札幌に加入したチャナティップはいつも笑顔を絶やさない【写真:Getty Images】

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札幌で輝く“チャナ”。J1の舞台で躍動

 この夏、北海道コンサドーレ札幌に加入したタイ代表MFチャナティップ・ソングラシン。東南アジアの強豪ムアントン・ユナイテッドやタイ代表で絶対的な地位を築いていたアタッカーは、さらなる成長を望んで日本の地を踏んだ。そしてすぐさま周囲の信頼をつかみ、可能性を感じさせるプレーを連発している。(取材・文:舩木渉、協力:本多辰成)

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「自分としては、今日はこれまでで一番いいプレーができたんじゃないかと思う」

 敗れた後にもかかわらず、チャナティップ・ソングラシンは屈託のない笑顔でメディアの取材に応じる。19日に行われたJ1第23節、川崎フロンターレ対北海道コンサドーレ札幌が終わった後のことだ。

 ムアントン・ユナイテッドから加入し、5試合連続の先発出場。母国タイでの愛称は「ジェイ」だったが、札幌には同じタイミングで元ジュビロ磐田の「ジェイ」・ボスロイドが加入したため、周囲からは「チャナ」と呼ばれ親しまれている。

 スタンドから見ていても、ひときわ小柄なチャナティップはよく目立つ。そしてプレーにもまた、人を惹きつける魅力がある。もはや札幌の攻撃の中心的存在であり、加入間もないにもかかわらずピッチ上で攻撃のスイッチを入れる重要な役割を担うまでになっていた。

 札幌の四方田修平監督は「彼自身の良さ、テクニックを生かして相手のブロックの中でボールを展開できたりですとか、スピードを生かして局面を打開して、得点場面につなげていく、そういったところがしっかりとJ1というリーグの中で出せている」と、背番号18のタイ人アタッカーを高く評価している。

 川崎F戦では特に後半、チャナティップの個人能力の高さが強調されていた。前半から相手のタイミングを外す絶妙なスルーパスや果敢なドリブル突破で劣勢を打開しようと試みていたが、ボールを受けられる回数も少なく、輝きは限定的なものだった。

 もう1人の「ジェイ」、つまり長身のイングランド人ストライカーは「前半は1トップで難しかった。ロングボールが僕のところにきても、2人のDFが背後にいて、守備的MFが僕の前にいて、囲まれていたからボールをキープするのが難しかった」と振り返る。

“10番”で花開くチャナティップのポテンシャル

 札幌は前半、3-4-2-1の布陣で臨み、都倉賢とチャナティップが2列目に入っていた。だが流れは悪く、前線が有機的に絡んでチャンスを作る場面はほとんどなし。後半に入ってジェイと都倉の2トップに切り替え、チャナティップがトップ下に入ってから徐々に流れが変わる。

 3バック気味にビルドアップする川崎Fの最終ラインに対し、より高い位置からプレッシャーをかけられるようになり、札幌はチーム全体を前に押し出してカウンターという強みを発揮しやすくなっていった。

 そこでチャナティップが可能性を感じさせるプレーを連発した。札幌の左ウィングバックを務めた石川直樹は「彼が前向きにボールを運べている時は、勢いがすごく出ている時」と、背番号18がチームの出来を左右するバロメーター的な意味合いを持つと話す。

「チャナをただ1人でドリブルさせないで、周りでサポートしてあげられるだけでも違ってくると思う。後半は特に真ん中付近ですごくボールを持てていたので、そういった部分をもっと生かしてあげたい」

 この指摘は非常に重要だろう。チャナティップは多彩なドリブルやパスのパターンを持っている選手。ドリブルだけでも、相手の守備網を割っていくドリブル、ボールを運ぶドリブル、ボールをキープするドリブル、パスコースを作るためのドリブル…非常に多くの形がある。

 視野の広さや独特のテンポ、パスやドリブルの技術の高さをチーム戦術の中で100%活かしきるには、周囲の理解が不可欠なだけでなく、ピッチ上で選手の距離を今よりも近くして、互いに連動しながらプレーの最適解を見つけていくことが必要になる。札幌は守備的に戦う展開が多くなることもあって、チャナティップと周囲の選手との距離はまだ遠い。

