ついに最高裁が認めた「孫を養子」節税術

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2017年1月、最高裁は「節税のための縁組でも直ちに無効になるとは言えない」とする判断を初めて示した。これまで民法では、節税目的での養子縁組は有効か無効かで議論が分かれていた。最高裁の判断はこれに一応の決着をつけるもので、大きな話題となった。今回は、本事例をもとに「養子縁組による節税」について考えてみたい。

■最高裁で争った養子縁組とは

裁判で有効性が争われたのは、2013年に死亡した福島県の男性A(当時82歳)と、長男Bの息子Y(Aの孫、2011年生まれ)との養子縁組だった。

Aは、2012年4月、長男B、その妻C、B・Cの子である孫Yと共に、自宅を訪れた税理士などから、YをAの養子とした場合に相続税の節税効果がある旨の説明を受け、翌月、養子縁組が行われた。

2013年にAが死亡すると、Aの長女X1・二女X2が、孫Yに対し、養子縁組に必要な「縁組の意思」を欠いているとして養子縁組の無効を訴えた。

1審・東京家裁は養子縁組を有効としていたが、2審・東京高裁は無効との判断を示していた。そして3審の最高裁は、無効とした2審・東京高裁判決を破棄する判決を言い渡したため、有効とした1審・東京家裁判決が確定した。

今回、最高裁は「相続税節税という動機と養子縁組に必要な『縁組の意思』は併存し得る」と指摘した。判決文は以下となっている。

「養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない。」(平成28年(受)第1255号 養子縁組無効確認請求事件平成29年1月31日 第三小法廷判決)

■血縁とは関係なく作り出される親子関係

養子縁組とは、法律により血縁とは関係なく親子とみなされる関係を作り出す制度である。縁組をすれば、養子は、正当な夫婦から誕生した子ども(嫡出子)と同等の身分を取得する。

わが国には養子縁組の形態として、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類が存在する。

普通養子縁組は、原則として、養親となる者と養子になる者の届出により効力が生ずる。縁組の要件はシンプルであり、当事者間に親子関係を創設するとの合意があれば、縁組の目的は問われない。実際、「家を守るための養子」「『子どもを育てたい』『老後の面倒を見てほしい』という親の要望による養子」「節税のための養子」など、その目的は多岐にわたる。

普通養子の場合、養子になる者が15歳未満である場合には、法定代理人が養子になる者に代わって縁組の承諾をする。また、未成年者を養子とする場合は、自己の直系卑属または配偶者の連れ子を養子とする場合を除き、家庭裁判所の許可が必要になる。縁組により、法律上、養親と親子関係が生じ、実親とは、親子関係は維持されるが、実親の法定代理人としての地位は喪失する。そして、戸籍上、父母欄には実父母と養父母の2組の親の氏名が記載される。

一方、特別養子縁組は、養親となる者の申し立てに基づき行われ、家庭裁判所の審判によって効力が生じる。特別養子縁組は、望まれずに誕生した子どもや、実親から虐待を受ける子どもなどに対する福祉を目的として1988年に設立された。要件としては、実親の虐待、遺棄がある場合を除き、実親の合意が必要、家裁に申し立てたときの養子の年齢が6歳未満(養親となる者が6歳未満から養育していたと認められる場合は8歳未満まで)といったものがある。また縁組により、法律上、養子先の親と親子関係が生じるとともに、実父母との関係は終了し、戸籍上、父母欄には養父母1組の氏名のみが記載される。ただし、近親婚を防ぐ役割もあり、縁組であることの最小限の手がかりを残すため、戸籍の身分事項に特別養子縁組を規定する「民法八一七条の二」が記載される。

