画像提供/旭化成ホームズ(ヘーベルハウス)

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「グランピング」(※1)や「グルキャン」(※2)などの言葉が生まれ、アウトドア関連の商品が売れ行き好調など、アウトドアブームの昨今。ついには、アウトドアなのに家の中のリビングと合わせた「アウトドアリビング」という言葉まで登場した。「アウトドアリビング」とはどんなもので、何が魅力なのか? 旭化成ホームズ(ヘーベルハウス)とミサワホームに話を伺った。

※1:グランピング/グラマラス(魅惑的な)とキャンピングを掛け合わせた造語で、手軽にぜいたくなキャンプを楽しむアウトドアスタイルのこと
※2:グルキャン/友人同士やファミリー同士で楽しむ、グループキャンプのこと

若い世代だけでなく、あらゆる世代に人気のアウトドアリビング

都市型住宅を得意とする旭化成ホームズでは、従来から屋上や大きなベランダの設置を提案している。2015年からは「アウトドアリビング・キャンペーン」と銘打ったキャンペーンを展開中だ。これは屋上や大きなベランダを「空が見え、風が通り、光が広がるアウトドアリビングとして活用し、毎日の暮らしを楽しくしよう」というキャンペーンで、友人や家族でテントを設営したり、バーベキューや天体観測を楽しんだりといった具体的な楽しみ方のアイデアを専用のカタログで紹介し、全国の展示場で実際に体験できるようにした(2017年は4/29〜5/29で一旦終了)。といってもキャンペーン前と後で特に屋上やベランダの仕様を変えたわけではないのだが、キャンペーン初年度の2015年は屋上設置の棟数が対前年比で約2倍に伸びたという。

「キャンペーンを行うきっかけの一つに、2011年に発売した『そらのま+』という商品のヒットがあります」と同社の広報室・高村淳子さんはいう。「この商品は2階にリビングを設置し、その一部を屋根のない半屋外空間として活用しようという発想の住まいです。都市部の狭小地でも外部の視線を気にせずに、光や風などを採り入れた暮らしが手に入れられることから支持をいただきました」(高村さん、以下同)

リビングの一部を半屋外空間にしませんか?ということは、例えば本来リビングを12畳つくれるところを、リビング6畳+半屋外6畳にしませんかと提案するのと同じこと。ひと昔前なら「できるだけリビングは広くしたいから」と断る人も多かったかもしれないが、コンパクトでも広々と暮らす工夫があり、自然との一体感が得られるということでヒットしたという。

【画像1】2階のリビングの一部を半屋外空間にすることを提案した『そらのま+』。2階の半屋外空間なら道路への飛び出しなどがないから、安心して子どもを遊ばせることができるため、子育て世代や愛犬家にも好評だという(画像提供/旭化成ホームズ(ヘーベルハウス))

「『そらのま+』が支持されたことから、広い家、豪華な家よりも自分らしい価値観を大切にする若い人が増えたのだということを実感しました」。折しも2015年のリクルート住まい研究所による調査でも、若い世代ほど「家は家族の思い出を刻むもの」という意識が強いという結果が発表されている。モノよりコト、というかスペックよりコト、なのだ。

ちょうどキャンペーンを始めた2015年は、アウトドアブームが顕著になってきたころで、SNS映えするようなかわいらしいアウトドアグッズや、手軽にアウトドアを楽しめるグッズも増えてきた。「そこで最初は若い人をターゲットにキャンペーンを始めたのですが……」。

フタを開けてみれば、若い層だけでなく、20代から70代まで全世代にウケたとのこと。例えば、「人の目や煙などを気にせずBBQが楽しめます。友人を招待したときも喜んでくれます」という30代の女性や、「屋上で初日の出を鑑賞。わざわざ出かけなくても、自宅の屋上で見られるのがうれしいです」という40代の男性、「草花の手入れやゴルフの練習など、好きなことを好きなときにできるのがいい」という60代の男性もいたという。ほかにも流星群や花火大会が楽しめる、お風呂上がりにちょっと屋上でくつろげる、安心して子どもをビニールプールで遊ばせることができる……さまざまな声があったそうだ。

「大きな庭や豪華なリビングではなく、晴れたら外でビールが飲めるとか、たまにバーベキューを楽しむこともできるとか、いろいろなことがちょっとずつ楽しめる、そういう空間が求められていたのだと思います」と高村さん。

【画像2】太陽光発電システムの発電効率アップや、設置技術の向上によって、屋上+太陽光発電の併用も容易になっている。屋上+太陽光発電を併用するのは約半数だそう(画像提供/旭化成ホームズ(ヘーベルハウス))

