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従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で高い評価を得ているイタリアの新世代WEBメディア『ウルティモ・ウオモ』の戦術用語辞典は、急速に進歩するモダンサッカーのキーワードを紹介するコーナーだ。そのパートい蓮屮好ぁ璽僉次瓮ーパー」。“未来のGKはフィールドプレーヤー化する”という予測は半世紀以上前からされていたが、近年いよいよその傾向が色濃くなってきた。そこでイタリアのWEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』は、もはや単なる「ゴールキーパー」ではなく「スイーパー=キーパー」と再定義するべき、と提案している。

文 フラビオ・フージ
翻訳 片野道郎

 現代サッカーにおいて、戦術的な均衡を崩すことは年々難しくなってきている。それゆえ、あらゆるアドバンテージを最大限に活用してその道を探ることは、今や不可欠な取り組みと言える。チェスにおいて、すべての駒が勝利の確率を最大限に高めるための戦略に組み込まれなければならないように、サッカーにおいても、これまではしばしば無視されてきた11人目のプレーヤー、すなわちGKを、チームの戦術的文脈の中に組み込むことが必要不可欠になりつつある。GKにとって、ゴールエリアの中で敵のシュートに備えていればいい時代はすでに終わったのだ。

 90年代に進んだゾーンディフェンスとオフサイドトラップの普及は、リベロという存在を絶滅に追い込み、それまでリベロが最後尾で担っていた仕事の多くはGKが担うようになった。現代のGKがチームに果たす貢献は、守備と攻撃いずれの局面においても、今やフィールドプレーヤーのそれと大きく変わらない。

 GKは、ビルドアップの初期段階に加わり数的優位を作り出すことで、最終ラインからの球出しをスムーズにするという役割を担っている。守備の局面においても、ペナルティエリアの外まで行動半径を広げることで、押し上げた最終ラインの背後に広がるスペースをケアするスイーパーとして機能する。なんとなれば、もはや単なる「ゴールキーパー」ではなく「スイーパー=キーパー」と再定義するべきではないか、という議論が出てくるのも、ごく自然な成り行きだろう。

その起源
Origini

 スイーパー=キーパーという概念が生まれたのはリベロが絶滅した後だと思いがちだが、実際にはすでに50年以上前に、そう呼んでも差し支えないプレーを見せるGKが存在していた。1950年代前半に50試合を戦って42勝7分1敗という結果を残した伝説的なハンガリー代表でプレーしたジュラ・グロシチだ。その唯一の痛ましい敗北こそ、1954年のW杯決勝で西ドイツから喫したものだった。

 

右上が「マジック・マジャール」と称えられたハンガリー代表のGKジュラ・グロシチ。
リベロ型GKの先駆け的存在だ

 
 グロシチが大きな注目を集めたのは、ハンガリーがイングランドを3-6で破った歴史的な試合においてだった。ゴールエリアを離れて果敢に飛び出し、敵のパスコースを先読みしてクリアするプレーを再三披露したのだ。その振る舞いはウェンブリーの観客を驚かせ、コメンテーターのケネス・ウォルステンホルムは「正統的とは言えないが効果的だ」と評した。とはいえグロシチ自身も、自らのプレーを一つのスタイルとして体系化するには至らなかった。チームの攻撃的な戦い方に半ば強いられるような形で、その絶妙なタイミングの感覚を生かし半ば本能的に飛び出してリベロのように振る舞っていたというのが実際だったからだ。

 スイーパー=キーパーの系譜において、グロシチのすぐ次に来るのがオランダ代表のヤン・ヨングブルートだ。12年ぶりに代表復帰を果たした1974年のW杯で主役を演じ、世界的な注目を浴びることになったが、当初は第3GKという位置づけだったため、趣味の釣り道具を持って参加したというエピソードが残っている。しかしリヌス・ミケルス監督はDFの背後に広がるスペースをケアできる、足技に優れたGKを必要としていた。「トータルフットボール」実現にはそれが不可欠だったからだ。

 

