『ベイビー・ドライバー』E・ライト監督インタビュー 「『ラ・ラ・ランド』と比較されるのはすごく不思議」

写真拡大

 『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』のエドガー・ライト監督最新作『ベイビー・ドライバー』が8月19日より公開されている。本作では、子供の頃の交通事故が原因で“耳鳴り”に悩まされ続けている、天才的なドライビング・センスを持つ組織の運転手ベイビーが、恋人デボラのため、自ら決めた“最後の仕事”に挑む模様が描かれていく。リアルサウンド映画部では、メガホンを取ったエドガー・ライト監督にインタビューを行い、象徴的に使われるiPodや出演しているミュージシャンなど音楽的な話を中心に話を訊いた。

参考:立川シネマシティは『ベイビー・ドライバー』をどう宣伝? 局地的ヒット狙う戦略を明かす

■「10年前にこの作品を作る自信が僕にあったとは思えない」

ーー早速映画とは関係ない話になってしまいますが、週末(※取材日は8月1日)はフジロックでCorneliusやLCD Soundsystemのライブを楽しんでいる様子をTwitterにアップしていましたね。

エドガー・ライト:そうなんだ! フジロックはめちゃくちゃ楽しかったよ!

ーー僕はあなたが行った土曜日の前日、金曜日に行っていたんですよ。

ライト:本当に!? GorillazとThe xxは観たかったなぁ。実はフジロックは2005年か2006年に1度行ったことがあったんだ。それで今回、日本に来る日程が決まった時に、プロデューサーから「この週末はフジロックやってるよ!」って言われていたんだよね。で、土曜日の朝に日本に到着して、「今日はフジロックで誰がプレイしているんだい?」って聞いたら、「Corneliusが出るよ!」と言われて、「OK. Let’s go!」とそのまま行くことに決めたんだ(笑)。

ーーそんな急に決めたスケジュールだったんですね(笑)。

ライト:朝の7時に東京に着いて、ホテルに行ってシャワーを浴びて、そのままフジロックに直行して夜までライブを楽しんだよ。最高だったね。

ーー今回の『ベイビー・ドライバー』はあなたのこれまでの作品史上最もその音楽愛が詰まった作品だと思いました。企画自体は20年前からあったそうですが、今このタイミングで実現したことには何か理由があるんですか?

ライト:どうだろう……。まあ、たまたまじゃないかな。『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』を撮る前には『ベイビー・ドライバー』初稿ができていたし、論理的にはもっと早い段階で作ることができたかもしれない。ただ、いろいろな理由があって、先に『ワールズ・エンド』を撮ることになったんだ。『ベイビー・ドライバー』が具体的に動き出したのは3年前の2014年だったね。でも改めて考えてみると、最終的にこういった形で作品を作ることできてよかったと思っているよ。10年前にこの作品を作る自信が僕にあったとは思えないからね。しかも作品がヒットしてくれて、自分にとってもすごくスリリングな体験になったよ。

ーー作品内で使用されている楽曲は脚本の執筆前からすでに決めていたそうですね。

ライト:そうなんだ。まだ脚本に言葉を落とす前の段階で、すでに10曲ぐらいは使う楽曲を決めていたよ。DJをやっている友達と一緒に、トラックの中にサウンドエフェクトを入れたりもしていたんだ。そうすると、曲の中で何が起きているかがより明確になってくる。オープニングに使っているジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの「Bellbottoms」は、すべてのカーチェイスの音さえもかなり早い段階で入れていたよ。それが2008年ぐらいかな。だからその頃にはもうすでにサウンドエフェクトもすべて入れた、映画で使用しているバージョンの「Bellbottoms」が完成していたんだ。そのあと3年ぐらいかけて脚本を完成させたんだけど、その完成した脚本をプロデューサーたちに見せる際にも、「音はこんな感じ」というように楽曲を入れ込んだものを聴かせることができたからすごく役に立ったよ。

ーー使用されている楽曲は、今流行りの曲ではなく、80年代〜90年代のものが多いですね。

ライト:それには僕の趣味が反映されていると言えるね。それにあえてタイムレスを狙って、わざと古めのトラックを選んだというのもある。「何で現代の20代の男がこんな音楽を聞いてるんだ」って言われたこともあったけど、若い人たちだって昔の曲を含めていろんな音楽を聴いているよね。それにベイビーは音楽好きだから、昔の音楽を聴いていたっていい。車を盗む生活を10年ぐらいずっと送っているような人間だから、車中にあったiPodもそのまま盗んでるって考えたんだ。盗んだ車の車内にはきっとiPodとかリスニングデバイスとサングラスが置いてあることが多いからね(笑)。そんな感じでベイビーが他の人の音楽のコレクションを聴いているという設定は面白いと思ったんだ。

ーー今となっては使う人が減ってしまった“iPod”というのが象徴的でしたね。

ライト:この前、僕がまだiPodを使ってるってことをツイートしたら、たくさんの映画監督、ライアン・ジョンソン、ジェームズ・ガン、パティ・ジェンキンスたちが「俺も!」「私も!」という反応をしてくれたんだ。残念なのは、AppleがiPodの生産をやめてしまったことだね。僕はもちろんiPhoneも使ってるけど、iPodは音楽だけに特化したデバイスだったのがよかったんだ。だって、車の中やヘッドホンで音楽を聴いている時にメールの通知音が入ってくるのなんて耐えられないじゃないか。Appleのティム・クックにiPod classicを復活させてくれと言いたいよ(笑)。

