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もくじ

前編
ー断る理由など見つからぬ「甘い誘い」
ーブラック・バッジ そもそも何か?
ー目的地はルーマニア 4日間2880km
ー6.6ℓV型12気筒 驚くほどの静粛性
ー不思議なほどにピッチングを抑える

後編
ーブタペストを脱出 いよいよ「あそこ」へ(8月20日公開予定)
ー直線 綺麗な路面 多彩なカーブ(8月20日公開予定)
ー「立入禁止」区間に入ることにした(8月20日公開予定)
ーもし、レイスに落石したならば(8月20日公開予定)
ー警備員ふたたび 彼らが求めしもの(8月20日公開予定)

断る理由など見つからぬ「甘い誘い」

手短くまとめられ、とろけるようで、そして明確に要件が記された誘いのメモを渡された時、断る理由はみつからなかった。

£300,000(4300万円)のロールス・ロイス・レイス・ブラック・バッジ・クーペを、ロールス・ロイスが生を受ける地であるミュンヘンに取りに行くという誘いだった。

目的地は、2009年以来、TVショーで有名な3人組がヨーロッパで最も素晴らしいドライビングスポットとしてしつこく連呼するあの場所である。

以来、われわれは真のパフォーマンスカーを、その有名なルーマニア中部に位置するトランスファガラシャン通路へ持ち出す事を夢見ていた。

そして、今、願ってもない誘いが舞い込んできたのである。

ブラック・バッジ そもそも何か?

BMWが指揮を取るようになって、初めて企画された、このパフォーマンスを追求するドライバー向けのクルマは、シャープなエンジンレスポンスと21インチのカーボンファイバーリムのホイールを持ち、0-100km/hを4.3秒で駆け抜ける。

スプリングとダンパーを締め上げたサスペンションによるより俊敏なダイナミクスを提供する。

ロールス・ロイスは、このモデルのエクステリアに未だかつてない大胆な変更を加えた。

レイスを黒で塗っただけではなく、このクルマのグリルのセンターも枠も、そしてフライング・レディさえも黒光りするのである。

レイスのインテリアはどれも素晴らしいが、このモデルのそれは芸術の域である。ヘッドライニングは天の川を想像させ、随所にカーボンファイバーによる装飾が加えられた。

地図上のトランスファガラシャンという名の道は、かつて縦断が不可能であったルーマニアの険しい地域を北から南へ突き抜ける軍用路である。

この道は、かつてのソビエト軍の侵攻へ迅速に対応するために1974年に開通した。

しかし、シビウ近郊の北側に位置するトランシルヴァニア平野から2000m標高を上がったこの道は、クルマ好きにとって考えうる。あらゆるコンビネーションのカーブが点在するたまらない場所である。

緩く傾斜した森林から、岩の多い開けた場所へ出て、最後には雪道となる。

目的地はルーマニア 4日間2880km

この場所は、長い間、ルーマニアの独裁者の名を取って、チャウチェスクの愚行と呼ばれていた。なぜなら、この険しい崖と極寒の労働環境がたびたび何百人もの労働者の命を奪ったからである。

多大な犠牲が支払われ、この国に残されたのは、年間3カ月から4カ月間しか開通できない、とても高地にある険しい道と時の首相が山頂付近に造らせたハンティング・ロッジである。

この40年で、ルーマニアは、民主化を歩みトランスファガラシャンは、バイカー、カーエンスージァスト、キャンパー、スキーヤー、そして、その素晴らしい絶景を一目見ようとやってくる観光客にとって、人気のある観光スポットとなった。

われわれは、ミュンヘンによく晴れた朝の10時に到着した。そこでは、世話好きなロールスの担当者がレイスのシンプルなコントローラーの説明をしてくれたが、誓約書に署名をするなりいなくなってしまった。

つまり、これで、4日間に渡る、往復2880kmの旅が始まったのである。

計画は、大雑把ではあるが、詳細は詰めた。2日掛けてルーマニアの中部へ向かい、ドライブと撮影に1日を費やす。そして、2日掛けて戻ってくる。ミスは許されない。

6.6ℓV型12気筒 驚くほどの静粛性

東へ向けてゆっくりと走り出した。クルマを知るために慎重にこの旅を始めた。

ポルシェ4台分の値段で、地平線までの距離の半分をその巨大なノーズが占めるかのよう。ロールスに乗るのも、レイスに乗るのも、もちろん今回が初めてではないが、このクルマと旅が始まることに飽きることは決してない。

まずため息がでるのはエンジンの静粛性であろう。633psを発生する6.6ℓV型12気筒エンジンは、驚くほど静かなのである。

タコメーターが装備されていないため、出力を窺い知るには、エンジンのポテンシャルをどれだけ消費しているかを示すメーターから想像することになる。

ほとんどの場合、このメーターはだいたい10%を指している。ひょっとしたらロールス・ロイスは、全く新しい動力原を採用し、エンジンを捨ててしまったのではと思う瞬間があったくらいである。

その他にもこのクルマには沢山の特筆すべき点がある。

例えば、ノーズの長さである。兄弟車となるゴーストとの比較で、全長(とホイールベース)で20cmも短くなっているのだが、それでもベントレー・ベンテイガよりも全長で15cm長いのである。

奇妙なことに、車幅はそこまで気にならない。一旦慣れてしまえば(30分程度)、このクルマは明確に俊敏に感じられる。われわれは、パッサウに向かう時や、オーストリアの国境で、綺麗に舗装された平面な車道でぐんぐんとスピードを上げていった時にそれを悟った。

不思議なほどにピッチングを抑える

近年ヨーロッパ諸国が、非情にも130km/hの速度制限を設けるようになった中で、部分的とはいえ、ドイツの速度無制限区間で咎められることなくスピードを出すことがどんな感じなのかを探ることに興味があった。

少しの間、160km/hは道徳に反すると感じた。しかし、われわれは、誘われるままに184km/hに達していた。

不思議なほど洗練されたこのロングホイールベースは、完全にピッチングを抑え、素晴らしいスタビリティを確保している。

1時間ほど192km/hで巡航し、工事区間で80km/hへ減速を余儀なくされた時は、止まっているかの錯覚を覚えた。

オーストリアの国境では、8日間の入国に€8(1100円)を支払う必要がある。路肩のブースに並んで許可証を買うようは前時代的であるが、フランスの高速道路の、度重なる、時間と気力を奪うそれに比べればまだまともな方である。

オーストリアは絶景で有名である。リンツを過ぎたあたりから、その美しい情景が始まり、そして、突然ビエナ郊外にたどり着いた。

スケジュールは押していた、が、近道はあった。しかし、この壮大な街中を観て回らないわけにはいかない。われわれの良心を慰めるために、ビエナの感銘を与えるバロック建築に囲まれた場所でロールスの撮影を行った。そして、先を急いだ。

巨大なドナウタワーを左手に、ハンガリーの国境を越え、ブダペスト郊外へ入る頃には日はすっかり落ちていた。ましな部屋を用意できるホテルをネットで探した。

688kmを7時間ちょっとで走破した。わたしの概算が正しければ、平均燃費はリッター6.3kmというところだろう。この数字をどう思うかは、あなたの立ち位置による。

(後編につづく)