川澄奈穂美インタビュー【後編】


プロとしての自覚を持ってサッカーを楽しんでいるという川澄奈穂美

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 なでしこジャパンは今、パスワークと連係を攻撃の軸に据えようとしている。その中で、最終的に決定機を生むためには長短関係なく、縦のラインを突いていかなければならない。その最後の1本が通らずに苦しんでいるわけだが、NWSL(ナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグ)のシアトル・レインで縦の動きにフィット感を得ている川澄奈穂美に聞いてみたかった。

 コントロールがものを言うフィードパスの出し手に日本人がなり得ることは、レインのチームメイトである宇津木瑠美を見ても明らかだ。ならば、受け手となるために川澄がしていることとは何なのだろうか。

「動き出しとポジション取りはどちらも大事。出し手が見てくれていることが大前提ですが、特にポジショニングは大事にしています。それはボールを受けた後、自分がめちゃくちゃ足が速いわけじゃないから。アメリカ人だったら、そのままブチ抜いていくのでしょうけど。自分の中で1タッチ、2タッチ、3タッチくらいまでしても、次にいいところに配球できるっていうポジションを取るように意識しています」

 受け手の意識ひとつで、それは変えることができることなのか。

「ここにボールを出して大丈夫だよっていう形を作るようにはしています。これはパスを出すときもそうなんですけど、そもそもの立ち位置が違うと出す側はパスの選択肢として消しますよね。いくらスペースが空いていてもDFが見えてないのかな?って位置にいる選手もいますから。『確かにスペースは空いているけど……。じゃあ、1回パス出してみようか。……ほら、DFいたでしょ?』みたいな(笑)。これは感覚なので、言って伝わる人とそうでない人がいることはしょうがない。いいサッカーを見て勉強するっていうのも、上達するひとつの方法ですよね」


まだまだ成長をし続けている川澄奈穂美のサッカー

 7月には、なでしこジャパンがブラジルと対戦したトーナメント・オブ・ネイションズが川澄のホームであるシアトルで行なわれた。もちろん、川澄自身も足を運んでいる。

「オリンピックやワールドカップというのは、自分の中でひとつの目標として常に持っています。それに出るためには代表に入るしか手段がない。”なでしこジャパン”はもちろん目指している場所です」

 これだけの手応えがあるのだから、代表という場所に想いがないはずがない。外から”なでしこジャパン”を見られる今だからこそ感じることもある。自分がそこに入ったら……このイメージは常に持っているという。

「監督が変わればチームが変わるのは当然のことなので、今のチームは自分がいた頃のなでしことは全く違うチームだと思っています。今の私がなでしこにいるとしたら……、このチームにベテランっぽさは加えないと思います。アメリカでいろいろ経験をして、外国人のスピードやリーチといったフィジカルはわかっているので、いい意味で”普通に”できると思うんです。自分が若かった頃は、(海外の強豪国に)速い!強い!っていう感覚を先に持っていました。今だったら、この相手にはこれをすればいいと、ベテランらしくできると思いますが、チームを落ち着かせようとするプレーはしないでしょうね」

 そして、具体的なイメージを併せ持つ。

「フィジカルで負けている分、裏を取るときにスピードで勝負するのは無理。タイミングよく裏を取って、相手を下げながら少しずつ陣地を取っていく――。ミドルを生かすためにも(相手選手を)裏返す作業は絶対に必要ですよね」

 今後積み上げていく連係は、なでしこジャパンの生命線になるだろう。こうした流れをしっかりと掴む俯瞰の目を選手個々が持ち合わせていかなければならない。

 それにしても、レインでの経験で、より一段とサッカーに対する想いが増してきているかのように、川澄は実に楽しそうに語る。

「自分の中ではサッカーを楽しむというのは一番にあって、プロとしてやっている以上、初めて見にきてくれた人もサッカー玄人も楽しいって思ってもらえるようなプレーがしたい。その中で自覚や誇り、責任というのを常に持っていたいと思います」

 アメリカのリーグはオフと移動が激しく繰り返される。メンタルの切り替えや、コンディショニングなど、自らでコントロールしなければならないことも多い。川澄には経験上比べるものがある。高校、大学を経て、INACでプレーし、なでしこジャパンとしてワールドカップを制し、オリンピックで銀メダルも手にし、そしてオリンピックを逃す苦い経験もした。それらがあったからこそ、川澄は今、自分と向き合うことができている。

「今、本当にサッカーが楽しい!”自分”を理解しているし、試合への持っていき方、何をしなければいけないかもハッキリしている。それでいて伸びしろが見えるのは本当に楽しいですよ(笑)」

 サッカーを楽しむだけで満たされないのがアスリートの性(さが)。自らの限界がさらに広がっていく実感があってこそ、彼女たちはそれを充実と呼ぶことができるのだろう。20代後半には、今後が見えてしまったような感覚に陥ったこともあったという。

「本当にいろいろな経験をさせてもらえて、これ以上新しい感覚に出会えるのかな? って思ったこともありました。自分のプレーは最大限に発揮しているし、でも現状維持はイヤだし……って」

 それがタイミングだったのだろう。アメリカに来たことでその迷いは一蹴された。

「30代になって、こんなにサッカーが楽しいって思ってプレーできるとは思っていなかったんです。楽しくサッカーをやりたいって想いはあったけど、自分が想像していたものとは桁違いの楽しさがここにはありました」

 ひと昔前であれば、30代を迎えると女子サッカー選手は下り坂と思われることが多かった。けれど今は違う。少なくとも31歳の川澄の”今”は伸びしろで埋め尽くされている。想定や限界を打ち破る、新たな30代の女子プロサッカー選手の在り方を彼女が見せてくれるに違いない。

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