■養子縁組が相続税の節税になる理由

相続税の基礎控除額は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」である。ほかにも、死亡保険金、死亡退職金の非課税限度額は「500万円×法定相続人の数」と法定相続人の数によって控除額が変動する控除が存在する。この法定相続人の数には養子も含まれ、被相続人に実の子どもがいる場合は一人まで、実の子どもがいない場合は2人までが、法定相続人としてカウントされる。この基礎控除額や非課税限度額が増えるため、養子縁組は相続税の節税につながる。また養子縁組後は、一人あたりの法定相続金額が減るため、縁組前と比べて相続税の税率が低下する。これによっても、養子縁組は、相続税の節税となる。

ただし、相続税では、相続等によって財産を取得した人が、被相続人の1親等の血族及び配偶者以外の場合には、その人の税額が2割加算される。この対象には、1親等の血族に当たる孫養子(自分の子どもとして縁組した場合の孫)も、例外的に含まれるので注意が必要である。また、被相続人となる者の介護貢献などを理由として、子の配偶者を養子として迎えるケースがあるが、この場合、縁組後は1親等の血族となるため、2割加算の対象とはならない。しかし、離婚のリスクはあるので、実行に当たっては慎重な判断が求められる。

このように、養子を迎えることで節税効果が見込めるわけであるが、養子は法定相続人として扱われるため、法定相続人の数が増え、一人あたりの法定相続分が減少することになる。これは実の子どもにとっては、不満の種となりうる。しかも、普通養子縁組の場合、親子となる者同士の合意があれば縁組が可能なため、相続人となる者に縁組の事実が知らされず、相続が発生してから養子が発覚するケースもある。このような場合であっても、あらかじめ遺留分を侵害しない遺言を作成しておけば、議論の余地はないのであるが、時に、感情的しこりを起因とする法的な紛争が生じることがある。

現行の養子制度は、未成年に対する養子制度で家庭裁判所の許可制度を採用した、いわゆる「子のための養子」の側面を持つ一方、成年養子については、当事者間の意思を尊重して、自由度の高い縁組が行われている。実際に、相続税の節税効果を目的とした養子縁組も相当数あるとされ、今回の最高裁判決によって、この流れがさらに加速することも予想される。

しかしながら、先述のように、養子に相続トラブルを生じさせるリスクがあることを考えれば、養子縁組の際、相続人となる者に事前に周知させておくことが、無難といえるだろう。

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藤宮 浩
フジ総合グループ(株式会社フジ総合鑑定/フジ相続税理士法人)代表
株式会社フジ総合鑑定 代表取締役
埼玉県出身。1993年、日本大学法学部政治経済学科卒業。95年、宅地建物取引主任者試験合格。2004年、不動産鑑定士試験合格及び登録。12年、フィナンシャルプランナーCFP登録。04年に株式会社フジ総合鑑定代表取締役に就任し、相続不動産に強い不動産鑑定士として、徹底した土地評価を行うことで有名。主な著書に税理士・高原誠との共著である『あなたの相続税は戻ってきます』(現代書林)『日本一前向きな相続対策の本』(現代書林)、不動産鑑定士・小野寺恭孝との共著である『これだけ差が出る 相続税土地評価15事例 基礎編』(クロスメディア・マーケティング)。セミナー講演、各種メディアへの出演、寄稿多数。
 
高原 誠
フジ総合グループ(株式会社フジ総合鑑定/フジ相続税理士法人)副代表
フジ相続税理士法人 代表社員
東京都出身。2005年税理士登録。06年、税理士・吉海正一氏とともにフジ相続税理士法人を設立、同法人代表社員に就任。相続に特化した専門事務所の代表税理士として、年間600件以上の相続税申告・減額・還付業務を取り扱う。セミナー講演、各種メディアへの出演、寄稿多数。

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( フジ総合グループ(株式会社フジ総合鑑定/フジ相続税理士法人)代表、株式会社フジ総合鑑定 代表取締役 藤宮 浩、フジ総合グループ(株式会社フジ総合鑑定/フジ相続税理士法人)副代表、フジ相続税理士法人 代表社員 高原 誠)