同社のキャンペーンが好評なのは、アウトドアブームだからではなく、ちょっとしたことを家族で手軽に楽しめる空間を実は多くの人が求めていたという証ではないだろうか。リクルートが発表した「住宅領域における2017年のトレンド」では「リビ充家族(リビングを最大に広げて、空間は共有しつつも、各々が好きに充実した時間を過ごす家族)が増える」と予測したが、アウトドアリビングはまさに「リビ充家族」が求めていた空間だったということができそうだ。

アウトドアリビングは一生楽しめる空間として活用できる

ミサワホームもアウトドアリビングに力を入れている住宅メーカーの一つだが、同様の考え方を実は30年以上も前から提案しているという。「1986年に新しい暮らし方を提案した際に、初めてアウトリビング・アウトダイニングという言葉を使いました。屋外をリビングやダイニングの連続空間として使おうという提案です」と同社の商品開発部・木質デザイン課課長の仁木政揮さん。

以降この考え方は同社のさまざまな住まいに、時代のトレンドを採り入れながら採用されてきた。例えば家庭菜園やガーデニングがブームになったころに発表された「GENIUS 彩日の家」では、家庭菜園で育てた野菜を外と連続した土間のキッチンで料理して、土間のダイニングで食事ができるような暮らしを提案、といった具合だ。

【画像3】「Granlink HIRAYA」(九州エリアの商品)では、空間を正方形ではなくあえてL字型にして、くぼんだアウトスペースにビニールプールを置いたり、バーベキューを楽しめるデッキ空間を備えた。室内からでも子どもを見守れる(画像提供/ミサワホーム)

【画像4】「CENTURY Primore」では、天井いっぱいまである開口部の室内外の仕上げをそろえて室外のアウトリビングと一体化。これにより開放的でより広さを感じられる。また南北の窓から風が通り抜け、室内でも自然を感じやすい(画像提供/ミサワホーム)

ところで最近のアウトドアリビング人気を、長年同様の考え方を提案し続けてきた同社のデザイナーとしては、どう捉えているのだろう。
「アウトドアリビングとは単に洗濯物を干したり、植栽を楽しむだけの庭とは違い、ちょっとしたことができる、生活の幅が広がる屋外空間だと考えています」(仁木さん、以下同)

そして、こうした空間がウケているのは、日本の気候や風土の影響が強いのではないかと仁木さんは指摘する。「吉田兼好が『徒然草』で書いたように、夏の暑さや湿気対策として日本の家は昔から外に向かって開放的につくられていました。そのため外の景色を楽しみ、季節を感じながら暮らすということが、日本人にとってごく自然なことになっているのではないでしょうか」

同社では、さらにアウトドアリビングの新たな暮らしも提案している。その一例が二世帯住宅の「GENIUS GATE」だ。「玄関ポーチ部分に中庭のように落ち着いて過ごせる半屋外空間を設けました。リビングと比べて玄関先ですから二世帯が気軽に、自然と顔を合わせやすくなると思います。またこの空間は外に向けても開かれているので、近隣の方も気軽に集まりやすい場になります」

【画像5】「GENIUS GATE」では2階部分の子世帯家族や近隣の住民と気軽に顔を合わせ、会話が弾むような玄関先空間が設けられている(画像提供/ミサワホーム)

現在の多くのアウトドアリビングは個人や家族が楽しむことが中心だが、「GENIUS GATE」では親と子世帯や近隣住民との交流の場としても活用しようというわけだ。かつて当たり前にあった応接間は無くなり、ゲストを迎え入れるのはリビングくらい。しかし「家の中のリビングに招き入れるとなれば、それなりに親しい人だけに限られ、それ以外の人とのコミュニケーションの機会を失うことになりかねません」
例えば退職して会社に行かなくなったら、地域に溶け込めないと孤独を感じやすくなりそうだが、今後の高齢化社会にも、アウトドアリビングは役に立つのではないだろうか。

「アウトドアリビングは、立地とどんな暮らし方をしたいのかによって、ピッタリと合ったカタチがあると思います。I字型やL字型がいいのか、中庭にするのか。外の視線を遮る目隠しの方法一つをとってもたくさんあります」と仁木さん。

アウトドアリビングに興味があったとしても「アウトドアリビングが欲しい」と伝えるのではなく、まずどんな暮らしがしたいのかということを考え、理想のアウトドアリビングをハウスメーカーや建築会社と一緒に考えるのが大切。バリエーションやノウハウがある今なら、きっと末永くアウトドアリビングのある暮らしを堪能できるだろう。

●取材協力
旭化成ホームズ
・ミサワホーム
(籠島 康弘)