高齢者のがんでは手術も抗がん剤もハードルが高い

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〈75歳以上のがん「治療せず」多く〉(8月9日付産経新聞)──国立がん研究センターが公表したデータが大きな反響を呼んでいる。全国の「がん診療連携拠点病院」を中心に2015年のがん症例を集計したところ、75歳以上の患者は若い世代と比べて、治療しない割合が高かったのだ。

 例えば大腸がんの末期にあたるステージIVは、40〜64歳の「治療なし」は4.6%、65〜74歳は6.7%にとどまったが、75〜84歳は14.7%、85歳以上は36.1%まで増加した。

 浮かび上がるのは、高齢者のがん治療リスク、治療後のQOL(生活の質)への意識が徐々に変わってきている実態だ。国立がん研究センターがん対策情報センターの東尚弘・がん登録センター長が解説する。

「がん患者のうち75歳以上の占める割合は42%(2012年)で、10年で7ポイント増えている。75歳以上は合併症を抱えているケースも多く、手術や抗がん剤治療などによる治療成果や副作用がどの程度になるのかといった根拠が科学的に示されていない場合が多い。

 そのため医師側も治療に踏み切れないことが多いと予測されるのです。高齢患者の体への負担や苦痛、介護問題を抱える患者の家族が積極的治療を控えてほしいと願う傾向も窺えます」

 がんの3大療法は「外科手術」「抗がん剤治療」「放射線療法」だが、高齢者にはいずれもハードルが高い。

 特に抗がん剤治療では、今年4月、国立がん研究センターが「75歳以上の進行がんには効果なし」と報告した。70歳以上のがん患者約1500人を対象に抗がん剤使用の有無による効果を比べたところ、75歳以上の生存率に差がみられなかった。副作用も大きなリスクだ。

「高齢になるほど抗がん剤の有害な作用が強く出る。食欲低下による脱水症状や、手足のしびれからくる転倒や骨折など、深刻な結果を招きやすい」(国立がん研究センター東病院精神腫瘍科長の小川朝生医師)

 高齢者のがん治療は問題山積であるにもかかわらず、実は75歳以上のがん治療には統一された「治療ガイドライン」が存在しない。

「高齢者の治療は現場の裁量に委ねられ、各医療機関で独自に指針を作り、各医師が患者を診察して個別に“できる治療とできない治療”を判断しているのが実態です」(同前)

※週刊ポスト2017年9月1日号