スコアは2-1の接戦だっただけに、手放しで喜べるほどの快勝ではなかったが、浦和レッズは着実に、それでいて明らかに前進している。試合後に語ったFW武藤雄樹の言葉を聞いて、そう確信した。


ペトロヴィッチ解任を受けてレッズを率いることになった堀孝史監督

「(相手のシュートが)ポストに当たったりとピンチはありましたけど、自分たちとしては守り切ろうと思って守り切っている。問題がないとは言わないですけど、(押し込まれて)バタバタしていたわけではないですし、堀(孝史)さん(が監督)になってから少しずつできるようになっているところかなと思います」

 関東地方を襲った雷雨の影響により、キックオフが1時間も遅れて始まった一戦で、最初に主導権を握ったのはホームの浦和ではなく、FC東京だった。

 3-1-4-2システムに変更してから公式戦5試合無敗のFC東京は、FW前田遼一、FW大久保嘉人という歴代Jリーグ得点王を並べる2トップを中心に浦和を押し込んだ。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が率いていた以前の浦和なら、その圧力に対して自分たちも攻撃に打って出ることで跳ね返そうとしていただろう。

 ところが、堀監督が率いるようになってリーグ戦3試合目を迎えた浦和は違った。DFマウリシオの加入により、右ストッパーで出場したDF遠藤航が言う。

「戻って守備をするという意識は、チーム全体で高くなっていると思います。もともとなかったわけじゃないですけど、ちょっと疎(おろそ)かになっていた印象もあった。それを堀さんが監督になってから、運動量と攻守の切り替えの部分に対しては特に言われるようになって、だいぶみんなも意識してやってくれるようになった。練習からブロックを作る守備についても落とし込んでくれているので、そこはミシャ(ペトロヴィッチ前監督)と違って、堀さんがそのミシャが築いたところにプラスアルファしてやっていることのひとつなのかなと思います」

 その守備意識こそが、堀監督のエッセンスであろう。実際、前半5分にFC東京のMF米本拓司が左サイドを突破した場面では、自陣ペナルティーエリア付近に7人もの浦和選手が素早く帰陣していた。それにより瞬時に守備ブロックを形成して、浦和はFC東京の攻撃をやり過ごす。そこから試合終了まで、状況に応じてブロックを築く守備は見られたが、ペトロヴィッチ監督が率いていた以前の浦和ならば想像もできなかった試みである。

 前半17分にFW興梠慎三が先制点を奪った浦和だったが、5分後の前半22分、大久保に右サイドの裏へと走るDF室屋成へのパスを通され、その折り返しをMF橋本拳人に決められた。互いに3バックを用い、高い位置を取るウィングバックが攻撃において重要な役割を担う両者だが、まさにFC東京が意図していたように逆サイドをうまく使われての失点だった。

 だが、浦和は逆サイドの守備についても即座に対応する。失点してからは同サイドを突破されることはあっても、逆サイドの裏を突かれることはなくなった。堀監督が就任してからリーグ戦3試合連続でスタメンに抜擢され、右ウィングバックで出場しているMF菊池大介が振り返る。

「失点は自分のサイドで裏を取られてやられてしまったので、反省しなければならない。本来は最初からやれなければダメなんですけど、中を意識しすぎていた。それで失点してからはポジショニングも含めて、対応を少し変えました」

 2-1で折り返した浦和は後半、FWラファエル・シルバとMF矢島慎也を投入すると、カウンターから幾度も決定機を作り出した。その一方で試合終了間際には、MF郄萩洋次郎や途中出場したMF中島翔哉にポスト直撃のミドルシュートを見舞われる窮地もあった。それでもリードを守り切りきれたのは、守備が改善された結果であろう。ふたたび遠藤が語る。

「押し込まれても最後のところは割らせないという戦い方ができていた。理想はカウンターでもう1点奪うことでしたけど、チャンスも作れていた。守備の距離感がいいので、危ないところに人がいる。そこは守備のバランスがいいからこそ。失点が多くなっていたころは、行くのか行かないのかはっきりせずに意識も薄かったけど、これくらい割り切ってペナルティエリアに入るか入らないかくらいまで引いてブロックを作れれば、簡単にはやられない」

 この試合で2得点を挙げ、自身のキャリアハイでもあるリーグ戦15得点目を記録した興梠も「守備に関しても、そこまで崩れることなくできていた。守備は前から始まると思うので、(コースを)限定することはもちろん、そこで取り切るということもやっていきたい」と語った。最終ラインを担う遠藤と、前線を務める興梠の言葉が示すように、今の浦和は、前から奪いに行けるところは前で、ブロックを形成して守るべきところでは後ろでと、切り替えながら対応する守備ができつつある。

 そこにはマウリシオの加入も大きい。ゴール前で相手の攻撃を食い止めるだけでなく、その冷静な判断力は後半に浦和が見せたカウンターの起点にもなっていた。MF柏木陽介がその効果について説明してくれた。

「マウリシオが入ったことで、すごくボールが落ち着く。真ん中にもパスを入れられるので、ボールを動かすことができる。それでいて守備でもガツンといってくれるので、そこは大きいかな」

 選手たちのポテンシャルはもともと高い。守備が安定すれば、その相乗効果は攻撃にも現れる。

 前半17分に決まった先制点も、前半30分に奪った追加点も、ペトロヴィッチ前監督が築いてきた阿吽(あうん)の呼吸であり、抜群のコンビネーションから生まれたものだ。2得点ともに興梠、FW李忠成、武藤のいわゆる「KLM」と言われる3人が絡み、中央から相手を崩すことに成功した。そのいずれの攻撃でもフィニッシュした興梠が語る。

「中央でのコンビネーションというのをなかなか出せない試合が続いていたので、試合前にもそろそろ入れようという話は3人でしていた。この3人が一番長くやっているし、わかり合えているというのもあったので、今日は失敗してもいいからチャレンジしてみようと言っていた」

 そのベースには、やはり安定した守備がある。興梠がそれを裏づけるように言葉を吐いた。

「今は守備がいいので、そこはすごい頼りにしている」

 連戦が続く浦和は、8月23日に川崎フロンターレとAFCチャンピオンズリーグ準々決勝・第1戦を戦う。前回リーグ戦で対戦した際には、ペトロヴィッチ前監督が急造の4バックを試したこともあって1-4と完敗したが、守備が自信を取り戻してきた今回は異なる展開が期待できそうだ。

 ただし、チームとして課題がないわけではない。それは選手たちも実感している。柏木が言う。

「内容がよかったかと言われれば、浦和らしくなかったよね、(ボールを)つなげてなかったよねってなると思う。やっぱり、浦和は面白いサッカーをしていくことが理想。でも、今は勝ち点を拾いながら上位を目指していくというのは仕方がないところだと思うので、ひとりひとりが全力で戦って、そこから道を見つけられたらなって思う」

 高い志(こころざし)を現実とするには、まずは自信を取り戻す必要があった。浦和の選手に聞けば、誰もが「攻守の切り替え」と「守備意識」を口にした。それこそが、自信を取り戻すためのファクターだったのだろう。

 守備が安定することで、持ち前の攻撃も活性化してきた。堀監督という指揮官のもと、浦和は今、これまで築いてきたものに新たなベースを上積みしている。

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