大河FC・浜本敏勝【写真:加部究】

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【短期連載第3回】子供の発想力を豊かにする「魔法の言葉」――荒んだ子に胸襟を開かせる話術

 木村和司(元横浜マリノス)、森島寛晃(元セレッソ大阪)、田坂和昭(元ベルマーレ平塚ほか)ら日本代表に名を連ねた名手を輩出してきた広島屈指の育成型クラブ、大河FC。1974年に創設し、40年以上にわたって子供たちと触れ合ってきた浜本敏勝の指導法は、これまで多くの人の共感を呼んできた。

 子供たちの個性を引き出す指導法の極意は、どこにあるのだろうか。今回は森島も魅了された浜本の話術を紹介する。

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「サッカーは先取りのスポーツ。周りが見えて先が読めれば、簡単にボールは奪われない」――浜本敏勝(大河FC代表)

 指導者として、また教師として、浜本が周囲から愛され続けるのは、広範な視野を保ち、常に鋭敏なアンテナを張り巡らせているからだ。子供たちの些細な変化を見逃さず、必ず温かみのあるフォローを入れる。

 かつて大河FCでは、途中で横道に逸れる子も少なくはなかった。だが心が荒んだ子に胸襟を開き、サッカーに打ち込ませるのは、浜本の名人芸だった。

 1日の練習を終えると、浜本は必ず1人ひとりの子供たちに声をかけ、握手をして別れる。他愛のない会話をしながら、子供たちの様子を確認するのだ。

「なんでも話していいんだよ。これは2人だけの秘密じゃけん。ご両親に話すかどうかは自分で決めればいい」

 そんな関係を構築していく。

「子供と付き合い出したら夢中になります。そのなかで効果的な関わり方ができれば、きっと好かれます。そして先生が好きなら、子供たちは悪いことをできません」

浜本の信念「相手の心を感じ取れなければ、良いパスワークは生まれない」

 浜本が子供たちを思いやるように、パスも受け手の気持ちを読んで送る。それが持論だ。

 元日本代表MFの森島寛晃は、鮮明に覚えている。

「パスは思いやり。片想いの気持ちを伝えるように、ってよく言っていました」

 今でも森島は、正月になると家族で浜本邸を訪れ、酒を酌み交わすと安心して居眠りをしてしまうそうだ。

 最近まで大河FCは、全員が坊主だった。ある時、浜本は子供たちに聞いた。

「どうだ、おまえたち、モテるか」
「モテな〜い」

 子供たちの声が揃ったのを聞いて、浜本が話し始める。

「いいか、お前たちがモテないのは坊主だからじゃないぞ。女の子は、男の子の見てくれじゃなく、一生懸命頑張っている姿に魅かれるんだ。でも例えば、浜本くんが好きや、というサインを感じ取れなければ話にならない。サッカーも同じだぞ。パスの出し手と受け手は、ハート・トゥ・ハートの関係でなくてはならない。相手の心を感じ取れなければ、良いパスワークは生まれないんだぞ」

 観察力と巧みな話術。相手の状況を察知して、適切な一手を打つ。

「あれだけいろんな人たちを魅きつける。僕もあんな人になりたいですよね」

 森島の弁である。

(文中敬称略)

◇加部究(かべ・きわむ)

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(ともにカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

加部究●文 text by Kiwamu Kabe