「人気低迷が止まらぬセリエA、唯一の救世主はミランの存在か」

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いよいよ、欧州のサッカーシーズンが到来だ。

既に主要リーグの中では、イングランドとフランスが先んじて開幕を果たし、ドイツ、スペイン、イタリアも今週末の開幕戦に向けて準備を進めている。

この時期になれば、各クラブのサポーターが、移籍の噂話に湧き、優勝チームや新戦力の活躍予想で盛り上がるのが恒例行事であるが、皆さんは今季の欧州サッカーのどこに注目しているだろうか。

グランデミランの復活なるか

筆者としては、(個人的な趣向もあるが)今季のセリエA、というより、ミランの趨勢が最も気になるところだ。

約300億円に届くであろう勢いで、潤沢な補強費を注ぎ込み、各国の代表クラスを軒並み獲得。

マテオ・ムサッキオ(ビジャレアル)、リカルド・ロドリゲス(ヴォルフスブルク)、アンドレ・シウヴァ(ポルト)、ハカン・チャルハノール(レヴァークーゼン)、フランク・ケシエ、アンドレア・コンティ(アタランタ)、ファビオ・ボリーニ(サンダーランド)、ルーカス・ビッリャ(ラツィオ)、レオナルド・ボヌッチ(ユヴェントス)と、名前を見るだけで胸が躍る面子である。

特にイタリア代表でも守備の要として活躍したボヌッチの移籍には多くの者が驚いたことだろう。ここ数年のミランとユヴェントスの移籍市場における関係は、明らかに前者が脇役で後者が主役。ちょっとした"ジャイアントキリング”とも称すべきサプライズであった。

そして、やはり、気になるのは「その後どうなるか…」である。

一時期の「ベルルスコーニ・マネー」を凌駕する「チャイナ・マネー」で様変わりしたミランだが、ここまでドラスティックに変身しては、「期待と不安が半々」というのがミラニスタが本音だろう。

実際プレシーズンマッチでは、バイエルン・ミュンヘン相手に4-0と大勝したものの、ドルトムントやレアル・ベティスには惜敗。各々の閃きと個人技が共存した瞬間は、可能性を感じさせるが、いかんせん「波がある」というのが現状だ。

だが、こうなることは誰が見ても予想できることである。

過去を紐解いても、ミランがかつて栄華を極めていた時代も、主力は残しつつ、そこに肉付けしていく補強スタイルがベース。各国からワールドクラスの選手を連れてきたが、根幹にあったのは、生え抜きや古参のイタリア代表陣であった。そして、それは他のクラブ、例えば近年のセリエAで無敵を誇るユヴェントスに至っても同様だ。TVゲームじゃあるまいし、良質の選手をかき集めたところで、成功に直結するわけではない。

とは言え、それでも期待してしまうのがミラニスタの性だ。

いつの間にか、欧州最高峰の舞台が遠い存在となり、国内でも数々のクラブの後塵を拝した格好だが、二倍返し、いや、三倍返しのチャンスを得たことは紛れもない事実である。

ヴィンチェンツォ・モンテッラ監督の手腕に掛かるところは大きいが、果たして、「スマッシュヒット」となるか、はたまた「大ゴケ」となるか、ミラニスタならずとも注目が集まることは必至だ。

ミラン復活=セリエA復活?

前述で、筆者は「ミランの復活」をテーマにして述べた。

ここに着目すると、「ミランを愛して止まないミラニスタの独り言」のような印象が残るかもしれないだろう。

だが、今回彼らを取上げたことに、そのような意図は全くない。

何故なら、「ミランの復活がセリエAの復活に繋がるのではないか」という説が今回のメインテーマであるからだ。

セリエAは、言わずと知れた、欧州でもトップクラスのリーグだ。

だが、「欧州最高のリーグか?」と問われると、"カルチョ好き”でもその答えには躊躇することだろう。現在のUEFAランキングでは、スペイン(ラ・リーガ)、ドイツ(ブンデスリーガ)、イングランド(プレミアリーグ)に次ぐ四番手。昨季のランキングポイントに目を移すと、14.250で、これはフランス(リーグアン)の14.416を下回るスコア。1980年代中盤から2000年頃までUEFAランキングのトップを独走していた時代を思い返すと、その凋落ぶりは目も当てられない。

