「Suchmos以降」の急先鋒 PAELLASの可能性を2017年インディシーンから考察

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 2017年のインディシーンのキーワードを挙げるならば、それは「Suchmos以降」ということになるだろう。「STAY TUNE」がHondaのCMに起用されたことなどをきっかけに、2016年を通じてジワジワと知名度を高めたSuchmosは、今年1月に発売されたアルバム『THE KIDS』で本格的にブレイク。ソウル、R&B、ジャズなどを主体とした音楽性は、ギターの音圧やシンプルな4つ打ち、ド派手なパフォーマンスなどによってフェスで隆盛を誇っていたロックに対するオルタナティブとして機能していたが、今年の夏には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」や「SUMMER SONIC」でメインステージに立つなど、新たな本流を形成しつつあると言える。

 こうしたSuchmosのブレイクは、「シティポップ」をキーワードとした2010年代前半のインディシーンの帰結とも言えるだろう。その背景には、例えばceroの存在があり、昨年の野外ライブ『Outdoors』でそれまでの活動に一区切りをつけ、現在は新たなモードに入っていることや、今年に入ってSuchmosにとっては盟友と言うべきnever young beachがメジャーデビューを果たし、Yogee New Wavesがひさびさのアルバムをリリースしたことも、「シティポップ」がひとつの区切りを迎えたことを感じさせた。

 では、そんな「Suchmos以降」の流れを考えると、まずはこれまで以上に同時代の海外の音楽に意識的なバンドが増えたということが挙げられる。「シティポップ」が日本固有のジャンル名であることを考えれば、その反動として「洋楽的」になることはごく自然な流れではあるが、YouTubeはもちろん、ストリーミングサービスも普及しつつある中、若い世代にとってはそもそも「洋楽/邦楽」という括りが薄れつつある。ただ、世界の音楽シーンをここ日本から見た場合、「邦楽的」な音楽は相対的にマイノリティであり、結果的に「洋楽的」になっているということではないだろうか。

 ジャンルの話で言えば、2010年代前半に海外で大きな流れを形成した、「インディ」や「アンビエント」といった枕詞のついたR&Bやヒップホップをはじめとする、広義のオルタナティブなクラブミュージックを鳴らすバンドが増えている。ユースカルチャーとしては、まだまだバンド文化が根強い日本において、彼らは中高生のときに自然と楽器を手にし、バンドをスタートさせているものの、リスナーとしては途中から非ロック的な音楽を聴いて育ち、それを表現するべくアナログシンセやサンプリングパッドを用いる。「ライブハウスとクラブをつなぐ」という感じは薄く、そこに関しても、自然と分け隔てがないといった感じだろう。

 いくつか具体的にバンド名を挙げてみると、Yogee New Wavesやnever young beachと同じレーベルからリリースしつつ、ミニマルテクノをバンドスタイルで演奏するD.A.N.、ポストダブステップ以降のビートミュージックを鳴らし、今年フジロックの深夜を盛り上げたyahyel、日本におけるジャズとヒップホップのクロスオーバーを体現するWONKなどが代表的。また、すでにメジャーデビューを果たした雨のパレードは、この世代の感覚をJ-POPのシーンまで持ち込むことに意識的に活動し、「NEW ERA」がHondaのCM曲に起用され、「ネクストSuchmos」なイメージが鮮明化しつつあるNulbarich(もちろん、本人たちはそんなこと全く意識していないだろうが)は、ルーツにヒップホップがあり、トラックメーカー的な資質を持っているのが今っぽい。DATSやsui sui duckといった今年新作をリリースしているバンドも、この大きな流れの中に位置していると言えよう。

