「業界研究」より「自社研究」 旭酒造と麺屋武蔵の共通点

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今や大手企業をも揺るがす深刻な事態となっている後継者問題。二代目が見つからない、創業者との間に深い亀裂が生じるなど、大勢の経営陣が頭を抱えている。

しかし飲食業界に、数多の経営者が苦悩する伝統の継承をサラリと行い、次なる挑戦を楽しんでいる2人の若き社長がいる。旭酒造の桜井一宏氏と、麵屋武蔵の矢都木二郎氏だ。”今までにないニュータイプの後継者モデル”となった2人の経営哲学を、5回の連載で読み解いていく。(第1回はこちら>)

──「獺祭酒粕味噌ラーメン」など、お二方は様々な商品でコラボレーションされていますが、そこに至るまでにどのような経緯があったのでしょうか?

矢都木:最初は、僕から一方的に求愛したんです。ずっと「日本酒を使ったラーメンを作りたい」という思いがあって。何度も試作を重ねるうち偶然獺祭に出会い、ぜひこれでやってみたいと思いました。その後は、猛アプローチ(笑)!

桜井:いやいや、私たちもぜひ一緒にやっていただきたいと思っていましたよ。獺祭はもちろん、酒粕や米粉を美味しい料理にしていただけるのは本当に嬉しかったです。ありがたいお話でした。

「美味しい酒を造るために米を磨く」という工程では、7560トンの米粉が出てきます。また、同時に1500トンの酒粕も出ます。これを捨てずに何とか美味しく世の中に戻していきたいと思っていましたので

矢都木:それで生まれたのが、獺祭酒粕味噌ラーメンだったんです。いきなり「日本酒を使ったラーメン」と言ってもわかりにくいと思ったので、まずは酒粕を使って味噌ラーメンに仕上げました。

桜井:食べてみると予想以上に酒粕のコクがマッチしていて。美味しかったです。

矢都木:でも最初はびっくりされたんじゃないですか? ラーメンと日本酒?って。

桜井:正直、イメージはつきませんでした。それまでに何度か麵屋武蔵新宿本店でラーメンを食べていたんですが、結構しっかりした味付けですよね。そのイメージがあるだけに、日本酒とこれをマッチって一体どうなるんだろうと思っていました。

でも、その思いは麺屋武蔵さんのラボにお邪魔して変わりました。ラボには、過去にコラボしたラーメンのポスターがずらっと貼られていますよね。どんどんチャレンジして、多くのコラボラーメンを実現させている。「新しくなっていって、変わって行って良いんだ」という想いを感じて、そこが旭酒造に似ている気がしたんです。私たちも「昨日よりちょっとでもいい獺祭を」という想いで酒を造っているので。

矢都木:似ていますよね! 僕もそう思っていました。麵屋武蔵の合言葉は「チェンジ・チャレンジ」なんです。変わらないと生き残れない。旭酒造さんなら、そのスピリットを分かり合えると思ったんです。

桜井:ベンチャーの中には「商売関係なく成功することが夢」っていう企業もありますが、麵屋武蔵さんはそういう感覚じゃない。自分の中にしっかりしたイメージを持っていて、「ここでステップアップしていく。よりよくしていくんだ!」という決意があるんです。

矢都木:お互いに共感できるからこそ、心地よい関係を築けたんだと思います。僕にとって旭酒造さんは、ソウルメイトです。

──お二人には「飲食業」という共通点もあります。この世界で成功するには、どのような才能や心掛けが必要でしょうか?

矢都木:飲食業では、やっぱり食べるのが好きなほうがいいと思います。例えば僕の場合、休日は流行りの店や人気店に並んでみたり、最近トレンドのサラダを食べてみたりしています。でも、他社のラーメンは食べません。

桜井:私も、他社の日本酒はそんなには飲まないです。旭酒造の酒が一番好きだから。

矢都木:そういえば桜井さん、外出するときも獺祭を持っていくって聞いたことがあります。

桜井:そうなんです。フレンチでもイタリアンでも、どんな店に行くときも、事前に持ち込みの連絡を入れます。「お店のワインもちゃんと飲みます。でも、日本酒も持ち込みたいんです。持ち込み料をいくらとっても構わないし、何なら食事代を超えても構わないから」と。妻には文句を言われますし、店にもちょっとポカンとされますが。

矢都木:食事代を超えてもいいっていうのは、なかなかですね。なぜそこまでして持ち込むんですか?