「なんであんないい子なんだろう」と中村憲剛も驚く人柄の良さ

 本人も「できるだけ多くボールを受けたいタイプの選手」と語り、「もっとボールがほしい(笑)。チョーダイ、チョーダイ、ボールチョーダイ」と日本語を交えてアピールしていた。ボールを持っていれば類い稀な創造性を発揮できるのは、これまでの5試合で証明済みだ。

 もちろんチームメイトたちからボールをもらうために努力も怠らない。「日々、コーチやスタッフから一生懸命学びながらやっているし、これからも学び続けなければいけないと思っている。試合に出てプレーするには、みんなから信頼されることが大切ですから」とはチャナティップの言葉。

「あまり考えすぎずに、ボールを持ったら自分のやりたいようにプレーしたらいい」という先輩・小野伸二からのアドバイスもプレーに生きているようだ。とにかく非常に勤勉で、日本での経験を心から楽しんで、あらゆるものを吸収しようとしている。

「最初から本当に、特に不安はありませんでした。幸せを感じてやっています」という言葉にも嘘はないだろう。とにかく明るく朗らかで笑顔を絶やさない。

 “微笑みの国”からやってきた人柄の良さは川崎Fの重鎮・中村憲剛も認めるところだ。「いい子なんだよ。リスペクトしてくれているんだよね、たぶん。ユニフォームも『交換してくれ』って言われたのでしたし、なんかね、ちょっと嬉しいですね。いい子なんだよ、マジで。悪意がなさすぎて…なんであんないい子なんだろう」と札幌戦の後に話していた。

 確かにチャナティップは試合を終えて一度ロッカールームに戻ると、通訳をともなって川崎F側のエリアへと入っていった。その後、戻ってきた彼の手はスカイブルーのユニフォームを握りしめ、顔には満面の笑み。嬉しそうに自分たちのロッカールームへ帰っていった。

 中村憲剛は言う。「もともといい選手ですからね。速いですし、パスも出せますし、これから日本にフィットしていったらもっともっといい選手になる」と。チームメイトのジェイも「僕とはいい連携を築けていると思う。10番らしいプレーをするね。後半、ボールをもらって何度もいいプレーを見せていた。上手いよね。試合ごと、練習をするごとに良くなっていくと思うよ」とチャナティップのポテンシャルに太鼓判を押す。

東南アジア出身選手の先駆者として。チャナティップが担う重要な役割

 これまで札幌は元ベトナム代表のレ・コン・ビン、インドネシア代表のステファノやイルファンといった多くの東南アジア出身の選手を獲得してきた。しかし、彼らの挑戦はお世辞にも成功したとは言い難い。

 一方でチャナティップは、東南アジアの強豪タイにおける英雄的存在であり、国内No.1プレーヤーという評価をもって札幌にやってきた。実績だけでも過去に在籍した選手とは一線を画し、実際のプレーを見ても大いなる可能性を感じさせられる。

 まだ5試合をこなしただけだが、テクニックとプレービジョンはJリーグでも屈指のものを持っているだろう。小柄な体格も技術とひらめきでカバーして、J1でコンスタントに出場を重ねる姿は、東南アジアサッカー界の希望となる。彼自身が先駆者として後進に道を拓いていくことになるかもしれない。

「上手い選手は何人もいる。でもチャンスがまだない。チャンスさえあれば、日本に来られるレベルの選手はタイには何人もいると思う」とチャナティップは主張する。

 タイ国民だけでなく、そういった実力がありながらチャンスを得られない選手たちの期待も背負っている。自分の活躍しだいで「タイ人選手」のブランド価値が決まってしまう可能性もある、というプレッシャーの重さは計り知れない。

 それでもチャナティップは大ブレイクの予感を漂わせている。笑顔の裏で何を思っているか、我々が不用意に推し測ることはできないが、慣れない環境に馴染むことにも意欲的で、とにかく貪欲に新しいことを吸収しようとする彼の姿勢からは、明るい未来が透けて見えてきた。

(取材・文:舩木渉、協力:本多辰成)

text by 舩木渉