左上が「トータルフットボール」時代のオランダ代表守護神ヤン・ヨングブルート。
スーパーチームの陰に名GKあり

 
 ヨングブルートのレギュラー昇格に決定的な役割を果たしたのはヨハン・クライフだった。本来レギュラーであるはずのヤン・ファン・ベフェレンが、直前の親善試合でチームの主流派だったアヤックス組の不興を買ってメンバーから外された、その後釜に望んだのだ。そのヨングブルートに続いてスイーパー=キーパーの系譜に連なるのが、他でもないクライフ率いるアヤックスのゴールを守っていたスタンリー・メンゾ。DFとしてはもちろん、そこからさらに数メートル前のポジションでも問題なくプレーできるほどのテクニックの持ち主で、GKとしてよりもむしろスイーパーとしてのプレーで注目を集めた異色の存在だった。GKとしての能力がそれほど高くなかったことも事実だが……。

 メンゾと同じ80年代後半から90年代前半にかけて全盛期を過ごしたコロンビア代表のレネ・イギータも、この系譜に連なるGKと位置づけることが可能だ。チームが攻撃している時にはゴールから30〜35m離れた場所にポジションを取るのが普通だったこのエキセントリックなGKは、しかしそこからさらに前に出て行こうとする奇矯なプレーで批判を浴びることも少なくなかった。

 

「スコーピオンキック」で名を馳せたコロンビアのレネ・イギータ。
ドリブルで敵陣まで攻め上がる異端のプレースタイルで、当時から「21世紀のGK」と言われていた

ノイアーというケーススタディ
Il caso Neuer

 しかし、スイーパー=キーパーという概念の進化において最も重要な位置を担っているのがマヌエル・ノイアーであることに疑いはない。このバイエルンとドイツ代表のGKは、ビルドアップとそれに続く攻撃の局面において、文字通りのリベロとして機能するだけでなく、その鋭い直観とポジショニングのセンスによって、自分と最終ラインの間に広がるスペースを、まるで存在しないものであるかのように扱ってみせる。

 ノイアーは、「ゴールキーパー」という定義にはとうてい収まり切らない存在である。彼は何よりもまず完全なるフットボーラーだ。マルク・アンドレ・テア・シュテーゲンやヤン・ゾマーほどの洗練されたテクニックは持っていないかもしれない。しかしその確信に満ちた飛び出し、プレーの展開に対する理解とビジョン、そしてパスを受けるために(時には極めてアグレッシブに)動くそのポジショニングの質の高さは、彼を他のいかなるGKとも次元の異なる唯一無二の存在たらしめている。

 2014年ブラジルW杯、アルジェリア戦のパフォーマンスは、スイーパー=キーパーとしてのノイアーのみならず、このポジションの概念そのものを最も端的に象徴するものだったと言えるだろう。

 今現在、純粋な意味においてGK=リベロと呼べる存在を他に見つけるのは簡単ではない。しかし、攻撃と守備の両局面においてかつてリベロが担っていた役割と機能を継続的かつ安定的に果たしているという意味において、今やGKというポジションが、単にゴールエリアに陣取ってシュートを防ぎ、リスタートの時にできるだけ遠くにボールを蹴り込むというだけの存在ではあり得ないことは明らかだろう。

 セリエAにおいても、ピッチ上のプレーにアクティブに関与していくGKの数ははっきりと増えてきている。ブッフォンは今やユベントスのビルドアップのメカニズムに完全に組み込まれているし、レイナはサッリが仕組んだ「ロンド」に他のフィールドプレーヤーとまったく変わらぬ形で参加している。そして2人とも最終ラインの背後のスペースに常に目を光らせている。

 当然ながら、すべてのチームが純粋なスイーパー=キーパーの存在を必要としているわけではない。最終ラインを高く押し上げる戦術を選ばない監督も少なくないからだ。だが、コンパクトな陣形を高く押し上げて守る戦術を採用するチームにとって、より広いスペースをコントロールできる能力を備えたGKを擁しているかどうかは死活問題である。

 今後、より広い行動半径を持ち、より多くの戦術的タスクを担ったGKを目にする機会が増えるであろうことも、また間違いないだろう。ノイアーのプレーを目にしてその影響を受けて育つ新しい世代であればなおさらだ。近い将来、GKというポジションがここからさらに進化を遂げる余地があるのだろうか、というのも必然的な問いだろう。例えば、より狭いフィールドでプレーするハンドボールでは「GK=ボランチ」がすでに現実になっている。いつかはサッカーにおいても夢の世界だけの話ではなくなるかもしれない。

