最近の報道で、トヨタ自動車が効率よい働き方を促す新制度を導入したというものがありました。 各社の記事には「裁量労働制の拡大」とか「脱時間給」とか「高度プロフェッショナル人材制度に代わるもの」とか、いろいろなことが書かれていたので、果たしてどんな制度なのか興味を持ってみたところ、見出しとのあまりの違いにちょっと驚きました。

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 内容としては、残業時間に関係なく毎月45時間分の残業代(月17万円)を支給するというもので、実際の残業が45時間を超えれば残業代を追加支給するのだそうです。事務や研究開発に携わる主に30代の係長クラスの約7800人が対象で、本人が申請して会社が承認する条件とのことです。

 本人申請という点は確かに特徴的といえばそうですが、それ以外の点は、法律に則った「固定残業代制」と何ら変わりはありません。目的が「効率よい働き方を促して生産性を高める」ということなので、それは運用次第で可能かもしれませんが、世間一般で“新しい”とまでいえる内容ではありません。

 トヨタでは、すでに法規定に則った企画専門職に対する裁量労働制を導入しているということですが、報道されていた「裁量労働制の拡大」とは全然違いますし、法に則って残業代を算出して追加支給もするということですから、「脱時間給」ではまったくありません。そんなことから「高度プロフェッショナル人材制度」とは何一つつながることはありません。

 中には正しく報道したところもあったようですが、なぜこんな事実とかけ離れた報道が数多くされたのか、理由はよくわかりません。トヨタほどの会社がやることだから、画期的に新しいことだと思い込んでしまったのか、もしくは何か強く期待するところがあったのかもしれません。

 興味を持って記事を読んだ私は期待外れ感が満載ですが、それはさておき、私も企業の人事制度を作るということに数多く取り組む立場から言わせてもらうと、現状の法規制の中で報酬をある程度固定給にして、その範囲で自己裁量によって働いてもらおうという仕組みを考えると、現状では結局こうするくらいしか方法がないということです。

 この「固定残業代制」は、労働時間に関わらず一定の残業代相当額を保証するものですから、長時間残業が削減されなければ、会社としては負担増になります。この制度が直接効率化につながるものではないですし、日々のマネジメントは当然それなりに必要になります。

 また、見方によっては、所定労働時間に固定残業分の時間がプラスされたということも言えます。運用として、全員を固定残業分の時間数ギリギリの労働時間で管理することが一番効率的ともいえるので、運用のしかたによっては自由な働き方にはなりません。 経営者は無駄な時間稼ぎをするような働き方は許せないでしょうが、その一方で相変わらず残業代未払いが多数発覚してくる現状では、労働時間規制を外せば働く側が不利益を被る危険性は高まるでしょうから、給料と労働時間の関係を安易に切り離すのも好ましいとは思えません。

 トヨタ自動車の新制度は、それほど新しいものではなかったですが、こうやって社員の働き方の選択肢を増やし、その組み合わせの中で日々の管理をしていくしか、効率化を進めていく方法はないことを示したということでは、意義があるのだと思います。

 「仕事の成果は時間数だけじゃないけど時間数もある」とあらためて感じます。

※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら。

執筆者プロフィール

小笠原 隆夫 (おがさわら・たかお)
ユニティ・サポート代表
http://www.unity-support.com/index.html
ユニティ・サポート 代表・人事コンサルタント・経営士
BIP株式会社 取締役

IT企業にて開発SE・リーダー職を務めた後、同社内で新卒及び中途の採用活動、数次にわたる人事制度構築と運用、各種社内研修の企画と実施、その他人事関連業務全般、人事マネージャー職に従事する。2度のM&Aを経験し、人事部門責任者として人事関連制度や組織関連の統合実務と折衝を担当。2007年2月に「ユニティ・サポート」を設立し、同代表。

以降、人事コンサルタントとして、中堅・中小企業(数十名〜1000名規模程度まで)を中心に、豊富な人事実務経験、管理者経験を元に、組織特性を見据えた人事制度策定、採用活動支援、人材開発施策、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務の支援など、人事や組織の課題解決・改善に向けたコンサルティングを様々な企業に対して実施中。パートナー、サポーターとして、クライアントと協働することを信条とする。

会社URL http://www.unity-support.com/index.html