右サイドを根城に確実にボールを収め、攻撃にリズムとアクセントをもたらした家長。だが本人は、まだまだ改善の余地ありと慎重な構え。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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[J1リーグ23節]川崎2-1札幌/8月19日/等々力
 
 試合後の家長昭博は「ぜんぜんっすよ、なんもないっす」と呟きながら、足早にミックスゾーンを去ろうとした。
 
 そんなことはない。この日の川崎フロンターレのチームアタックに随所でアクセントを加えていたのは、ほかでもない41番のレフティーであったし、ボールの収めどころとして最大限の力を発揮していた。

【川崎 2-1 札幌 PHOTO】札幌に競り勝ち川崎が3連勝!
 
 チームの2得点にも絡んだ。それでも本人は不満げだ。「(鬼木達)監督にもこのままじゃダメだと言われたし、2点目をなかなか取れなかったことで試合を難しくしてしまった。反省点のほうが多い」と話した。
 
 立ち上がりから、4-2-3-1のシステムでアタッカー陣の個性が弾けた。右の家長、左の阿部浩之がダイアゴナルランを繰り返し、1トップの小林悠と巧みにポジションを替えながら、コンサドーレ札幌守備陣のマークを絞らせない。ぐっと下がる敵の最終ライン。次第にバイタルエリアで、トップ下の中村憲剛がフリーでボールを受ける場面が多くなる。こうなれば盤石だ。
 
 圧倒的なボゼッションで敵陣を蹂躙すると、サイドバックやボランチまでもが自信満々に飛び出してくる。ダイレクトパスを多用しながら、最終局面では攻撃陣の創造性がきらりと光った。観ていて楽しくないわけがない。
 
 13分の先制点などは、自在なアタックがもたらした典型だろう。ボランチの大島僚太が、裏のスペースへ抜け出す家長に絶妙なロブパス。左足のボレーで狙った球はGKに弾かれるが、そのこぼれ球を中村が難なく押し込んだ。ミスターは「前にボールがこぼれてきたのは偶然だけど、僕がそこにいたのは必然」と振り返った。それぞれが絶妙にギャップを作り出し、札幌ディフェンスを翻弄した。
 
 そんななか、独特のリズムで変化を与えたのが家長だ。まだどこか遠慮がちな面が見られ、シンプルなプレーを心がけてはいるが、力強いキープで確実に局面を前に進めると、敵DFの意表を突くパスと鋭い動き出しで、仲間のタレント性を引き出した。
 
「憲剛さんがちゃんと真ん中にいてくれますからね。あんまり攻撃陣でああしようこうしようとか話はしてないけど、阿部ちゃんとか僕がスペースにまず動き出すというのが決まり事としてある。動けばしっかりいいパスが出てくるわけで、そこからボランチとか後ろの選手もいい感じで飛び出せてる。だからまず大事なんは、僕らの動き出し。そこは意識してます」
 
 たしかに前半から最後の詰めが甘く、後半もフィニッシュ精度を欠き、そこに加えて攻守両面で連動性が低下した。札幌に付け入る隙を与えたが、それでも75分、家長のパスから左サイドを抉った登里亨平が中央へグラウンダーのクロスを送り、これを小林がねじ込んで2-0。その後ミスから1点を返されて薄氷を踏むような勝利ではあったものの、なんとか粘って勝ち切り、等々力のサポーターと凱歌を上げた。
 
 試合運びの拙さを含め、家長にとっては課題の残る内容だったようだ。
 
「やっぱりチャンスを掴んで決め切れないと、どんどん苦しくなる。後ろの選手にも負担がかかるし、相手が力を盛り返すきっかけを与えてしまう。僕自身、直接ゴールに絡んだわけじゃないから、結果を残したとは思ってない。もっとやらんと試合に出れなくなるんでね。ずっと危機感はありますよ」
 
 チームはこれで3連勝。首位・鹿島アントラーズと4ポイント差の3位で、じわじわと頂上に近づいている。そしてここにきて、攻撃にポジティブな変化が生まれた。小林、家長、阿部、森本貴幸、三好康児ら個性派が揃うアタッカー陣。そのストロングポイントを引き出してきた中村と大島に加え、“第3の男”家長が本格フィットしてきたのだ。ツボにはまれば、もっと怖くなる。そんな期待を抱かせるのに十分な出来だった。
 
 なんだかんだで立ち止まって話してくれた家長。最後に、「もう万全か、戸惑いはないのか」と訊いたら、こんな答が返ってきた。
 
「前のチーム(大宮アルディージャ)とは役割がまるで違うし、自分がやらなきゃいけない仕事とかも変わってきてる。いまはそこでチャレンジして得たものを吸収して、成長に繋げられてると思うんですよ。自分自身のプレーにも幅が出てきたように感じてる。しっかり結果を出して、チームの勝利に貢献できるように頑張らなきゃなと思ってます」
 
 ひと言くらいは昔のようなビッグマウスを聞けるかと期待したが、31歳になったアキはどこまでも、謙虚なのであった。
 
取材・文:川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)