「おカネの使い方」を教える米国と教えない日本

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金融のメッカ、ウォール街に、昨年日系米国人がレストランをオープンした。開店以来大入り満員だという。オーナーのリチャードはまだ35歳だが、ニューヨークに4店舗を持ち、どこも順調だ。

「パパからこっぴどく叱られたのが、きっかけだったよ」。フットボールで鍛えたたくましい二の腕をさすりながら照れ笑いをする。リチャードは高校を卒業すると同時に、日本の大手外食企業の手掛けるレストランに就職した。たちまち頭角を現し、西海岸の店舗網を統括するマネジャーにまで昇進した。

「てっきり褒められると思ったのにとんでもない。Shame on youだって」。とんとん拍子に出世している息子に、恥を知れ、と怒ったというのだ。

「人に使われてどこが面白い。今の会社は辞めろ。事業は自分でするもんだ」。父親のジェフェリーは京都出身で、関西の大学を卒業するや、迷わず着の身着のままで渡米。苦学してコロンビア大学大学院を卒業すると、米国政府機関勤めを経て起業した。

「事業は夢、事業は人生」と語るジェフェリーは、今年、インドで日本の「かわいい文化」を事業化しようと、デリーに現地法人をつくった。真剣にコスプレイベントの資料をチェックする彼は、70歳である。

「リチャードに言ってるんだ。君と俺のどっちが早くナスダックに上場するか競争だってね」。

米国で志ある人士は、人種や年齢、性別に関係なく起業、上場を目指す。シリコンバレーがその代表格だが、こうした動きはIT産業に限られるものではない。飲食であれ、アグリであれ、まだまだアメリカン・ドリームは健在だと感じる。

それを雄弁に物語るのが、米国人の家計ポートフォリオである。彼らの金融資産の半分以上が株式などの有価証券で、現預金は1割程度に過ぎない。リスクもある代わりに収益も期待できる証券が、資産形成の主軸になっている。

真逆が日本人だ。有価証券は1割強に過ぎず、現預金が半分以上で、この岩盤は過去40年間ほとんど崩れていない。現預金に偏った資産構成では超低金利時代に対応できないし、資金の出し手である家計が株式などリスク性成長資金にお金を出さないようでは、経済が停滞したままになってしまう。

政府は金融ビッグバンや市場型間接金融への誘導、NISAの創設・拡充等々を繰り出し、現政権の成長戦略の柱にもなっている。証券業界を中心に投資教育にも熱心だ。それでも、家計ポートフォリオは変わらない。株など持っていない、と自慢する政治家が少なくない社会である。就活の若者たちは上場有名企業に殺到し、リチャードのようなタイプは突然変異種に近い。

米国との差は、国民性にあるとしか言いようがないのか。しかし、やや子細に見ると3つの大きな違いが浮き彫りになる。

エクイティ・ストーリーへのコンセンサス、教育、それにシリコンバレーである。

米国では、エクイティ・ストーリーの実現が国民的コンセンサスだ。成功者は礼賛される。日本では、エクイティ・ストーリーは博ばく打ち 、成功者はどこかいかがわしい成り金扱いされる。

米国の投資教育は学校レベルで丹念に実施されているのに、日本では学校は金儲けを教える場ではないと、教科書に投資について1行入れるかどうかで揉める。

米国の起業から上場に至る流れはリニアで、シリコンバレー以外にも創業集約地域がいくつもある。日本では、エンジェルを探すのに一苦労し、特区が何度となく試されながら大きな成功例がない。

これらの解決策は帰するところ、教育の改善と政治家の認識一新にある。経済の低成長と人口減による縮み社会の中でいかに個人のマネープランを構築すべきか、あるいは再度経済を成長軌道に乗せるために、金融面で何が必要か、について冷静に考えれば、エクイティを中心にした証券投資の重要性は明らかだ。

学齢期から投資の意義について謬見(びゅうけん)なく教え、政治家諸氏にはリーダーとしての見識を持っていただきたい。おカネの使い方と守り方を学べなかったため、せっかくセレブになったのに大金を費消して、人生を台無しにしてしまった人も少なくないのだ。

加えて、証券会社など仲介者の顧客フレンドリーな姿勢を徹底していくことが大切だ。複雑な金融商品であればあるほど、わかりやすく徹底した情報開示が不可欠。リスクは理解して初めて、それを取るか取らないか、を決められるのである。