桜井:単純に興味があるんです。「この料理と合うかな」とか、「このワイン飲んだ後だと日本酒の味が消えてしまう!」とか、色々な角度から獺祭を見る事ができますし。矢都木さんは、なぜ他社のラーメンを食べないんですか?

矢都木:「業界のどこを探してもない革新的なラーメンを生み出したい」という思いがあるからですね。新商品をつくるときは、過去に自分が食べたものや見てきたものを組み合わせると思うのですが、そのデータベースの中に他社の商品をインプットしたくないんです。

桜井:それも先代からの教えですか?

矢都木:ストレートに言われたわけではないです。ただ一つ、心に残っている先代の名言があって。「ラーメンを作ることが仕事ではない。お客様に喜んでもらうことが仕事だ」という言葉です。つまり、業界研究をして他社より美味しいラーメンを作ろうとするのではなく、お客様が喜ぶラーメンを一途に追及しなさい、と。この言葉を聞いた瞬間、肩の荷が下りたんです。

桜井:なるほど。私も、日本酒を飲み比べてマニアックに追及するより、獺祭を飲んで「美味しい」と言ってくれるお客様を見ているほうがずっと好きです。

矢都木:業界研究より、自社研究ですよね。

桜井:お客様には、自社の商品を味わって喜んでもらいたいですからね。他社のお酒で喜んでいる姿を見ても、悔しいだけ。

矢都木:ですよね。だから僕も、意地でも他社には行きません。ただ唯一、奥さんや子どもが「食べたい」って言ったときだけは、折れて食べに行きます(笑)。

──旭酒造と麵屋武蔵、どちらもブランド力があり、「獺祭」や「ら〜麺」が好きで入社される方がいると思います。社員は積極的に自社研究をしているのでしょうか?

矢都木:自社研究をするだけではダメなんです。「好き」を軸に自社研究をしたとしても、上手くいく人と、そうでない人がいるんですよ。

桜井:うちにも酒造りが好きで入社する人がいますが、その気持ちだけでは続かないです。どちらかというと、仕事としてお客様のために酒を造っている人が伸びる。

矢都木:そうですね。麵屋武蔵にも、たまにラーメンマニアみたいな人が入社しますが、続かないです。決して仕事ができないわけではないんですが、そういう人は自分のためのラーメンを作ってしまう。一方で上手くいく人は、お客様のために商品を作って、それを何よりも嬉しく感じるんです。

桜井:経営者としても、それを伝えていくのが大切だと思っています。「お客様がこんな笑顔になっていたよ」「美味しいと言って飲んでいたよ」と口頭で伝えたり、実際に見てもらったりすると、社員は自然にお客様のほうを向いていく。

矢都木:実際に何か取り組みをされていますか?

桜井:取り組みというより、自然に起きたことなんですが……。私が前職をやめて旭酒造に入社した頃、社員たちはお客様が見学に来ていても誰一人挨拶をしていなかったんです。何となく恥ずかしいのか、ちらっと見て引っ込んでしまう状態。でも、数年前から変わってきたんです。しかも私が何か手を打ったとかではなくて。

お客様のおかげなんですが、「ここのお酒おいしい」「楽しかった」という言葉を聞いた社員たちが、自分の仕事がお客様の幸せにつながっていることを実感したんです。そうしたらもう「旭酒造さんは挨拶がいいね」と褒められるくらいになって。お客様の気持ちを社員に伝えていくことが、社員をレベルアップさせる一番の近道だと思っています。

矢都木:お客様の笑顔がモチベーションの向上につながり、獺祭の旨さを生み出しているんですね。自分のためではなくお客様のため、それが一番だと気づけたとき、人は成長するんだと思います。[第3回に続く]

桜井一宏◎旭酒造代表取締役社長及び四代目蔵元。2009年まで常務取締役、その後2016年9月まで取締役副社長として海外マーケティングを担当。米国、香港、シンガポール、フランス等でのイベントやセミナーを通じて獺祭の海外売上を促進し、12年間で28倍にした。2016年10月より代表取締役社長に就任。四代目蔵元となる。

矢都木二郎◎麺屋武蔵 代表取締役社長。埼玉県生まれ。城西大学卒。大学卒業後、いったん一般企業に就職するが、24歳で独立開業を目標に麺屋武蔵に転職。以来、麺屋武蔵一筋。27歳で上野店店長に昇格。店の運営・経営を任される。2013年11月11日、先代社長からバトンを受け2代目の代表取締役社長に就任する。