主砲のケインが決定機を決めていれば、ウェンブリーでのホーム初戦の結果は大きく変わっていたに違いない。 (C) Getty Images

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 トッテナムは、現地時間8月20日にチェルシーとのプレミアリーグ2節をウェンブリースタジアムで戦った。
 
 指揮官のマウリシオ・ポチェティーノが、観戦プログラムのコラムで「ようこそウェンブリーへ」と観衆を煽ったことからも分かるように、巷では、チェルシーとのロンドン・ダービーであること以上に、新スタジアムを建設中のトッテナムが、“借家”でこなす初のプレミアリーグでのホームゲームとして注目されていた。
 
 トッテナムのウェンブリーでの戦績は、国内カップ戦や昨シーズンの欧州カップ戦などを含めた過去10試合で2勝7敗1引分けと黒星が先行。広いピッチがプレッシング・サッカーを身上とするチームには不利という見方もあり、試合前のメディアには「呪い」や「苦悩」といった言葉が目立った。
 
 そんななかで迎えたチェルシーとの一戦が、8度目の敗戦(●1-2)に終わると、翌朝には人気大衆紙の『サン』や『ミラー』のスポーツ欄1面に、『アーチ・エネミー(最大の敵)』という見出しが躍った。スタジアムのシンボルであるアーチと、チェルシーがウェンブリーでの対決で通算4度目の勝利を挙げた相手であることにかけたものだ。
 
 しかし、外野がどれだけ苦手意識を煽っても、試合後にポチェティーノが質問を一笑に付していたように、トッテナムの惜敗の原因は「ウェンブリーだから」というものではなかった。
 
 試合前には、128年に渡って愛用してきたホワイト・ハート・レーンよりもピッチと客席の距離が遠いスタジアムで、観衆が生み出す相手チームへの威圧感が弱まる点も危惧された。無論、スタンドにはアウェー・サポーターの数も以前より増えていた。
 
 とはいえ、その数はホーム側の7万人に対して3500人程度。開始を告げる笛とともに、ホワイト・ハート・レーンの2倍近いトッテナム・ファンが応援歌『The Spurs Go Marching(スパーズの行進)』を歌い上げたホームゲームらしい雰囲気は、鳥肌ものだった。
 
 チェルシー指揮官のアントニオ・コンテは、勝利したことも相まって「最高の雰囲気だ」と、ウェンブリーでの試合を歓迎した。しかしそれは、チェルシーが幾度となくカップ戦の準決勝や決勝を戦い、ウェンブリーに対して耐性があるからだ。そうでなければ、あの会場のムードに飲まれるケースも十分に考えられた。
 そして何より、ウェンブリーのピッチでも、トッテナムはトッテナムらしく攻勢を続けていた。
 
 主力の怪我と出場停止も重なって駒不足のチェルシーが、3バックの手前に3ボランチを置く、ポゼッションを捨てた3-5-2の布陣で臨んでいたとはいえ、内容的に勝者となるべきはトッテナムだった。
 
 82分の同点弾は相手のオウンゴールによるものだが、そのミチ・バチュアイに頭を出させたクリスティアン・エリクセンのFKは、そのシーンのみならず、常に危険度が高かった。
 
 エースのハリー・ケインも、中央からのミドルや右サイドから持ち込んでのシュート、さらにポストを叩いた左サイドから対角線を狙った一撃など、頻繁に決定機を作り出していた。
 
 もし、彼がトッテナムでの通算100ゴール目を決めていれば、“ホーム”は更に盛り上がっていたはずで、結果も変わっていたのではないだろうか?
 
 2失点はいずれも、個人のミスが重なった不運だったと言える。
 
 マルコス・アロンソに完璧なプレースキックを披露された1点目は、デレ・アリの軽率なファウルによるもので、同じくM・アロンソの2点目も、ヴィクター・ワニャマがタッチを誤ってボールを失い、シュートがGKウーゴ・ロリスの脇の下を抜けたもの。それだけにトッテナムとしては、勝てたはずの“借家”でのホーム初戦だったのだ。
 
 ポチェティーノは試合後に「結果は悔しいが、パフォーマンスには満足だ」と胸を張り、ミックスゾーンではロリスも「許してはいけない得点を許した」と潔く語っているが、チームにネガティブな雰囲気はなかった。
 
 シーズンはまだ2節を終えたばかりだ。3ポイントは失ったが、堂々とホームゲーム初戦を終えたトッテナムは、世間が騒ぐ「ウェンブリー・ファクター」など、心配無用といった自信を得たに違いない。
 
文:山中忍
 
【著者プロフィール】
やまなか・しのぶ/1966年生まれ、青山学院大学卒。94年渡欧。イングランドのサッカー文化に魅せられ、ライター&通訳・翻訳家として、プレミアリーグとイングランド代表から下部リーグとユースまで、本場のサッカーシーンを追う。西ロンドン在住で、ファンでもあるチェルシーの事情に明るい。