ーー自分も昨年ごろまではiPod classicを使っていたんですが、壊れてしまって今はiPhoneで聴いてます。iPod classicを復活させてほしいという意見には完全に同意です(笑)。

ライト:だよね? 僕も今持ってるiPod classicがいつか壊れてしまうんじゃないかと考えると恐ろしくなるよ。今はまだ使えてるし、『ベイビー・ドライバー』のサントラも入れているんだ(笑)。僕や君のようにiPodとiPhoneの両方を持つ人はたくさんいるだろうし、全く売れないというわけではないのに、Appleが生産を終了をしてしまったのは本当に理解できないよ……。

■「『ラ・ラ・ランド』と比較されるのはちょっと違う」

ーージェームズ・ガン監督といえば、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』の楽曲と『ベイビー・ドライバー』の楽曲、劇中で使用するものが被らないようにあなたとジェームズ・ガン監督が相談していたというのは事実なんですか?

ライト:ああ、それは本当だよ(笑)。でも正確に言うと、2人で話をした時、すでに僕は『ベイビー・ドライバー』を撮り終えていたし、ジェームズも『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』を完成させていたんだ。だから、同じ曲を使っていたらもうどうしようもないという状況だったんだよね。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』を観る前、3月ごろには「同じ曲を使っていたらどうしよう……」と心配にもなったんだけど、ジェームズに確認したらお互い使用楽曲が被っていないことがわかって安心したってことなんだ。

ーーちなみに、今回の『ベイビー・ドライバー』は批評や宣伝文言で“カーチェイス版『ラ・ラ・ランド』”と言われたりもしていますが、これについてはどう思っていますか?

ライト:すごく不思議だよね。そういう風に比較する人たちは何かひとつでも共通項があればそういうことを言い始めるよね。今回であればジャック・ドゥミ的な要素ということなんだと思う。比較したい気持ちはわかるけど、僕からしたらそれはちょっと違うよという感じだね。ちなみに僕が『ベイビー・ドライバー』を撮った時はまだ『ラ・ラ・ランド』を観ていなかったけど、公開後に観てとてもいい作品だと思ったよ。それにデイミアン・チャゼルは知り合いなんだ。彼も『ベイビー・ドライバー』をすごく気に入ってくれて、ワインを1本送ってくれたよ(笑)。

ーー音楽的な要素でいうと、ジョン・スペンサーをはじめ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーやスカイ・フェレイラ、ビッグボーイ、キラー・マイク、ポール・ウィリアムズなどたくさんのミュージシャンが出演しているのもポイントですね。

ライト:フリーの出演に関しては面白い話があるよ! 『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』の音楽を担当してくれたナイジェル・ゴドリッチとの関係もあって、この映画に参加してもらう前からフリーのことはちょっとだけ知っていたんだ。誰かの役でキャスティングしたいなと思っていた時に、たまたま行った夕食の場にフリーがいたんだ。それで、プロデューサーに「フリーに出演してもらえるか今聞いてみよう!」って言って、その場で聞いてみたんだ。で、本人に直接話をしたら、「ぜひ!」という感じで出演してくれることになったわけさ。しかもレッチリのライブ日程を変えてまで、撮影の時間を作ってくれたんだよ!

ーーへぇ! そんなエピソードがあったんですね。ちなみにスカイ・フェレイラはどういう経緯で?

ライト:僕はスカイの1枚目のアルバムが大好きで、もともと彼女のファンだったんだ。最初は違う役で出演してもらおうと思っていたんだけど、それはうまくいかなかった。でもなんらかの形で出てもらいたくて、ベイビーの母親役でやってくれないか聞いてみたら、それがうまくいったんだ。たくさんのミュージシャンに出演してもらったけど、本音を言うと、もっと多くのミュージシャンに出てもらいたかったね。

ーー今回の作品はオープニングシーンが非常に印象的ですよね。このシーンはあなたが監督したミント・ロワイヤルの「Blue Song」のMVで既にその原型が披露されていました。今回の『ベイビー・ドライバー』と「Blue Song」のMVとの関連を教えてください。

ライト:「Blue Song」のMVを撮ったのは2002年だったね。彼らにMVの監督を頼まれて、いろいろなアイデアを練ったんだけど、まともなアイデアが一切浮かばなかったんだ。だから自分の中にあったこの映画のアイデアの一部を使うことになったんだよね。「使ってしまった」という言い方の方が正しいかな(笑)。MVの完成度としては自分でも満足していたんだけど、せっかくのアイデアを使ってしまったことに自分自身すごく落ち込んでしまったんだ。自分に対して怒りも覚えたね。でもそのあと、このMVが助けになってくれたんだ。この作品がどういう作品かを説明をする時に、「Blue Song」のMVを見せれば方向性を理解してもらえることができたし、「あのMVはよかったよね」と言ってもらえたりもしたからね。でも、この前ネットで見たんだけど、『ベイビー・ドライバー』の予告を観て、「これ「Blue Song」のパクリじゃん!」って言ってる人がいたよ(笑)。ここでハッキリ言っておくけど、あのMVは僕が作ったんだ!(笑)(取材・文=宮川翔)