「Thinkstock」より

写真拡大

 現在、世界経済は緩やかに回復している。これを支えている主な要因が、米国と中国の景気の安定だ。ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に注目すると、米国、中国ともに短期間で景気が悪化するとは考えづらい。米国では労働市場を中心に景気は回復基調にある。上半期の企業業績も好調だ。中国では、習近平国家主席が長期的な支配基盤の整備に注力している。インフラ投資などが中国経済の回復を支えるとの見方は多い。

 そうした状況下、米国の株式市場が予想外の高騰を続けている。バブルが発生していると考える専門家は多い。ロンドンやニューヨークを拠点とするヘッジファンドのポートフォリオマネージャーらと連絡を取ると、「年内は、米中の景気回復、米株のバブルに支えられて世界経済の回復は続くだろう」との答えが返ってくる。一方、来年に関しては見方が分かれる。

 言い換えれば、年明け以降、多くの投資家が株を売り、バブルの崩壊や景気の変調に備えようとしているのだろう。ただ、市場は想定通りには動かないことがほとんどだ。夏場以降、米国の株式市場の調整圧力が高まる可能性は軽視できない。

●歴史的な低ボラティリティのなかで膨らむ米国株式のバブル

 今年に入って以降、世界の金融市場では金融資産の価格変動率(ボラティリティ)が低下してきた。その一例にVIX指数(米S&P500指数を構成する株式の価格変動率の動向を示す指標)がある。4月以降の期間で見ると、北朝鮮によるミサイル発射や米トランプ大統領と側近がロシアと癒着していたことへの疑惑(ロシアゲート)の高まりを受けて、ボラティリティが一時上昇する場面もあったが、歴史的な低水準で推移している。

 この状況のなかで米国の株式市場は史上最高値を更新してきた。企業業績の回復に加え、低金利環境が続くのではないかとの見方が株価の上昇を支えているようだ。株価の高騰を受け、米国株式市場でバブルが発生していると指摘する専門家は増えている。

 バブルの発生には、カネ余りと成長への期待の2つの要因が必要と考えられる。米国のFRB(連邦準備制度理事会)は利上げを進めてはいるものの、その政策方針は慎重だ。足元では、インフレの軟化を受けて年内の追加利上げが難しいのではないかとの観測も増えている。ユーロ圏と日本では、マイナス金利政策や量的緩和策が実施されている。

 加えて、世界的に賃金は増えづらくなっている。そのため、物価の上昇圧力も高くない。それが金利の上昇を抑えている。この結果、よりリスクの高い資産に投資資金を振り向け、リターンを高めようとする投資家が増え、株価が上昇した。

 現在、成長への期待は米国のハイテク企業の業績に支えられている。特に、買収などを通して自社の経営プラットフォームに他企業のビジネスを取り込むアマゾンの成長期待が高まってきた。加えて、ビッグデータやネットワーク技術に関する期待も高まっている。

 この結果、2009年3月にリーマンショック後の最安値を付けた米国の株式市場は7月末まで3倍以上も上昇した。経験則では、数年間で株価が数倍になるとバブルは絶頂期を迎えた可能性がある。米国株式市場はバブルの絶頂期にあると考えるべきかもしれない。

●バブルの崩壊プロセス
 
 バブルはいつまでも続かない。買うから上がる、上がるから買うという強気な相場は、どこかでピークをつける。そのあとは、急落が待ち受けている。相場の格言には“天井三日、底百日”というものがある。これは、バブルの絶頂期に買いが買いを呼んで短期間で相場の天井=最高値が形成された後、堰を切るように相場が急落し、停滞に陥った歴史に基づいている。

 バブルの崩壊には、それを象徴するような出来事やイベントが発生していたことが多い。難しいのは、バブルの渦中にいると相場の調整を示唆する動きよりも、価格の上昇に気がとられてしまいがちであることだ。そのため、バブルがはじける前に人よりも先に株を売ると豪語していた投資家の多くがバブル崩壊にのまれ、莫大な損失を被ってきた。

 バブル崩壊のサインとなったイベントとして、2000年9月のインテルショック(インテルが売り上げ見通しを下方修正し、世界的にハイテク銘柄が急落したこと)がある。これは、ITバブル崩壊の一因といわれている。07年8月には、米国のサブプライム層の消費者の信用力低下を受けて、住宅ローンを裏付けとする証券化商品の価値が下落し、それに投資していたヘッジファンドの資金繰りが悪化した。これはITバブル後の米国経済を支えた住宅バブルの崩壊を象徴する動きのひとつといわれている。

 14年年央の原油価格の急落は、リーマンショック後の“コモディティバブル”崩壊のサインと考えられた。リーマンショック後、中国の財政出動は世界的な資源開発ブームを引き起こした。そのなかで米国は、“シェールガス革命”の熱気に浸った。この結果、世界的に供給圧力が高まり、原油をはじめとする商品相場が下落した。

 この後、16年11月の大統領選挙まで米国株式市場は上値の重い展開となった。この間、FRBは慎重に金融政策を運営することで株式市場の下落を防いだといえる。大統領選挙後はトランプ政権のインフラ投資などへの期待が鉄鋼などの株価を押し上げ、年初来ではハイテク企業の成長期待がバブルを膨張させてきたと考えられる。

●注意が必要な秋口の米国株式市場の動向
 
 今後の展開を考えたとき、米国の金融政策はバブル崩壊の一因になるかもしれない。早ければ9月にもFRBはバランスシートの縮小を開始し、3回の量的緩和策を通して買い入れてきた債券の保有額を減らす可能性が高い。これは、中央銀行がバブルの膨張を抑え、金融緩和の余地を確保しようとし始めていることを示している。

 米国の企業業績の拡大が続くか否かも不透明だ。7月28日までに発表された4-6月期の企業決算を見ると、S&P500を構成する企業は平均して10.8%の増益を記録した。7-9月期以降の業績予想はこれまでよりも慎重なものが多い。特に、ハイテク企業の増益が達成できるか否かは重要だ。もし、アマゾンが事業拡大のコストを吸収できないことが明らかとなれば、ハイテク銘柄への弱気な見方が増える可能性もある。

 米国の経済指標を見る限り、今すぐに相場が変調をきたす可能性は低そうだ。それでも、FRBの金融引き締めがカネ余りを吸収し始めれば、資金の調達コストは高まるだろう。それは、株価の上昇を通して先行きへの期待を高めてきた投機を抑制するはずだ。

 米国の上院ではオバマケアの改廃と代替に関する法案が否決され、トランプ政権の政策運営は行き詰まっている。政権内部での側近の対立も浮き彫りとなるなか、スムーズな政策立案と議会承認を期待するのは難しい。

 米国では、雇用の改善にもかかわらず賃金が増えていない。景気回復の持続性を高めるためには、経済対策が必要との見方は増えやすくなっている。政権の混乱から経済対策の実施が見込みづらいなか、さらなる成長を期待するのは徐々に難しくなるのではないか。

 1990年代以降、米国は株式(IT)バブル(2000年代初頭まで)、住宅バブル(07年夏場まで)、コモディティバブル(14年半ばまで)を乗り継いできた。現在、いずれの資産価格も割高な水準にあると考えられる。バブルの乗り継ぎは難しいだろう。秋口の金融引き締めなどを境に株価が下落し、徐々に世界経済の景況感が悪化するシナリオは排除すべきではない。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)