都内への交通アクセスがよく、「共働き子育てしやすい街〜地方編」(日経DUAL発表)のランキングで5位と評価されている千葉県松戸市。首都圏では様々な自治体で保育士の争奪戦になっているが、松戸市では先取りのサービスも実施するなど独自の取り組みをしている。

 東京に近い首都圏の苦悩を本郷谷健次市長(68)に聞いた。

待機児童はゼロになったけれど……

――待機児童の現状認識をお願いします。

本郷谷 女性も社会参加するようになり、社会で子どもを育てる体制を組まなければなりません。共働きをしないと生活が苦しいという現状もあります。市としては子育て政策を先取りするくらいの気持ちでやっています。待機児童対策というよりも、社会で子どもを育てる環境を整備していきます。

 現実の課題としては、子どもたちの保育園への入所申し込みが毎年500人増えていること。つまり、定員を500人増やしても、待機児童数はそのままです。しかし先取りの政策をすることで、2年前から待機児童がゼロになりました。ただ、これは国の基準であり、実際には要望している人がみんな保育園に入れている状態ではありません。


2010年から松戸市長を務める本郷谷氏 ©渋井哲也

――年齢によってもニーズは違いますか?

本郷谷 保育園に入所した子どもの割合を年齢別に見ますと、0歳で15%、1〜2歳が35%です。3〜5歳では(幼稚園とあわせて)95%。3〜5歳の内訳は、35%が保育園、幼稚園が60%。3歳以上は対応する施設が充実しています。一方で、0〜2歳では待機児童が多く、特に1〜2歳の保育需要が高く、施設が間に合っていません。

 幼稚園の定員は1万人ですが、実際に入園しているのは7000人。幼稚園は施設オーバーです。一方、保育園は定員に対して100%を超えています。保育園を作れば作るほど、幼稚園から保育園に移っていく傾向です。3〜5歳用の保育園を作っても、幼稚園の施設を余らせてしまいます。幼稚園を活用して、保育需要をまかないます。

 1〜2歳児向けには、小規模保育所を作っていかないといけません。ここ2、3年で小規模保育所を45ヶ所作りました。松戸市内にはJR、私鉄をあわせて23駅あり、各駅前に小規模保育所を整備しました。やはり街中で一番便利なところは駅です。駅近くで空いている店舗や空きマンションを活用しています。

 3〜5歳はできるだけ幼稚園を活用し、延長保育をするようにしています。ただし、幼稚園はこれまで「保育」をした経験がないため大変です。幼稚園教諭とは別に保育士を雇わないといけません。幼稚園で預かり保育をすると保護者負担が大きくなりますが、保育園で預けても幼稚園で預けても、トータルの費用負担が変わらないようにしています。具体的には、差額の月額2万5000円を保護者へ補助しています。

 女性の就労が進むにつれて、2022年には1〜2歳児童の保育園利用が60%になっていくと言われています。現状のままでは、保育園の定員が25%足りない。松戸市は1学年で約4000人です。1歳でも2歳でも各1000人分、加えて0歳児の増加分もあります。1つの施設で定員20人として、100を超える施設が必要です。社会のニーズに合っていません。

――保育士の確保が大変そうですね。

本郷谷 施設を増やすと、保育士が必要になります。小さい子には4、5人に1人は保育士が必要となります。4人に1人としても、定員が1000人分増えれば400人は保育士が必要です。確保体制が重要になりますが、市で単独でやれることはやります。

 保育士確保のため、東京都では保育士の給与補助を月額平均4万4000円とする方針を決めていますが、松戸市で保育園を経営している事業者からすると、非常に不安感が出ています。松戸市は江戸川を渡れば東京都です。こういう問題は国がちゃんと政策を打ってくれないと、疑心暗鬼になってしまいます。我々も保育士確保のために追随しなければならない。財政力競争になり、現場は大混乱に陥る恐れがあります。

松戸市独自の「保育送迎ステーション」

――松戸市では具体的に何をしていますか?

本郷谷 賃金の加算をしています。勤続年数に応じて月額6500円〜7万3000円を補助しています。平均すると一人2万円くらいです。東京都はこれまで2万3000円だったものを4万4000円にしました。我々も2万円アップします。県が補正予算で1万円、市としても1万円加算しますので、平均4万円となります。

 また、新卒から5年間、家賃補助をします。法人が借り上げる宿舎の場合は、1部屋あたり月額8万2000円を上限に、市は4分の3を負担します。保育士個人がアパート等を借りる場合は、新卒で月額3万円を上限に補助します。

 保育士の負担軽減のためにできることもあります。給食の配膳などの現場の仕事は無資格者でもできます。そうした保育補助職員を採用する場合には、市では補助金を出します。今年から、保育補助職員に対して保育士資格試験講座の費用も貸付しています。合格するなど条件を満たせば返済をする必要がありません。子どもたちへの投資は最優先です。国がやらないから、市もやらないというのでは困ります。負担は覚悟しています。

――独自の政策として駅前の送迎保育ステーションを作っていますね。

本郷谷 2015年10月から、松戸駅前に作っています。1歳から就学前の子どもを一時的に預けることができます。また、地域の保育所に預けられない3歳児から就学前の子どもをステーションに預けることで、指定の保育所までバスで送迎します。

 保育所は市内に偏在しています。地域間のアンバランスが生じたり、幼稚園でも延長保育ができないと、保育需要とのギャップが出てきます。それを解消するためのステーションです。現在は保育送迎ステーションは1ヶ所ですが、補正予算で2ヶ所目を用意しています。全国でもあまり聞いたことがないサービスです。


保育園は教育の場でもある ©iStock.com

――質的な担保はどうするのでしょうか?

本郷谷 従来は「保育は家庭、教育は幼稚園」でしたが、今の保育園や幼稚園では両方が必要です。教育機関である幼稚園でも保育が、福祉施設である保育園でも教育が望まれています。また、一口に保育の質といっても様々な面があります。保育園の年長組では「楽しい英語あそび」をしています。保育園でも教育機関の位置付けを強化します。市では「幼児教育担当室」を作って、就学前の教育にどう取り組むかを考えています。

 保護者への支援も大切です。昔なら祖父母や地域の人が相談に乗ってくれましたが、いまはいなくなりました。3歳までの乳幼児の保護者が集える「おやこDE広場」は23ヶ所あります。ワンストップで相談に乗っています。

――負担は市民も受け入れているのでしょうか?

本郷谷 基本的にはとやかく言う人はいません。しかし経済的に苦しい高齢者も増えています。そのため、「子どもばかりでなく、高齢者にもお金を使ってほしい」という声はあります。いずれにせよ、子どもと高齢者への支援は必要です。松戸市では70歳以上の人口は約9万人います。また、高齢者の独り住まいが増えています。病気の時は不安ですし、ほとんどは年金生活者です。本来であれば、子育てや高齢者施策は国がすべきです。今のままでは破綻してしまいます。

――国や県に対して望むことはなんでしょうか?

本郷谷 千葉県は東京都に近い場所と、房総南部とではニーズが違います。県としては、一律でやらないといけないわけですが、なかなか難しいのが現状です。今のところ、国の方針がはっきりしませんが、世の中、待ったなしです。女性活躍社会というのなら、実効性のあるようにしてほしいです。個々の政策がつながっているのかが見えにくいのです。更に言えば、子どもを産めるような政策を打ってほしいですね。我々が先取りでやっていることに、国が後からついてくると思っています。先行する意味はあると思います。

(渋井 哲也)