 もうひとつ、Suchmosのブレイクが象徴していたのは、音楽とカルチャーの距離が縮まったということであり、リーバイスとのコラボレーションや、YONCEのBEAMS40周年記念プロジェクトへの参加など、音楽とファッションは再びの蜜月を迎えている。例えば、GAPは音楽プロジェクト『1969 RECORDS』を立ち上げ、昨年はnever young beachや雨のパレード、今年はyahyelらが参加し、オリジナルのミュージックビデオを公開。ファッション/カルチャー誌にバンドマンが登場する機会も増え、最近では『EYESCREAM』でのDATSとLITHIUM HOMMEのコラボレーションが記憶に新しいし、sui sui duckはアー写やジャケットでSTUDIOUSとコラボを展開。こうした動きも2010年代後半らしい。

 さて、こうした流れを踏まえて、今後活躍が大いに期待されるバンドが、9月6日にミニアルバム『D.R.E.A.M.』を発表するPAELLASだ。キャリアは決して短くないが、幾度かのメンバーチェンジと、大阪からの上京を経て、現在はnever young beachのメンバーでもあるギタリストのSatoshi Ananや、サンプリングパッド担当のmsd.を含む5人組として活動。2014年にはUnited Arrowsの映像企画『NiCE UA』シリーズの音楽を担当し、昨年には2012年リリースの1stアルバム『Long Night Is Gone』に収録されていた「Distance」がPeach JohnのCMに起用され、さらには新宿のセレクトショップJackPotのシーズンビデオで音楽を担当するなど、すでにファッション業界では名の知れた存在となっている。そんな彼らが6月にスペースシャワーミュージックとのマネジメント契約を発表し、いよいよ本格的にシーンに浮上して来そうなのだ。

 現在のPAELLASが鳴らすのは、彼ら自身がルーツのひとつとして語っているKindnessや、その盟友でもあるBlood Orangeらが2010年代前半に確立したインディR&Bと、そこから派生したエレクトロハウスを軸とした楽曲。そのアーバンかつセクシャルな雰囲気は、Frank OceanやThe Weeknd、あるいはSam Smithといった、やはり2010年代前半にブレイクしたビッグネームとも通じる感覚がある。まずはYouTubeでの公開から一週間ですでに20万回再生を突破しているリードトラック「Shooting Star」を聴いてもらいたい。少ない音数でグルーブを紡ぎ出すベースとドラムに手打ちのサンプリングパッドが加わって、トラックと生バンドの中間のような質感を作り出し、シャープなカッティングで絡むギター、トレモロのかかったエレピも含め、そのサウンドデザインは実にモダンだ。

 そして、やはり耳に残るのがボーカルMATTONのシルキーでセクシーな歌声。その魅惑的な声質は、昨年Tokyo Recordingsのプロデュースでアルバムを発表しているCapesonと並び、現在のインディシーンにおいて突出した存在感を放っていると言えよう。アルバムの中盤に収録された「MOTN」は彼らなりのビートミュージックで、先鋭的な音楽に対する感度の高さを示しているが、一方で「Shooting Star」とオープニングを飾る「Together」では、これまでの英語詞ではなく、日本語と英語を組み合わせた歌詞にトライしていて、この国のポップス像を更新しようとする意識も伺える。「Together」では〈yeah all song were already written/but now i can feel new air〉と歌っているように、これまでの音楽の歴史に立った上で、自分たちで新しい音楽を創造して行こうとする野心が感じられることは、非常に頼もしい。

 こういった現在の状況を考えると、やはり歴史は繰り返すのだなと感じる。今から10年前、2006年はMySpaceが日本でのサービスを開始した年であり、それをきっかけに、2000年代前半の海外のトレンド、ガレージロックからポストパンク、エレクトロなどが一気に日本に流入すると、その中で8otto、the telephones、サカナクション、80kidzなどが、自分たちの世代の音を鳴らすべく、活動を本格化させていった。本稿で紹介したバンドの一方で、現在新たなパンク/ガレージロックのシーンが盛り上がりつつあるのも、どこか当時と似た空気を感じる。なので、「海外との同時代性」といった言葉を改めて持ち上げるつもりはないのだが、少なくとも、今また日本の音楽シーンが新たな局面に入りつつあり、僕はその状況にとても興奮しているということが伝わってくれれば、それだけで十分だ。(文=金子厚武)