「Thinkstock」より

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 7月24日、香川県は「うどん県。それだけじゃない香川県 プロジェクト」のPRイベントを開催。同イベントの記者会見には、うどん県副知事を務める俳優・要潤と女優・木内晶子が揃って登場し、香川県を大々的にPRした。

 いまや“うどん県”で一躍全国区になった香川県。その始まりは、6年前に遡る。当時、観光庁をはじめ地方自治体の、地元を対外的にPRする広報戦略はつたなかった。しかし、“うどん県”という奇抜なアイデアが奏功し、週末になると関西からもさぬきうどんを求めて香川県へと足を運ぶファンや観光客が増加した。

 うどん県の勢いはとどまることを知らないが、その一方で香川県はさぬきうどんだけで満足していない。さぬきうどん以外にも、オリーブや希少糖といった香川県が誇る農産品を多く抱える。特にオリーブは戦後から小豆島で栽培が始まっており、長い歴史を有する。それだけにオリーブオイルは知る人ぞ知る香川の逸品として知られていた。海外でも小豆島のオリーブオイルの評価は高く、抜群のブランド力を誇る香川県の特産品になった。

 だが、小豆島のオリーブオイルがここまでのブランドを確立するまでの道のりは決して平坦ではなかった。瀬戸内海に浮かぶ小豆島は全国に点在する離島と同じく、少子高齢化・過疎化に悩まされていた。そのため、オリーブ栽培に従事する農業従事者は減少の一途をたどっており、オリーブ生産も危機に直面していた。

 そうした危機から脱するため、香川県内海町(現・小豆島町)は小泉純一郎内閣が取り組んでいた構造改革特区で反転攻勢に出た。構造改革特区の「小豆島・内海町オリーブ振興特区」に認定されたことで、農業法人でなくてもオリーブ栽培への参入が認められた。これにより、小豆島におけるオリーブ栽培は盛んになる。当時、構造改革特区に携わっていた内閣府職員は語る。

「小泉政権が取り組んでいた構造改革特区は、規制緩和によって新規参入や新しい分野への進出を促すことが目的で始められました。これは、あくまでも地方活性化を主眼においていたので、地方から自発的に提案をいただき、それを政府が特区として認めるといったスキームになっています」

 今般、岩盤規制を突破するとの呼び声で第2次安倍政権から導入された国家戦略特区は、小泉政権の構造改革特区と言葉こそ似ているが、仕組みは大きく異なる。国家戦略特区では規制をかけている政府が地域を先に指定し、規制を緩和するというスキーム。そのため、「地域の実情に合っていないとか、東京や大阪などの大企業が地方に流れ込むだけなので、地方の企業に金が落ちず、結局は地方の発展に寄与しない」(前出・職員)との指摘もある。

 一方、小泉政権時に導入された構造改革特区は、あくまでも地域からの提案を受けるかたちだ。構造改革特区を活用して、小豆島のオリーブはブランド化。知名度は向上している。特に、「美容や健康に関心の高い女性に対しては、さぬきうどんよりも訴求力は上」(グルメ雑誌関係者)という意見もある。

●海外の盆栽ブームに乗る

 そして、このほど香川県が密かに売り出そうとしているのが、「盆栽」だ。香川県は、松の盆栽生産量が全国一を誇る知られざる盆栽大国。香川県内、特に県都・高松の市内には盆栽の生産農家が多く点在する。

 香川県は特産品である盆栽の生産振興・販売普及を図るため、「盆栽と共に暮らす生活」をキャッチコピーにした「ボンクラ」というガールズユニットを2016年に結成。頭に盆栽を生やしているボンクラは、一見すると奇妙な見かけをしているが、精力的に全国を回ってPR活動に取り組んでいる。

 盆栽推しをしている自治体といえば、埼玉県さいたま市が有名だ。さいたま市には昭和初期から盆栽業者が集積し、大宮盆栽村が形成された。盆栽村は、“クールジャパン”を体験できるエリアとして訪日外国人観光客の間で人気が高まり、多くの外国人が押し寄せている。

 海外で盆栽ブームがじわりと熱を帯びている一方、害虫や外来種の侵入といった防疫の観点から、盆栽は輸出入が厳しく制限されている。そのため、外国人観光客がたくさん日本に訪れても日本土産として持ち帰ることは容易ではない。大きな障壁が立ちはだかるなか、盆栽を振興させようとする香川県の鼻息は荒い。

「お土産で盆栽が持ち帰ることができないとなったら、海外の盆栽ブームはしぼんでしまうかもしれない。海外の盆栽ブームの沈静化は、香川県にとっても死活問題。そのため香川県はJETRO・JA・生産農家などと協力し、輸出における障壁を取り除くべく努力を続けています。また、海外の盆栽ブームと同時に、国内でも盆栽の人気が出るように、さぬきうどんと同様に積極的にPR展開をしていています」(香川県職員)

 香川県をはじめ業界団体・愛好家たちの尽力によって、一部制限つきながらも盆栽が海外に輸出されるようになってきた。これまで、どこの都道府県も「食」で外国人観光客を誘致しようと躍起になってきた。いくら美味しい食材でも、ひとりの観光客が食べられる量には限度がある。また、食による地域振興はどこの地方自治体でも取り組んでいる。それだけに、競争の激しい既存市場(レッドオーシャン)ともいわれる。レッドオーシャンに固執すれば、地方自治体は共倒れになってしまうだろう。

 盆栽は日本独自の文化なので、ほかの外国の都市と観光客を奪い合う消耗戦にも陥らない。これまで盆栽による観光客誘致はどこも手掛けていない。まさに、未開拓市場(ブルーオーシャン)といえる。

 香川県が取り組み始めた奇想天外な「盆栽」による観光客誘致と外貨獲得戦略、そして地域振興。それらの取り組みによって、新しい潮流が生まれようとしている。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)