キング・オブ・ヒップホップが真摯に暮らしを見つめる傑作 ジェイ・Z『4:44』(Album Review)

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 当初は、ジェイ・Z自身が運営する配信サービス「TIDAL」と大手通信サービス社スプリントの提携により、限定的な先行配信が混乱を引き起こしたりもしていたが、その後フィジカル・リリースや各社配信サービスでのリリースも進んだジェイ・Zのニューアルバム『4:44』。彼の身の回りに起こっていたさまざまな事柄と向き合い、決着をつけ、ラッパーとしてビジネスマンとして、また夫として父として真摯に暮らしを見つめる、そんな傑作になった。

 本編が全10曲で構成された『4:44』は、「Kill Jay Z」というショッキングなタイトルで始まる。《お前は聖人じゃないし、こいつはKumbaYe(クンバヤ=黒人霊歌にかけている)でもない》というラインでカニエ・ウエストへのアンサーを織り込みつつ、その後《ソランジュを追い込んでしまったな。間違っていたと言うべきだった。危うくエリック・ベネイみたいになっちまうところだ》とラップするジェイ・Z。妻・ビヨンセが作品の中で彼の不貞を世に問い、その妹ソランジュが激怒しジェイ・Zに手を上げる様子が収められた動画も話題になっていた。かつて同様に不貞を働き、女優のハル・ベリーとの結婚生活を僅か2年で破綻させてしまったシンガー=エリック・ベネイを思い返して反省しているわけだ。

 タイトル曲の「4:44」は、UKのソウル・バンドであるハンナ・ウィリアムズ&ザ・アファメーションズのサンプリングや、ゴスペル歌手であるキム・バレルをフィーチャーし、まるで女性たちのソウルフルな叫びに取り囲まれたジェイ・Zがひたすら謝罪する、という楽曲になっている。アルバムリリースの直前にビヨンセは双子の赤ちゃんを無事出産したが、ここでのジェイ・Zは《双子を授かって、奇跡を信じられるようになったんだ》と歌っている。続く「Family Feud」ではビヨンセをフィーチャーしつつ、《家族が不平を漏らす中では、誰一人として勝ち組にはなれないんだ》と広く同胞たちに呼びかけるナンバー。アルバムの中盤でハイライトを担う2曲だろう。

 アメリカ黒人としての立場を綴る「The Story of O.J.」や、《俺はプリンスと顔を突き合わせて座り、彼が亡くなる前に彼の希望を聞いたんだ》とプリンスの遺産管理団体を糾弾する「Caught Their Eyes」など、社会に訴えかける楽曲も数多く含まれている『4:44』だが、実母グロリア・カーターが同性愛者であることを告白し、真実を公にして解放される思いを肉声で語った「Smile」はとりわけ感動的だ。

 「パパ、遺書ってなあに?」と問いかける実娘=ブルー・アイヴィーの声から始まる「Legacy」は、カーター家に纏わり付いてきた暴力の連鎖を断ち切り、より大切なものを遺産として残したい、という思いが遺書という形で語られている。プロデューサーのノーI.D.が全面的に携わった『4:44』は秀逸なサンプリング・ブレイクビーツの数々に彩られた王道のヒップホップ・アルバムとなっており、まさに「遺産」のアートフォームであるヒップホップが「Legacy」のテーマと手を取り合い、美しいフィナーレを迎えることになる。また、TIDAL版やCDに収録されたボーナストラックでは、ブルー・アイヴィーのキュートなフリースタイルや、ジェイムス・ブレイクとの美しいコラボ・チューンも2曲収録されている。(Text:小池宏和)


◎リリース情報
『4:44』
2017/07/28 RELASE
UICD-6225 2,700円(tax in.)