゃんのお出かけはいつから?どこまで?ママたちの質問に見られる傾向とは?

――ママのメンタルの問題とともに心配されるのが、赤ちゃんの身体への影響ですが、そちらについては如何ですか。

村上:赤ちゃんについては、感染症を心配されることも多いのですが、家にいてもパパが風邪をもらってくることもありますよね?

ですから「家にいる=安全」「外出する=危険」とは、言い切れません。

ママだってインフルエンザが流行している時期に、赤ちゃんを連れて人混みの中を長時間出歩くなんてしないでしょう?

――では、逆に「出かけたほうがいい理由」というのはありますか。

村上:赤ちゃんが適度に日光に当たると紫外線の働きでビタミンDが作られます。ビタミンDは骨を作るのに必要ですし、免疫力が高まることも注目されています。

社会性の発達にも良さそうですが、何カ月に何分出かけると発達に差がみられる、といった医学的データはないと思います。この点についてはママの身体やメンタルと同様、人それぞれでしょうね。

――ママにも赤ちゃんにも「個人差」があるんですね。ママと赤ちゃんの数だけ、子育ても千差万別ということでしょうか。

村上:そのとおりです。

でも最近は“マニュアル”が欲しい人が、とても多いんですよね。“答えだけ”を求められるんです。

お出かけの話になると「では月齢何カ月は何時間なら大丈夫なんでしょうか」「どこまでだったら良いですか」って聞かれます。「TDLは、いつならいいのか」とか。

おそらく、ママのこれまでの経験として、テストの解答であったり、仕事の企画運営だったり、一つの答えが決まっている、段取りを決めればその通り進む、ということしかなかったのかと思います。

自分の身体を意識したことがない。人から言われるがままで、自分の意思で自分の身体を使ってこなかったというか。

また、ネットで調べた変な情報は詳しいのに、基本的な知識がない、というバランスの悪さを感じることもあります。妊娠や出産、産後のことだけでなく、月経、避妊など、リプロダクション(生殖)全般にいえることなんですけどね。

――“マニュアル”や“答え”を求めたり、そのために膨大な“情報”を集めたりしながら、その一方でリアルな知識や感覚が不足していて自分が選ぶ道を見失ってしまっている……もしかすると「公共の場での授乳」問題とも、根っこの部分でつながっているのかもしれません。

村上:だからこそ今、公共の場で「授乳する」or「しない」ではない「第三の選択肢」が必要なのではないでしょうか。

公共の場で「授乳する」or「しない」ではない「第三の選択肢」を探してみて!

村上:子育ては、個人にとってキョーレツな印象が残るので、おばあちゃまや先輩ママが厳しい意見を出すこともありますよね。「自分の時はこうだったの!」って固執しがちというか。

ほかにも芸能人の方々が、間違った情報を広く発信してしまうこともありますし……。

そういった、上の世代の個人的な偏った答えや、誤ったインフォメーションのせいで、ますます生(ナマ)の情報から遠ざかってしまう。

ほかにも気になることとして、女性しかいない場でも、授乳ができないお母さんが増えているようにも感じています。

産婦人科医として、母乳相談や赤ちゃんとママの集まりなどに伺うのですが、そういう場所でこちらが「自由に授乳してくださいね」と言っても、グズった赤ちゃんを抱っこして立ち上がって、歩き回ってなだめるママが少なくないんですよ。

さんざん粘って赤ちゃんが大泣きしてから、ようやく授乳を始めるけれど、ケープを出したり、隅っこで後ろを向いたり、もう大変な感じです。

母乳はわざわざ作る手間がなく、すぐにあげられるのに。

むしろ、ミルクを持ってきている人のほうが、段取りよくサッと出して飲ませて、赤ちゃんも静かです。

恥ずかしいと感じているのか、はたまた赤ちゃんが欲しい時に準備不要で即あげられる“楽ちん母乳育児”のメリットを知らないのか……これは私にも分からないのですが、この数年でしょうか、こんな感じのお母さんが多いですね。

――あふれる情報とともに、社会も、またママ自身も、以前とは比較にならないくらい多様化しているのかもしれません。

村上:だからこそ、公共の場で「授乳する」or「しない」ではない「第三の選択肢」の巻〜♪なのです(笑)

本当のところを言えば、自分と違う考えに対する寛容さが必要なんですけど、でも、残念ながらみんながそうではないですよね?

だから、批判の目をさらっと受け流しつつ、自分の“楽ちん”も叶えつつ授乳できる「第三の選択肢」が要るのではないかな、と思うわけです。

その筆頭が周囲から気づかれずに授乳することのできる「授乳服」で、個人的にはコレさえあれば何とかなる!とすら思っています。

ほかにも選択肢はあると思いますが、悩めるママには、ぜひいろんな対策を試していただきたいですね。

また最近では、産後の大変さをツイッターでおもしろく、分かりやすくマンガにしている方たちもいて、そういう現実的な情報が、ほかの世代や、育児に直接関わりのない方たちにも伝わる機会になるかもしれません。

ママと赤ちゃんの“リアル”を知ってもらえれば、それと、そこに“おもしろさ”もあることが分かれば、当事者でなくても入りやすくていいですよね。こんな動きも、広がってゆくといいですね。

――産後のママにとって、村上先生の「じゃあ赤ちゃんが幼児になるまで、ずーーーーっと家に籠もっていろ、ということか!?」という突っ込みは、力強いエールになると思います。さらに公共の場で「授乳する」or「しない」ではない「第三の選択肢」を探す、という視点にも心が軽くなりました。

では今日のインタビューの最後に「公共の場での授乳」問題に悩むママたちへ、あらためてメッセージをいただけますでしょうか。

村上:お出かけ先では「スマート授乳」を提案します。

「赤ちゃんがいるのだから公共の場で授乳して何がいけないの?」ではなく、「とにかく隠して隠して授乳室のある所にしか行きません!」でもなく、無理のない方法を考えてみませんか。

ママも赤ちゃんも自然体で、スマートな授乳は、「楽に・楽しく・美しい」生活をきっとかなえてくれると思います。

記事企画協力:光畑 由佳

【取材協力】村上 麻里(むらかみ まり)先生 プロフィール

産婦人科専門医。【母乳110番】顧問。「母乳育児の指南書」の決定版とも評される『おっぱいとだっこ』(竹中恭子著・PHP電子)では監修も務める。実戦的な母乳育児の講演は各地で好評。都内の産婦人科クリニックに勤務。三姉妹の母でもある。