12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

文・脇田尚揮

【12星座 女たちの人生】第143話 〜魚座-11話〜

支度をして安岡さん宅へ向かう。

安岡さんのお家までは、ここから歩いて10分もかからないくらいの距離。でも、こうして直接お邪魔するのは初めてだ。

普段は挨拶を交わしたり、ちょっと会話したりする程度の仲なので、いざ自宅に行くとなると、ちょっと緊張する。

でも!

フラワーエッセンスの講座について、いろいろ教えてもらえるのは助かるわ!種類が多すぎて、ひとりだといつまでも進まないもの。

見なれた道をテクテク歩く。

確か……安岡さん家は、そこのスーパーマーケットを右に曲がって、郵便局を左だったわよね。

ここら辺はよく買い物で来るので、大体の地理は把握している。本当はかなり方向音痴なんだけど。

あ、あった!!

立ち並ぶ家々の中でも少し大きくて、お花でいっぱいの広い庭があるお家。ここで間違いないわ……!

しっかし、安岡さんの家、素敵ね……これって持ち家よね。ローンってあと何年くらいかしら。

“主婦病”ではないけど、ついついよそ様の“値踏み”をしてしまう。

―――ピンポーン

チャイムを鳴らすと、すぐに安岡さんがドアを開けてくれた。

は、早い……。

「まぁ! 和辻さん、ようこそいらっしゃいました! ささ、どうぞ」

スリッパを出してくれて、奥へと促す。

『安岡さん、突然すいません……お邪魔します』

安岡さんは、私よりも5歳くらい年上。結婚後、なかなかお子さんに恵まれなかったらしく、うちの子と同じ幼稚園に通っている勇太郎くんは、苦労の末やっと授かった子だって言っていたわ。

夢叶、けっこう勇太郎くんのこと気に入ってるのよね。

「あたまがよくてかっこいいの!」って言ってたっけ。

「どうぞ、良かったら」

リビングに通され、上品なティーセットで紅茶を振舞ってくれる安岡さん。窓からは、綺麗なお花が咲いているのが見える。

きっと、彼女はこうして人をもてなすのが好きなんだろうと思った。

『素敵な眺めですね……私、お花が大好きで』

「ありがとうございます。こうしてお花を眺めながらお茶するのが、私の楽しみなんです」

しばし、世間話に花が咲く―――

『それで、フラワーエッセンスについてなんですけど、安岡さんはどういった講座を受講されたんですか?』

本題を切り出す。

「ええ、私は一番古い歴史がある協会が主催する講座を受講しましたわ。講座自体も細かく分けられていて用途ごとに選べますし、お値段も手ごろでしたから」

『そうなんですね』

確かに、一番歴史がある協会の講座なら、間違いなさそう。

「でも、大事なのはどのような目的で受講するか、ということなのかもしれません」

目的……か。

『私は、人を癒すために使っていきたいと考えているので、基礎的なことが分かれば十分です』

「ふむふむ……ちょっと待っててね」

そう言って安岡さんは立ち上がり、奥の棚から小瓶がぎっしり詰まった木箱を持ってきた。

「和辻さん、今、どんな気分?」

『え……』

突然の質問に戸惑う。

『う〜ん、ちょっと焦っている……感じ、でしょうか』

「なるほど」

安岡さんが、透明な液体が入ったたくさんの小瓶のなかからひとつ選び、“理科の実験で使うようなやつ(ピペット)”で液体を吸い取る。そして、それを私の紅茶の中に数滴落とす。

『えっ? あっ!』

「大丈夫ですよ。良かったら飲んでみてください。身体には無害ですから」

ニコニコしている。

『は、はあ……』

恐る恐るティーカップに口をつける。どうしよう、安岡さんが実は私に殺意を持っていて、変な薬を盛られたのだったら……?一瞬、妙なことが頭をよぎる。

『ん……!?』

味は紅茶のまま。だけど、何これ……! なんだか緊張がほぐれるような感覚……。

「和辻先生、結構敏感でいらっしゃるのね。これが、ジャスミンのレメディです。ごめんなさいね、驚かせちゃって。実際に体感してもらった方が早いかと思って」

『レメディ?』

「ええ、お花のエネルギーを抽出した液体のことよ。焦ってらっしゃるって話だったから、ジャスミンを使ってみたの」

『ああ、なるほど……』

「そう、フラワーエッセンスは、お花のエネルギーを取り入れているから、その人に合ったものを提供するの。もちろん、身体には無害だし、味も香りもないわ」

『へぇ……』

「で、今回は直接お口から取り入れてもらったけど、いろんな方法があるのよ。お風呂に入れたり、身体に塗ったりね」

『お花のエネルギー……』

身体的な部分から精神的なところの奥深くまで働きかけられる。

これだわ!

『あの、安岡さん。是非、教えてください! 私、受講してみたいです!』

「本当!? お仲間ができて私も嬉しいわ! じゃあ、早速先生に連絡しておくわね」

―――そうして、フラワーエッセンスについての話はとめどなく続いた。

帰り際、

「また遊びにいらしてね〜」

と、安岡さんが手を振ってくれたのが嬉しかった。

“占い”とは異なる、精神ではなく身体から働きかける方法。

これこそ私が求めていたもの……!

人を癒す上で、私が本当にやりたかったのはコレだわ。

いつも通っている道が、何だか光り輝いているように見えた―――

【今回の主役】和辻花子(フレイア華) 魚座33歳 占い師既婚者であり、夫に和辻哲夫、子供に和辻長輝(9歳)と和辻夢叶(5歳)がいる。家庭と仕事の兼ね合いで悩みつつも、占い師としてそこそこの人気を得ている。しかし、あるお客の鑑定をきっかけに、占いの限界を感じて心理カウンセラーの資格を取ろうと考える。

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