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「サヨナラエンタイトルツーベース」はレア!

野球ルールのお勉強の時間です。昨今は野球ルールの複雑さを改めて感じる機会も多くなってまいりました。「イヤでも無理やりでも絶対に巨人戦を2時間見させる勢」みたいな封建的な父親というものがいなくなり、若い世代では日ごとに野球ルール離れが進んでいます。野球ルール話が通じないことも多い。今まではある程度の野球ルールは全員わかって当たり前と思いこんでいた僕も、ときどきフッと思います。「このスポーツ、めちゃくちゃ難解なんだな…」と。

今日のテーマは「サヨナラ」についてです。いわゆる「サヨナラ勝ち」、9回裏なり10回裏なりに勝ち越しの得点が入って勝利するという形。一般的には「同点だ…」「点が入った!」「勝ったー!」で終わりでいい場面ですが、野球的にはそこそこ面倒なことが潜んでいる局面でもあります。

「サヨナラだーーー!」と思っていいタイミング、これは実はプレーの内容によって微妙に異なっております。たとえば、サヨナラホームランを打ったとき、どのタイミングで「サヨナラだーーー!」を言えばいいか意識していますでしょうか。一般的には「打球がフライのままスタンドイン」のタイミングなのでしょうが、これは野球ルール的には少しフライングです。

たとえば、サヨナラソロホームランを打った打者走者が塁を踏み忘れていたらどうなるでしょう。この場合は、踏み忘れているその塁(もしくは打者走者)にボールを送りまして、触球しまして、審判にアピールしますと「アピールアウト」としてアウトが成立します。当然、ホームランでの生還というものは取り消しとなりまして、サヨナラ勝ちそのものがなくなります。

そのアピールはいつまでできるかと言いますと、回の途中であれば「次のプレーが行なわれるまで」、そこで回が終わりという状況であれば「守備側の選手がファウルラインを越えるまで」です。状況が切り替わったら、もう気づいても遅いですよ、ということです。なので、サヨナラ決着のときなどは審判員を見ていると面白いことがあります。

審判員はサヨナラ決着であっても「塁の空過などがあった場合は、守備側のアピールを受け付ける」必要があります。ただ、「あ、やらかしてる」というときだけ「受付中」みたいな顔をすると、守備側がその顔で空過に気づくケースもあり得ます。それはフェアではない。なので、サヨナラホームランなどが出ても試合終了を宣告することはなく、塁の空過に気づいていようがいまいが、審判員は決着がつくまでグラウンド内にとどまるのです。

↓たとえば先日の西武・栗山のサヨナラホームランでも、審判員はアピールに備えて帰らずに待っています!


審判員はもう決着がついているのを知っていますが、振り返りながら楽天の選手が全員ファウルラインを越えるのを待っています!

野球作法ですなぁ!

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先日は、中日ドラゴンズがアピールアウトでの試合終了という珍しいプレーをやっていました。8月6日の中日VS巨人戦。9回裏まで進んで中日が5-4でリード。しかし、巨人も最後の粘りを見せて一死一・二塁という逆転のチャンスを迎えていました。ここで巨人・坂本は右中間に大きな打球を放ちます。しかし、これを中日のセンター・大島がナイスキャッチ。走者は帰塁して次打者へ…という場面でした。

しかし、ここで一塁走者重信が打球判断を誤り、「センターオーバーの長打」と思って走っていました。自分が逆転のランナーですので、うまくフェンスで跳ねかえれば一気に生還ということまで考えたでしょうか。捕球時点では二塁をオーバーランするところまで行ってしまいます。二塁走者の陽はハーフウェーで待っていましたので、ここは重信が前のめりになってしまったというワンミスでした。

ところが、このワンミスがさらに傷を広げます。フライアウトですので走者はもとの塁に戻るわけですが、重信は二塁をオーバーランしていますので、戻る際にも「二塁を踏んでから、一塁に戻る」必要があるのです。ですが、慌てて戻っているものですから、重信は二塁を踏み忘れます。中日は二塁にボールを送りますが、この際は陽の帰塁を確認したのみ。まさにこのような状況の際がアピールプレイの出番です。

ここでおそらく中日の内野陣と、二塁走者の陽は「重信の空過」に気づいているわけです。さぁてアピールしてやろうと動き出した中日内野陣は、投手・岩瀬に二塁送球を要求します。陽は苦々しい顔をしています。しかし、アピールプレイができるのはインプレーのときのみ。この時点ではプレイがかかっていなかったので、球審はそのプレーを止めまして、改めて「インプレーのときにやり直させる」ようにします。で、中日内野陣が「てへぺろ」しながら改めてプレイがかかりましたところで、岩瀬は二塁にボールを送り、めでたくアピールアウトでの試合終了となりました。

↓わかっている中日内野陣のイイ仕事!「ベースの踏み忘れ」指摘、今季だけでも2回!


地味ですが、「一塁に送球されたほうが怖いので、一回タッチアップの動きを見せてからすぐ反転して戻ることで大島に二塁送球を選ばせた」という陽の動きも、美しい野球作法です!

野球作法、最高!

