私は1994年から2010年まで、毎年中国各地の大学で講演し、大学の先生や学生たちと意見交換を行った。そこで感じたのは、中国では高学歴に対する社会的なプレミアムが大きく、学習への意欲が大変高いということだった。米国はじめ世界の有力大学への留学熱も旺盛だ。

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中国がその成長のスピードと規模の両面から世界の注目を集めていることは言うまでもない。ともすれば豊富な低コスト労働力に支えられた生産基地という面が強調されがちだが、大学とそこで学ぶ多くの高度な知的労働力の存在を忘れることはできない。

大学在学者数(2014年統計)は日本が約285万人、中国が約2110万人。2000年には日本約280万人、中国が約340万人だったから、この十数年で、中国が7倍近く増え、大差がついた。少子化が進む日本では、今後在学者数が確実に減少していくのに対し、中国はさらに増加する見込みだ。

私は1994年から2010年まで、財団法人・経済広報センター副会長(1997年〜2008年)や社団法人・海外事業活動関連協議会(CBCC=企業市民協議会)会長(2000年〜2010年)などの立場で、毎年中国各地の大学で講演し、大学の先生や学生たちと意見交換を行った。そこで感じたのは、中国では高学歴に対する社会的なプレミアムが大きく、学習への意欲が大変高いということ、つまり、国全体として新しい技術や知識を誰よりも早く吸収し、いわば知識面で“ファストトラック”を突き進んでいるということだ。日本でも大学改革の議論が盛んだが、中国の将来を支える大学と研究者たちは、国家の発展に向け学内の研究・教育体制の充実や施設の整備・拡充はもちろん、国内・海外を問わず産業界との提携とべンチャー企業の育成に非常に積極的だ。オムロンも2000年に上海交通大学と合弁会社を設立し、ソフトウェアの開発を行っている。

さらに印象深かったのは、日本の大学では感じることのできない熱気である。講演を聴いている時の学生たちの真摯な眼差し、次々と出てくる質問に、新しいものを貪欲に吸収しようという並々ならぬ意気込みが感じられた。将来の夢を尋ねてみると、ほぼ全員から「国や政府の幹部」「企業経営者」という答えが返ってきた。彼らはさらに海外に出てその優秀な頭脳に磨きをかけている。

米国教育省の統計によると、米国の外国人留学生のうち中国大陸出身者は約33万人で出身国では断トツに多い。以下インド、サウジアラビア、韓国の順。日本は1万9060人で9位。日本はベトナム、台湾の後塵をも拝している。かつての高度成長時代、日本の多くの若者が海外留学し、米国の大学キャンパスが日本人学生で溢れたことを想起すると寂しい限りである。

21世紀の中国が「世界最大の生産基地・消費市場」としての役割を果たしていくことは間違いないが、今後増大する高度な知的労働力こそ中国の本当の強さだ。この知的人材の存在を十分念頭に置き、戦略分野やソフト開発で「イコールパートナー」として共同歩調を取っていくことが大切だ。むしろ、中国における大学の積極的な取り組みや気迫のこもった学生たちの勤勉さを思うと、日本としても産・官・学連携のもと国家レベルで早急に大学改革や人材育成を進めないと、とても「イコール」というようなことは言っていられないことを肝に銘じておく必要がある。

最近、習近平国家主席の米国をはじめとする各国の首脳との対話を聞いていると、同主席の強気の発言が目立つ。これも中国が築き上げた“人間力”への自信が、背景にあるからではなかろうか。

■立石信雄(たていし・しのぶお)
1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC=企業市民協議会)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。公益財団法人・藤原歌劇団・日本オペラ振興会常務理事。エッセイスト。