強者じゃないけれど、それが何か? な生き方が素敵『ロスト・イン・パリ』【さぼうる☆シネマ】

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もしかしたら、はじめまして(まだ連載4回め)。「風味、味わい」のような意味を持つ"savuer"をちょっと和風に発音しての、さぼうる。雑食系映画紹介人、松本典子がお届けします。今回は、一緒に夏のパリを歩き回りたくなる『ロスト・イン・パリ』と、いかなるときも音楽に合わせて行動しちゃう(けれどその理由がちょっと切ない)青春〈犯罪〉ラブストーリーwithカーチェイス『ベイビー・ドライバー』をご紹介いたします。
セーヌ河畔を裸足で散歩したくなる♪ ......『ロスト・イン・パリ』
パリには何だか自由の匂いがします、よね? その匂いにつられたのか、パリへと旅立ったままマイペースな人生を切り開いている......という人、あなたの周りにもいたりしません? 私の周りには多少、います。パリに住もう。住むなら、絵を描いて生きていこう......と本格的な勉強などしたことないのに出掛けてっちゃった女性とか。そんなヤブカラボウ的異邦人も受け入れてくれる懐の深さがどうやらパリにはあって、もちろん彼女に才能があって。今や素敵な作品をどんどん発表しながらパリの自由人♪を謳歌してらっしゃる(※1)。
本作『ロスト・イン・パリ』で、カナダの田舎に住むフィオナにパリからSOSを発信した彼女のおばマーサも、どうやら前述の彼女の大先輩格。絵筆ではなくダンスシューズを相棒に自由を謳歌してきたらしいのだけれど、何十年かぶりの便りで「老人ホームへ入れられてしまう。フィオナ、助けて!」と。幼い頃かわいがってくれた彼女を放っておけるはずもなく、フィオナはいざ初めてのパリへ。おろおろしながら、あろうことかセーヌ川に全財産を落っことしてしまったり、ホームレスのドムにつきまとわれたり、マーサが亡くなったと知らされたり!? いわばフィオナのパリ珍道中を描く作品なのですが、登場するのは無一文の旅行者(フィオナ)、逃げまわる老人(マーサ)、悠々自適なホームレス(ドム)......と "花の都パリ"にはあまり縁がなさそうな人ばかり。しかし、彼らの表情には未来への多少の不安がよぎることがあっても、他者への羨望や不満は見当たらず。飄々と自由を謳歌しながら、彼らはみな自分ならではの喜びを見つけ味わっている。観ている私たちを(笑わせるだけでなく)元気づけてくれたりもします。セリフが少ないのは、道化師の研鑽を積みバーレスク・コメディで名を上げたフィオナ・ゴードン&ドミニク・アベルが共同監督と主演を務めているからこそ。登場人物たちの自由を愛する心持ちを、セリフではく身体の滑らかな動きや仕草でもって表現しているのが、この映画の大きな魅力にもなっています。ときにコミカルであり、ときにすこぶる優美でもある(そういう意味ではパリほど似合う場所はないかも?)。マーサが彼女の古くからのボーイフレンドと何気に楽しむ脚ダンス(!)の多幸感たるや、本作で最もキュンとする素敵なシーンです。タイトルは直訳すると「裸足のパリ(Pais Pieds Nus)」なのだそうですが、なるほど裸足で散歩したくなるような作品で、かつ、トーンとしては『ぼくの伯父さん』などのジャック・タチ作品が好きな方にも楽しめそうです。また、『ロスト・イン・パリ』が気に入ったなら、グンと時代を遡って『アタラント号』(ジャン・ヴィゴ監督)を観るのも一興(※2)。新婚旅行でパリにやって来た若い夫婦のこの旧作から、"セーヌ川に落ちる"、"悶々と過ごす別々の夜"、"大きな花輪"などが何気なく引用されている本作に改めてニヤリ......ってオタク的かしら(笑)。※1「"不法占拠"アトリエで自由になったアーティスト」(川本有緒著『パリでメシを食う。』内)に詳しいです。オススメ書籍!※2 少し不安だった『アタラント号』についての連想は、批評家の小柳帝氏も指摘されていたのでホッ(&嬉)。