そして、その凋落ぶりは、日本におけるセリエA人気にも色濃く反映している。

国内での海外リーグ毎の人気を推し量る物差しとしては、映像配信事業者たちの取り組み具合がわかりやすいが、近年の「セリエA軽視」は非常にわかりやすい。

シーズン開幕直前に『DAZN』がセリエAを取り扱うことを決断したが、それまでは『スカパー!』の毎節5試合の放送のみ。一方、ラ・リーガは『DAZN』と『WOWOW』が毎節最大5試合を放送し、『スポナビライブ』に至っては、全試合ライブ配信という力の入れ具合。プレミアリーグについては、『WOWOW』のポジションが『J SPORTS』に代わるが、扱う規模に関しては同様のレベルである。また、ブンデスリーガは、扱う事業者数こそ『DAZN』の一社に限定されるが、2018-19シーズンから『スカパー!』が全試合放送することを発表しており、注目度はトップクラスと言える。

※各リーグ共に、録画放送、クラブ公式TVによる配信例は除く。

まさに、これは、海外リーグのパワーバランスの縮図である。

無論、この結果の全てが、セリエAの人気低迷を物語っていると判断するには、たしかに早計かもしれない。

だが、『WOWOW』がセリエAを積極的に推していた1990年代、『スカパー!』が看板番組の一つに据えていた2000年前後を振り返ってみると、彼ら事業者と海外サッカーの流行との関係性は否定できないだろう。

では、何故、このような事態が発生してしまったのだろうか。その回答には様々な意見があるだろうが、筆者は「ミランの栄枯盛衰」がリンクしていると考えている。

1990年代は、アリーゴ・サッキ、ファビオ・カペッロの両名将が「グランデミラン」を築き上げ、その終焉後においても、ジョージ・ウェア、ロベルト・バッジョ、オリヴァー・ビアホフ、アンドリー・シェフチェンコらを筆頭にワールドクラスが集結。2000年に入ってからも、マヌエル・ルイ・コスタ、フィリッポ・インザーギ、アンドレア・ピルロ、アレッサンドロ・ネスタ、クラレンス・セードルフ、カフー、カカ、ヤープ・スタムらタレントがロッソネーロの一員となった。

そして、この流れはチームレベルも確実に上げ、結果にもダイレクトに表れた。毎年のようにトロフィーを掲げていた前述の「グランデミラン時代」を除いても、1998-99と2003-04にはスクデット、2002-03と2006-07シーズンにはチャンピオンズリーグを制したことはまだ記憶にも新しいだろう。

しかし、その後は、インテルの全盛期を挟み、(一時ミランが再び輝きを放つが)ユヴェントスの一強時代へと変化。そして、この潮流が生まれると同時に、セリエAの人気低迷も始まった。

と評すると、インテリスタやユヴェンティーノは渋い顔をするかもしれない。

しかし、ミランという存在が、ヒーロー役にしろ、アンチヒーロー役にしろ、自分たちにとっても"大きな存在”であったことは認めるところではないだろうか。

表現が適切ではないかもしれないが、NBAで言うならば、マイケル・ジョーダンやスコッティ・ピッペンを擁し、世界から注目を集めた「シカゴ・ブルズ」、日本のプロ野球における「読売巨人軍」に似た存在だったとも言えるかもしれない。

だが、そんな彼らが表舞台から徐々にフェードアウトしてしまったことで、「セリエA自体にも甚大なるダメージを与えた」というのが筆者の見方である。

セリエAの人気が陰りを見せる一方で、インテルやユヴェントスが、欧州最高峰の舞台でも一定の結果を残してきたことは事実であり、ナポリ、ローマらセリエAのその他の上位陣が低レベル化したわけではない。となれば、彼らの活躍以外に"何か”が不足していたという印象は否めない。そういう意味でも、ミランが良くも悪くも、"絵になる集団”であり続ければ、ここまで低迷するようなことはなかったのではないだろうか…という考えは的外れだろうか?

残念ながら、この考えが暴論か否かは、ミランが今後数シーズンので証明してくれる以外には方法はないが、ミラニスタからの賛同だけでも頂けると幸いだ。

ミランの蘇りが、セリエAの人気復活を呼び込むか――数年後に改めて振り返ってみたい。