読者からの質問

質問者:フランチェスコ
Q.「ゴールキーパーはフィールドプレーヤー化するのか?」

 これまでの戦術用語解説記事の中で、現代サッカーにおいてはビルドアップの起点が何メートルか後退して、「サリーダ・ラボルピアーナ」(開いた2CBの間にMFが落ちるビルドアップの陣形)やボヌッチのようなレジスタタイプのCB起用に繋がっているという話がありました。だとすれば、フットサルにおいて行われているように、GKがフィールドプレーヤー化することを通じて後方からのビルドアップをさらに円滑にするという試みが、11人制のサッカーにおいても将来的には起こり得るでしょうか?

 2つの競技の間にはピッチの大きさをはじめ大きな差異があることは承知していますが、GKに関するルールの微調整や変更も含めれば、実現の可能性がまったくないとは言えないような気がするのですが。

回答者:フラビオ・フージ
A.「現時点ではNO。戦術の進化が必要」

 親愛なるフランチェスコ、あなたの質問は非常に興味深いものです。実際私も「スイーパー=キーパー」という記事を書く際に、同じ問いについて考えました。すべてのチームがラインを高く押し上げて守るわけではなく、それゆえGKに最終ラインの裏をカバーするリベロとしての役割を求めることが常に必要というわけではありません。しかし、現代サッカーにおいてはGKが備えるフィールドプレーヤーとしての能力がより重要性を増していることは明らかな事実です。

 GKが後方からのビルドアップに参加する頻度は、以前と比較してはっきりと高まっており、今やボールをできるだけ遠くに蹴り込むことだけを攻撃の局面における仕事にしているGKは皆無と言っていいでしょう。超攻撃的プレッシングを行うチームが増えたことで、後方からのビルドアップの難易度は大きく高まっており、組み立てのスタート時点から数的優位を確保することは、スムーズなビルドアップを行う上で必要不可欠になっています。とりわけマンツーマンでのプレッシングに対しては、11人目のフィールドプレーヤーであるがゆえにマークを受けずにプレーする唯一の存在となるGKが、相手のプレッシャーを回避する鍵として機能します。

 実際、フットサルにおいて(そしてハンドボールでも)、GKをフィールドプレーヤーとして機能させているのも、これと同じ論理です。相手のGKがゴールを守っている状況において、フィールドプレーヤー同士の4対4という均衡を崩し、いわゆる「3人目の動き」を生み出すためには、GKをプレーに参加させて局地的な数的優位を作り出すことが唯一の手段になります。

 GKが時には敵陣まで進出するというリスクを許容しているのは、狭いフィールド、とりわけ縦方向の短さです。それゆえ、あなたが指摘している通り、サッカーのフィールドにおいては明らかに話が異なってきます。敵の11人全員が自陣深くに引いて守備に専念しているという状況でもない限り、GKが自陣のゴールから50m離れたところまで進出してフィールドプレーヤーとして機能する姿を見ることは不可能だと思われます。

 ここまで抜本的に異なるポジションの解釈を実現するためには、ルールの大きな改正も必要でしょう。そしてそれ以上に、GK自身が特別な資質を備えていなければならないでしょう。単にフィールドプレーヤー並みのテクニックを持つだけでは不十分です。なによりもプレーの展開を的確に読み取る戦術眼と判断を誤らない冷静さが不可欠だからです。

 未来のGKが、テクニックとメンタリティの両面においてより優れたフィールドプレーヤーの資質を備えているであろうことに、疑問の余地はありません。しかし現時点に話を限れば、フットサルにおけるようなGKとフィールドプレーヤーのボーダーレス化をもたらす方向に、GKというポジションの解釈を進化させるルール変更が行われる可能性があるとは思えません。スイーパー=キーパーという概念がより普及し、さらに極端なプレースタイルを持ったGKが現れる可能性は大いにあります。しかしその実験はルールという側面ではなく戦術という側面で進むことになるでしょう。

『ウルティモ・ウオモ』戦術用語辞典を一挙公開!

パート 8月16日(水)公開:「ハーフスペース」
パート 8月17日(木)公開:「マンツーマンとゾーン」
パート 8月18日(金)公開:「トランジション」
パート 8月19日(土)公開:「スイーパー=キーパー」

photos: Getty Images