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さて、改めてサヨナラの話に戻りますが、冒頭で書いた「サヨナラエンタイトルツーベース」というのは聞いたことがありますでしょうか。あまり聞き覚えがないですよね。何でないんでしょうね。プレーとしてはありそうなものですが、何故か聞いたことがない不思議な言葉。サヨナラホームランやサヨナラヒットはよく聞くのに、サヨナラエンタイトルはあまり聞いたことがない。

よくあるエンタイトルというのはボールがスタンドやベンチに飛び込んだときに、「こりゃボール取れないんで一時中断としまして、代わりに安全に塁を進める権利をあげましょう」というプレーです。ホームランも細かく言えば、打球が外野スタンドに飛び込んでボールデッドとなった場合に「本塁までの安全進塁権を与える」というプレーです。ワンバウンドでスタンドインした場合などは、2個の安全進塁権が与えられてエンタイトルツーベースなどと言われます。

さて、サヨナラのときはどうなるか。サヨナラの状況では、その手の安全進塁権というのは、サヨナラに必要な個数しか与えられないのです。同点で三塁に走者がいれば、三塁走者の生還に必要な1個しか安全進塁権は与えられず、ワンバンしてスタンドインしても打者走者の安全進塁権はひとつだけ。記録も「単打」となるのです。

また、1点負けていて走者二・三塁という状況だと、三塁走者の生還だけでは試合が終わらないので「ワンバンしてスタンドイン」には通常どおり安全進塁権は2個与えられますが、公認野球規則では「ホームチームの9回裏または延長回の裏の攻撃中に、勝ち越し点にあたる走者が得点すれば、そのときに試合は終了して、ホームチームの勝ちとなる」とあります。つまり、サヨナラとなる勝ち越し点が入ったらその時点で試合は打ち切りなのです。(※ただし、ホームランの場合は打者走者も含めてすべての得点を記録する)

なので、サヨナラエンタイトルツーベースというのは、「同点で二塁に走者がいる(三塁にはいない)」あるいは「1点負けていて二塁と三塁に走者がいる」という状況で、ワンバンしてスタンドインなどの打者走者含めて安全進塁権が2つ与えられるプレーが発生し、かつ二塁走者が得点を記録するよりも先に打者走者が二塁に到達した…というときに起きるレアなプレーなのです。

↓では、8月20日のヤクルトVS広島戦でのこのサヨナラはどう扱うべきか!?


どうでもいいところにひそむ野球クイズ!

なかなか渋い問題となっております!

状況は10回裏広島の攻撃、得点は5-5の同点で二死二塁、打者はエルドレッドです。ここでエルドレッドの打球はセンター方向へ大きく伸びると、バウンドしてからスタンドイン。これはエンタイトルツーベース…安全進塁権2つが与えられる状況です。これにより二塁走者は生還して、その時点で広島の勝利で試合は終了。走者が生還した時点ではエルドレッドは一・二塁間にいます。二塁まで進塁する権利はあったけれども、走者生還の時点で試合は終了ということで、エルドレッドの記録は一塁を踏んだところまでの「単打」となります。(もし、エルドレッドが全力疾走で二塁までいっていれば、二塁打になる/別に二塁に進まなくても安全に進塁できる権利があるだけなので問題はない/途中で帰ったら走塁放棄でアウトにされるかもしれないが、二塁走者が生還しているのですでに試合は打ち切り済)

さて、この野球クイズを新聞記者が答える際はどうなるか。これはさすが新聞だけあって、サラッと「エルドレッドのサヨナラ打」「エルドレッドの中越え適時打」などと表現しております。サヨナラホームラン以外は、いちいち何塁打か確認するのも面倒なので「サヨナラ打」と書いておけ…そんな教えでもあるのかもしれませんね。デイリースポーツ以外の新聞には…!

↓やっぱりいたか!「サヨナラ二塁打」としてしまう新聞が!


こういった野球記事作法、奥深いですよね!

スタンドに入ったとか言っちゃうと余計なツッコミが生まれるので、あえてそれとなくわかるように「中越え適時打」と書いている記事とか、グッときます!

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願わくば、この局面の野球作法としましては、「バウンドしてスタンドインしたことをコーチが察知し⇒走者にあまり急ぐなと伝達して時間を稼ぎ⇒その間にエルドレッドは記録上のマックスが取れる二塁まで全力疾走し⇒エルドレッドの二塁到達を見てから走者はホームイン」といきたかったところ。今回は広島側にも「走者が急いで戻ってきちゃう」「エルドレッド止まっちゃう」「エルドレッドをみんなで呼び止めちゃう」という若干の惜しいところがありました。ぜひ今季の金勘定精算の際には、エルドレッドの「単打を1本減らし」「二塁打を1本増やす」という処理をお願いしたいもの。みんなが気づいていれば、そうなったプレーですので。

こういった野球ルール、野球作法、野球記事作法などを勉強しながら中継を見ていく、それもまた野球の大きな楽しみのひとつだと思います。各種スポーツのルールブックやら規程やらに目を通す機会もわりとあるほうですが、野球ほど読み甲斐のあるヤツはなかなかないですからね。またひとつ僕も書きながら勉強することができて、とても有意義でした!

サヨナラ勝ちのときは「サヨナラ打」とだけ書く!勉強になりました!