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ロールス・ロイス・レイス「ブラック・バッジ」 ルーマニアの旅(後編)

もくじ

前編
ー断る理由など見つからぬ「甘い誘い」
ーブラック・バッジ そもそも何か?
ー目的地はルーマニア 4日間2880km
ー6.6ℓV型12気筒 驚くほどの静粛性
ー不思議なほどにピッチングを抑える
後編
ーブタペストを脱出 いよいよ「あそこ」へ
ー直線 綺麗な路面 多彩なカーブ
ー「立入禁止」区間に入ることにした
ーもし、レイスに落石したならば
ー警備員ふたたび 彼らが求めしもの

ブタペストを脱出 いよいよ「あそこ」へ

次の日のプランは、渋滞に巻き込まれる前にブタペストを脱出することである。

しかし、ハンガリーの首都に住むひとびとの朝は早く、渋滞に巻き込まれて15分後、われわれは漂いながらハンガリーを横断することになり、昨日達成した距離よりも稼がなくてはならないことを認識した。ルーマニアでは必須の小型トラックを次々と追い越していった。

トランスファガラシャンの北に位置するシビウに、この日が終わるまでには着きたかった。計画通りではあった。直線に渋滞は皆無。しかし、ルーマニアの国境に差し掛かる頃には、景色は一変し、オーストラリアのアウトバックにも似た、特色のない平野が続くことになった。

そして、綺麗なコンクリートと鈍く光るガードレールでできた、巨大で装備万端の国境施設が、地面から湧き出たように立ちはだかる。

こんなクルマに乗っているのだから、ちょっとしたいざこざの覚悟はできていた。そして、それが現実のものとなる。われわれは、このクルマの書類の写ししか持っていなかったのだが、それをみた国境警備員は首を振って不快な表情を浮かべた。

最終的はこれらが本物であることは認めてくれたが、われわれは再び、デス・バレーのような景色のない田舎へ入ることになる。

それにしても、この道はどこまで行っても素晴らしい。

直線 綺麗な路面 多彩なカーブ

160kmの旅ならば、シンプルだ。直線に、綺麗な路面、多彩なカーブ、そしてこれらは全てEUによって整備され、144km/hの巡航ならば特に問題になることはないだろう。

そして、マージナと呼ばれる小さな街に到達し、全てが悪い方向へと向かい始める。

田舎道はだんだんとそれらしさをみせ始め、川に丘にそして、峡谷が出現し、険しくなった。いつのまにか、EUの待遇はなくなり、ルーマニアの典型的な道に戻った。

トラックは40km/hで走っている。右に左に揺らして走るそれらは、豪快なコーナーリングを披露するが、それは同時に正面衝突のリスクもはらむ。

90分間、64kmに渡ってこの試練に耐え、突然、デヴァに到達すると、そこはEU以外のなんでもなく、スピードは倍になり、セベシュへたどり着く。そして、シビウ、トランスファガラシャン通路への出発点である。

われわれは計画よりも少し早く到着した。そこで、南に向けて走り出すことにした。緩やかな登り坂は、険しい木々のヘアピンで急こう配になる。

「立入禁止」区間に入ることにした

時おり、ちらりと山頂がみえることがあった。まだ雪が積もっていた。何百メートルも上方である。そう多くはない直線では距離を稼いだ。

標高1524mでは、木々は細く、まばらである。それらが絶えると、今度は巨大な岩の壁が迫り来る。しかし、われわれは容赦なく鞭を打った。

ロールスはとてもよくやってくれた。路面をグリップする絶大な能力を幾度となく証明してくれた。コーナーリングを綺麗にまとめ、ロールは最小限で、狙ったラインから猛然と立ち上がる。

そしてわれわれは、コンクリートで補強されたトンネルの前にたどり着く。その壁のいくつかは、落石を防ぐものである。警告標識は、進入禁止と読める。

それをみて、少しの間、ここでこのツアーが終わってしまったことに肩を落としたが、見回したところ警察の姿はみえない。

だからわれわれは、バリアを越えて先に進むことに決めたのである。

もし、レイスに落石したならば

見通しが急に開けた事に驚き、恐怖が迫り来る。落石や雪崩の爪痕が先を急ぐ事を警告している。

ロールスの担当者に、落石に直撃されたと報告することになったら、目も当てられない。遠く離れたこの場所でみるこの風景は、絶景である。一目で、数えきれない山頂をおさめることができる。

最後の左を曲がると、そこにはパルティニュー荘がある。湖の畔にあるチャウチェスクのハンティング・ロッジは、今ではハードコアなスキーヤーの常宿である。

絵に描いたような、岩で囲まれたその宿は、雪崩を避けるために壁から少し離れたところに位置する。冬季を凌ぐのには良い場所であるが、夏の間旅行者にお土産を売る露店の多くは、破壊されて残骸が残るだけである。

少し離れたところに、丘を貫くトンネルがあり、そこを通り抜けて逆側へ出ることができる。

虚しさが残る場所から離れることはできるが、そこもまた雪で覆われ、暫くは身動きはとれないだろう。チャウチェスクの愚行とはよく言ったものだ。

パルティニュー荘で一夜過ごすことができることを知ったが、それはつまり「進入禁止」の警告を守らない人が、クリスとその家族がここで商売をするに足りるだけ存在するということである。

夕暮れ時に、外出をして、長いイブニングを外で過ごした。カメラマンのスタンは、撮影をし、わたしはこの澄んだ空気と星空を満喫した。明日、われわれは帰路に付く。

警備員ふたたび 彼らが求めしもの

帰路に関しては、ロールスが引き続き素晴らしいパフォーマンスを披露してくれたこと以外に、特に報告することもない。

帰りのルーマニア国境ちかくで、同じ警備員と出会ったが、その時はいざこざは一切なかった。

彼等はわれわれのことを話題にし、このクルマがなんなのかを理解したようだ。

ひとりは、スターライト・ヘッドライニングを見たがり、もうひとりは、アルミとカーボンファイバーで形成されるダッシュボードを同僚に伝えたいようだった。

その時は何を要求されたのか?

お金でもなく写真でもない、ハンガリーへ向かって出発した時に、バーンアウトとまではいかないまでも、そんな加速を披露してみた。

ミュンヘンに戻って、初めてこのクルマのトラクションコントロールが解除できることを知った。そんなことができると思ってもみなかったのだが。

ブレーキを踏んで車体を留め、右足を踏み込み、左足を離せば、突進である。喝采の声が一瞬にして聞こえなくなれば、それはわたしがよい仕事をしたという証である。