テレ東深夜ドラマ枠をジャックした本格ホラー、『デッドストック〜未知への挑戦〜』がヤバい

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 「ドラマ24」と呼ばれるテレ東金曜深夜のドラマ枠が、映画好き、ドラマ好きから特別な注目を集める枠になって久しい。その理由は、(もちろん例外もあるが)他局の深夜ドラマ(深夜に限らないけど)が芸能事務所主導でキャスティングから企画がスタートしているように見えるのに対して、テレ東のこの枠で放送されるドラマの企画は監督、脚本家などのスタッフが「立って」いる作品が多いからだ。『モテキ』『孤独のグルメ』を筆頭とするヒット作品を生み出したこの枠は、現在「ドラマ24」に続く「ドラマ25」、そして土曜深夜の「土曜ドラマ24」と拡大し続けている。

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 もっとも、個人的には、ちょっと枠が増えすぎて求心力を失ってきたように思えること、そして他局の深夜ドラマも含めフェイク・ドキュメンタリー的な作品が増えすぎて食傷気味なことなどもあって、「とりあえず初回だけチェックする」みたいになってしまった作品も少なくない。で、現在金曜深夜の「ドラマ25」枠で放送中の『デッドストック〜未知への挑戦〜』もそんなユルい感じで見始めたわけだが、これは久々に本気でヤバいやつだった。というわけで、今回は何がヤバいかを列記しておくので、とりあえずみんな見てみてください。毎回一話完結なので、今から追っかけても全然遅くない。

■作り手がヤバい

 『デッドストック〜未知への挑戦〜』の脚本と監督にはそれぞれ複数のスタッフが参加しているのだが、海外のドラマでいうところのショーランナー的な立場、ドラマ全体の舵取りをしているのは、今のところすべてのエピソードの脚本に関わっていて、本日(8月18日)放送の第5話では監督としても登板する三宅隆太。TBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』にも様々な企画のゲストとして度々招かれ、その博覧強記ぶりでも知られる三宅隆太だが、彼の本職(の一つ)はスクリプトドクター。日本に数人しかいない「脚本の医者」として、これまで数々の有名作品にも関わってきた。

 そんな三宅隆太が脚本家としての主戦場にしているのがホラーのジャンルだ。最近ではデイミアン・チャゼル(『ラ・ラ・ランド』)やスコット・デリクソン(『ドクター・ストレンジ』)など、海外ではホラー作品の脚本家や監督として頭角を現し、そこから売れっ子監督になっていくという出世コースが定番化しているが、それはホラーがいくつかの明確な「型」を持っていて、そこでクリエイターの性質と才気がクリアにプレゼンテーションされるためでもある。スクリプトドクターでもある三宅隆太がホラーに魅入られ続けているのは、いわば必然でもあるのだ。

■ホラー描写がヤバい

 『ほんとにあった怖い話』『怪談新耳袋』をはじめとする人気ホラー・シリーズの脚本・監督を数多く手がけてきたそんな三宅隆太は、「テレ東」「深夜」というクリエイターの自由がきく絶好の枠を得て、『デッドストック〜未知への挑戦〜』でまるで水を得た魚のように容赦のないホラー描写を繰り出している。

 まず、画面が他のドラマに比べて圧倒的に暗い。で、暗いので部屋の明かりも暗くして見ていると、急にびっくりするような効果音とともに一瞬だけ禍々しいものが画面に映る。「音で驚かせすぎだろう」という声もあるようだが、この「音で驚かす」「画を見せるのは一瞬」というのは、90年代のJホラー・ブームの影響下で生まれた00年代以降の世界中のホラー映画においてスタンダードとなっている手法だ。『デッドストック〜未知への挑戦〜』は、そのスピーディーなリズム感と緩急に満ちたホラー描写で、ようやく日本のホラーが再び世界のホラーの最前線に復帰したような感慨をホラー・ファンの与えてくれる作品なのだ。

■物語の設定がヤバい

 『デッドストック〜未知への挑戦〜』の初回を見て最も感心したのは、その物語設定の巧みさ。昨年、テレ東は神谷町のオフィスから六本木のオフィスへ社屋を移転したばかりだが、本作の主要舞台はその神谷町の旧オフィスの倉庫。オフィス引っ越しの際に発掘された大量の番組素材VTRを整理する「未確認素材センター」に配属されたベテランディレクター(田中哲司)と若手ディレクター(早見あかり)と新人AD(村上虹郎)の3人が、本作の主要キャラクターとなる。3人は好調が続くテレ東の「いい流れ」から取り残されて、物理的にも旧オフィスに居残りとなってしまったドロップアウト組というわけだ。

 毎回、その過去の素材VTRに収められた放送NGとなった映像からエピソードが始まるのだが、その設定すべてがいかにも「ありそう」なのがいい。また、どうやら田中哲司演じるベテランディレクターがVTRの整理をしているのには、若手2人は預かり知らない「別の目的」があるようで、それがストーリーの縦軸となっている。

■オープニング曲もエンディング曲もヤバい

 本来ホラー作品に主題歌なんていらない、というのが持論ではあるのだが、『デッドストック〜未知への挑戦〜』はオープニング曲とエンディング曲もいい。オープニングはAKLO×JAY’EDによる「Different Man」。トロピカルハウスを通過した最新のプロダクションが施された流麗なボーカル&ラップ・トラックで、CMプランナーの長久允が手がけたオープニングタイトルと相まって、ともすれば「野暮ったいもの」と誤解されがちな日本のホラー作品のイメージを刷新していく。

 エンディングはUAの「Moor」。ご存知のように本作の主人公の一人、村上虹郎の母でもあるUAだが、(ホラーなので当然だが)大体において大変な目にあって憔悴しきっている村上虹郎を、まるで慰めるかのように最後に流れてくる優しいメロディと母親=UAのたおやかな歌声は不覚にもちょっと感動的で、毎回ホラー作品らしからぬ不思議な後味を残してくれる。

■最終回がヤバそう

 そんないろいろとヤバい『デッドストック〜未知への挑戦〜』なのだが、なんとその最終回には、事件後のオウム真理教に密着した『A』『A2』や、ゴーストライター騒ぎの後の佐村河内守に密着した『FAKE』などの異色ドキュメンタリー作品で知られる森達也が監督として登板することが発表されている。日本における(わりと安易な)フェイク・ドキュメタリー・ブームの発信源となったこのテレ東深夜ドラマ枠に、真打ち登場というか、いろんな意味で本当は登場しちゃいけない人が登場してしまう、そんなタブー感に満ちた仕掛け。スクリプトドクター三宅隆太と、本来は「スクリプト」の正反対にある「ドキュメンタリー」ディレクター森達也という、後にも先にもなさそうな禁断のタッグに、今から胸騒ぎを覚えずにはいられない。(宇野維正)