乃木坂46「逃げ水」、実験的サウンドでチャート独走 前例のない“三段パンチ”構成とは?

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参考:2017年8月7日〜2017年8月13日の週間CDシングルランキング(2017年8月21日付・ORICON NEWS)

 8月21日付週間シングルランキングで、乃木坂46の18枚目のシングル『逃げ水』が初登場で1位を獲得した。発売初日の売上枚数では71万枚と前作『インフルエンサー』に比べて落としたものの、1週間を通しての売上枚数では88万枚までしっかりと持ち直し、これまでのシングルに続いて順調な右肩上がりを見せている。今回この記事では、首位を獲得したその表題曲「逃げ水」に注目したい。

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 「逃げ水」は作曲・編曲を谷村庸平が担当。彼は過去に乃木坂AKB「混ざり合うもの」を外山大輔と共作している。

 軽快なビートからは疾走感を、高音のピアノのループからは神秘的な雰囲気を、エレクトリックなサウンドや軽やかなアコギの音色からはみずみずしさを、それぞれ感じ取ることができる。全体的に、大草原に真っ直ぐに伸びた一本道を駆け抜けているような、それでいてどこか夢の中の出来事のような、爽快感と幻想的な印象を抱かせるサウンドだ。

 しかし何と言っても驚きなのは、サビ前のドビュッシー「月の光」の挿入だろう。それまでの勢いをあえて殺すようにして突如現れる「月の光」の衝撃は、J-POP史上他に類を見ない構成である。誰もが一度は必ず聞いたことのあるそのフレーズがどこからともなく流れ出し、空気を一変させ、その後何事も無かったかのようにサビが始まる。まさに“幻”のように過ぎ去ったその「月の光」の余韻と、サビ冒頭の<ミラージュ>での伸びやかな旋律が一体となって、えも言われぬ不思議な感覚に襲われる。グループの内部文脈で言えば、今回大抜擢となったダブルセンターの大園桃子と与田祐希のコンビが、誘われるようにしてステージ中央に登場するパフォーマンスもこの部分だ。

 こうした目にも耳にも訴えかける強烈な仕掛けは、サビに至るまでにあらかじめオーディエンスの注目を集めておく効果があるだろう。しかも、細かいことを言えば、その「月の光」の直前のBメロ内<大人になって/走らなく>の部分で、ふわっと浮き上がるような感覚をもたらす転調が行われている。この転調は、聞き手に強い違和感を与えるが、その感覚はのちの展開を知らせるよい呼び水となっている。

 つまり、サビに至るまでに、フレッシュな二人のメンバーが登場する視覚的な仕掛けと、ガラリと曲調を変化させる音楽的な操作、またさらにそうした展開への導線となる転調、という三段パンチにより、お茶の間の注目を一手に集める作りとなっているのだ。こういった実験的かつ挑戦的なポップスが、一国の売上ランキングのトップに君臨するその異常さが痛快この上ない。

 歌詞は、夏の暑い日に遠くのアスファルトが光の屈折の関係で水たまりのように見える現象(=逃げ水)を発想の元として、“近づいたら消えてしまう夢”を歌っている。<今 確かに 僕の目に映るなら 逃げてしまっても 追いかけたい>というフレーズは、結成して6年が経つこのグループが歌うことで、活動に慣れの見えてきたメンバーに向けた檄文にも読めるし、新しく夢を抱いて加入してきたメンバーへ向けた願望にも捉えられる。

 ただ、何よりもまずその“逃げ水”をモチーフとする着眼点そのものが面白いと思う。他人に働きかけるメッセージソングなんてJ-POPに山ほどあるが、“逃げ水”を着想として、楽曲をそれに合わせた作りにしたものは他例がないだろう。何を伝えるかそのものよりも、それをどう伝えるのか、それこそが曲作りの妙なのである。

 1番と2番で計2回登場する「月の光」。1度目に比べて2度目は少しだけ音量を上げ、強く歪ませて音を割っている。それにより、2度目の方がその存在をよりはっきりと近くに感じるように出来ている。“幻”がほんの少しだけ近くに感じる瞬間だ。“追いかけても追いかけても逃げてゆく夢”を歌っていながら、実はちょっとだけ近付いている作りになっているのである。(荻原 梓)