水を売る?夏限定、江戸時代のおもしろ商売「冷や水売り」を詳しく解説

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江戸時代、夏の間だけ多く出回った「冷や水売り」。彼らは白玉入りの冷たくて甘い水を売り歩きました。井戸で汲んだ冷たい水をたっぷり入れた桶やら荷を担ぎ町の辻々に現れては、真鍮製や錫製の椀に冷や水を汲んで、1杯4文で売ってくれるのです。

楊洲周延「時代かゞみ 弘化之頃(部分)」国立国会図書館蔵

楊洲周延が描いた冷や水売りの一コマ、「あいよ、冷や水1杯!」「わーい!」・・・なんていう水売りと坊やのやりとりが聞こえてきそうです。

冷や水売りの商売は元禄以前からあり、相場は4文ですが「お砂糖増し」を注文すると8文、「増し増し」は12文など、特注オーダーには柔軟に対応してくれたようです。まるで現代のラーメンみたいですね。椀が金属製なのは陶器よりも冷たく感じるからで、日本人らしいこまやかな心遣いがうかがえます。

「水売りの 一つか二つ 錫茶碗」

という川柳にあるように錫茶碗は数が少なく、お砂糖増しを注文してくれた客にだけ出す、ちょっと特別な器だったようです。

「ひゃっこい、ひゃっこい」というのが彼らの売り文句。水道も氷もなく暑さでぐったりしているところに、この「ひゃっこい」が聞こえてくれば、皆こぞって表に買いに出て、日陰でぐいっと飲み干したことでしょう。

歌川国貞「當盛六花撰 紫陽花(部分)」ボストン美術館蔵

この浮世絵では男性の手に「白玉入り冷や水」が見え、白玉といっても白いものだけではなく、紅で色づけされているものも入っています。他の浮世絵でも赤や黄に彩られた白玉が見られ、とてもカラフルで涼やか。ただの甘い水よりも飲みたくなります。

ちなみに京都や大坂にも同じように冷や水売りがいましたが、白玉入りは江戸だけだったそう。なんだか江戸だけちょっとお得感があります。入っているのは基本的には白玉ですが、たまに葛入りや、上品な甘みの道明寺製の干し飯(ほしいい)入りの冷や水も売られたそう。どれもするりとのどを通るので、食欲のない夏にはぴったりですね。

これはさぞや江戸っ子たちも冷や水売りに助けられたことだろう・・・と思いきや、江戸時代に氷などないものだから、井戸から汲みたてこそ冷たいものの、炎天下を売り歩くうちにしだいにぬるま湯になってしまったようで、こんな川柳が残されています。

「ぬるま湯を 辻々で売る 暑いこと」

たとえぬるま湯でも「ぬるま、ぬるま」の呼び声ではお客さんも来ませんので、「ひゃっこい、ひゃっこい」と言って売っていました。そのまま売る方も太い奴ですが、買う方も粋な江戸っ子ですから、一口飲んで「おい、べらぼうめえ、ぬるいじゃねえかヨ!」なんて文句を言う野暮は居らず、黙って涼しいふりしてそのぬるま湯を飲み干したのでしょう。だからこそ、こういう諧謔的な川柳ができたのではないでしょうか。

また、当時は砂糖は高級品。原価が高くて割に合わないというので、砂糖以外の安価な甘味(水あめなど)でごまかしている冷や水売りもいたらしく、こんな川柳も残っています。

「水売りの 砂糖何だか 知れぬなり」

現代でも、食品の原材料のごまかしが稀に発覚したりしますが、当時の江戸っ子たちも、けっこう怪しいことをしちゃっていたようですね!現代なら大問題に発展しますが、江戸時代では川柳になるくらいで済んだというのが、当時は寛大だったんだなあと江戸のおもしろみを感じさせてくれます。