新山詩織、『さよなら私の恋心』で示した新境地 岩井俊二&Charaから受けた影響を考察

写真拡大

 1993年にドラマ放送、1995年に映画化された岩井俊二監督の代表作『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』が、総監督・新房昭之と脚本・大根仁のタッグにより劇場アニメとして復活、先週8月18日に公開を迎えた。

参考:新山詩織が新作で見せた“芯の強さ” プロデューサー迎えた各楽曲の違いと共通点から紐解く

 2016年、約12年ぶりとなる実写長編作『リップヴァンウィンクルの花嫁』を発表し、さらにモンスターヒットを記録した長編アニメ『君の名は。』にもSpecial Thanksとして名前がクレジットされるなど、2016年〜2017年の日本の映画業界においてキーマンのひとりと言える岩井俊二。その映像作家としての手腕は音楽業界からも厚い支持を受けており、近年ではmiwa、illion、Bank Band、Aimerなど、世代やジャンルを問わず様々なアーティストのMVを手がけている。

 そんな岩井監督の最新MVが、新山詩織がCharaとタッグを組んだ最新シングル曲「さよなら私の恋心」だ。岩井俊二とCharaといえば映画『PiCNiC』や『スワロウテイル』でおなじみのコンビ。『スワロウテイル』では、劇中に登場する架空のバンド“YEN TOWN BAND”が「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」で爆発的なヒットを記録し、映画と主題歌のいずれも90年代を代表する作品に。公開から20年以上たった今も、熱狂的なファンに支持され続けている。

 国内屈指の映画監督とアーティストに見初められたと言える新山詩織は、1996年生まれ、現在21歳のシンガーソングライター。幼い頃から音楽に触れ、中学時代にはオリジナルアルバムを制作、そして17歳で現役高校生シンガーソングライターとしてメジャーデビューを果たす。そのキャリアに裏打ちされた高い歌唱力と、耳に残るイノセントな歌声は、業界内外からも高い評価を受けている。

 その証拠に福山雅治の提供楽曲「恋の中」も収録されている最新アルバム『ファインダーの向こう』では、笹路正徳、島田昌典、近藤ひさし、浅野尚志といった実力派プロデューサーが楽曲を提供。トップクリエイターとの共作によって、どんどん彼女の表現力は深みを増している。今回彼女の歌を聴いたCharaもオフィシャルコメントにて「声の粒が素晴らしいんですよ」「かっこいい声してるの もう、それだけで魅力は100パーセントせつない気持ちになれる」と語り、岩井も「楽曲を聴いていろいろ想像力を掻き立てられた」と評している。

 奇しくも『スワロウテイル』の公開年である1996年に生まれ、父親の影響で同作を好んで観ていたという新山。今回の岩井俊二とCharaとのコラボレーションも、なにか運命めいたものを感じさせる。

 岩井俊二といえば、これまで多くの女優やアーティストを見出してきた監督だ。『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の奥菜恵、『四月物語』の松たか子、『花とアリス』の蒼井優と鈴木杏、『リップヴァンウィンクルの花嫁』の黒木華など、独自のタッチで女優の才能、もしくは新しい一面を開花させてきた。また、8月1日に公開されたDAOKOが歌うアニメ版『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の挿入歌「Forever Friends」のMVでも、美しさと寂しさを孕んだノスタルジックな風景をバックに、デジタルネイティヴであるDAOKOのイメージとは異なる、ミステリアスで妖艶な表情を引き出していた。

 Charaは「さよなら私の恋心」で作詞(新山との共作)と作曲、アレンジを担当。<さよなら私の恋心>という決別の言葉から始まるも、曖昧な感情が溶け合う感傷的な気持ちが綴られていく歌詞からは、「タイムマシーン」や「FANTASY」「スーパーセンチメンタル」といったCharaの失恋ソングに通じるものを感じられる。楽曲制作の際に新山は、「私をCharaさんの色に染めてください」とお願いしたらしいが、実際に聴いてみるとしっかり新山のものになっている。もちろんCharaの巧みなプロデュースの力もあるだろうが、それに応えられる新山詩織の実力もまた底知れない。また、切なすぎず、明るすぎず、ミドルテンポで進行するシンプルなメロディも、新山の歌声をより一層際立たせている。

 楽曲の世界を拡張するような、物語性を持った映像が展開される「さよなら私の恋心」のMV。やわらかな光が差し込む窓辺から始まり、舞台となる家の中を新山が歩き回る様子がワンカットで撮影されている。リビング、キッチン、バスルームと、様々な場所に失恋の悲しみにくれる女の子が登場し、そんな彼女たちに寄り添うように落ち着いたトーンで歌う新山。これまでリリースしてきたMVの中でも、異色の一本であることは間違いないだろう。

 鼓舞するでもなく、励ますでもなく、すべてを受け止めるように傍にいるだけ。これまで”ギター女子”として、ストレートな歌声でメッセージ性の強い歌詞を伝えてきた新山にとって、Charaと岩井俊二の抽象的な表現は新しい体験だったはず。しかし、ふたりの独創的な世界に飲み込まれることなく、むしろ自分の表現として昇華させるところは、シンガーソングライターとしての確かな地力があるからこそ。そんな多くのものを吸収してしまうところが、彼女が多くのクリエイターの心を捉える理由なのかもしれない。

 新山に新たな道を示したといえる「さよなら私の恋心」。次の作品で彼女はどんな一面をみせてくれるのか、今後の展開にも期待が高まる1曲だ。(泉夏音)