肺から息を抜いて水底に沈む日本古式泳法の一つ、「沈身」

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 いまや水泳強豪国として、クロール・平泳ぎ・バラフライ・背泳ぎの西洋近代4泳法をもって世界としのぎを削っている日本であるが、伝統の日本古式泳法にはあまりスポットがあたっていない。

 日本古式泳法とは戦国時代の武技を発祥とし、甲冑を着たまま水場を泳ぎ渡り、奇襲攻撃や偵察・破壊工作、時には格闘を行うことを目的に考案されたもの。つまり、非常時のサバイバル泳法として優れているのだという。

 その概要と長所を、日本で唯一のYouTube解説動画を制作している音藤雅実氏が解説してくれた。

「今、学校で教えられている西洋近代4泳法は、人工的に管理された条件下でスピードを競う点では、ほぼ極限まで発達しているといえます。しかしその一方で、高校の屈強な水泳部員達がたった5分間の立ち泳ぎに耐えきれず、次々と沈んでいったり、足のつかない場所でパニックを起こして溺れたりする姿を目の当たりにし、もしかして非常時には役立たないのでは?と思うようになりました」

 そこで音藤氏は、今は普及していない日本古式泳法に可能性を求めることにしたという。ネット上にもあまり情報はなく、詳しい教本も売られていない中で、日本赤十字社が主催する水上安全講習に参加し、内容を細かくメモしながらおぼえた。

 日本古式泳法の利点としては、スピードは西洋近代泳法に及ばないものの、「服を着たままでも泳げる」「顔を水に浸けないので、常に視界が広く維持され、目標物や危険物を見失わない」などが挙げられる。

 しかも、水面に顔を浸けず、苦しい息継ぎをしなくて済むため、泳げない人でも比較的楽に習得できるという。

「以前には、日本古式泳法の解説書が少数、出版されていましたが、それらは現在、絶版になっています。YouTubeには各種泳法の動画がアップされていますが、完成形をスナップ的に撮影しているものが多く、水泳未経験者が段階的に習得できるような教材は、私が知る限り皆無でした。そこで、自らが初心者の立場に立ち返り、ビート板や補助ベストなどの補助具を使って、泳げない人でも無理なく習得できる体系的な練習方法を考案しました。その動画をYouTubeにアップしてありますので、是非ともご覧になってください」
◆日本古式泳法は突発的な事態にどう役立つのか

 日本古式泳法は服を着たままでも泳げるので、もし乗っている船が転覆して冷たい水中に投げ出されたとしても、浮力と体温を維持して救助を待つことができる。顔を水面上に出すので広い視界を常に確保でき、汚水や濁水に落ち込んでも呼吸を維持することが可能だ。

「なかでも特に『横泳ぎ』は、水の苦手な子供にとっては、クロールよりも習得しやすいのではないでしょうか。『巻き足』は、シンクロナイズドスイミングや水球の基盤にもなっており、垂直に体を立てた安定した姿勢で、両手を使って細かな作業を行うことができますし、人間一人を引っ張って移動できるほどの粘り強い推力を発生させられます」

 そして、ミュンヘンオリンピックで広く知られるようになったスカーリングと同様の技である「浮き手」は、両腕をヒラヒラさせるだけで、自分の全身を水平に浮かせることができるので、足が故障しても浮力と呼吸を維持できる。

 ただし、他者を救助する際には、話が別だ。

「溺れて我を失っている人は、助けに来た人の体の上によじ登ってでも、自分の呼吸を確保しようとします。その結果、悪気はなくても、自分を助けに来た人を全力で水に沈めて、死なせてしまいかねません。ですから、溺れている人を助けるときには、必ず浮くもの(浮き輪、大きめのペットボトル、発泡スチロールなど)を持って近くまで泳いで行き、自分と相手との間に浮くものを差し出して、それにつかまらせるようにしてください。溺れてパニックに陥っている人には絶対に、直接には触れないようにしてください」