「Thinkstock」より

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●まちのコンパクト化の必要性

 人口減少時代において、まち(市街地)をたたんでいく必要性が高まっている。人口増加時代にまちが大きく広がったケースでは、その後の人口減少により空き家や空き地が増え、まち全体の維持が難しくなっているケースは少なくない。まちが郊外に広がる過程では、中心市街地の空洞化が進んでいる場合も多く、コンパクトシティ化は中心市街地活性化政策とも密接にリンクする。

 コンパクトシティ化の必要性が主張される場合、主な理由は次の3つである。第一は、高齢社会において日常の買い物や通院のために自分で車を運転しなければ用を足せないまちは、暮らしにくいことである。第二に、人口減少が進んでいくなかでは、薄く広く拡散したまちの公共施設やインフラを、すべて維持することは財政的に困難ということである。第三は、地方においては税収に占める固定資産税の割合が高いが、中心市街地が空洞化してその価値が下がると、固定資産税収が維持できず、財政に悪影響が及ぶことである。

 一般には、第一の理由が強調されることが多いように見受けられるが、自治体にとっては財政上の第二、第三の理由がより切実である。

●進む立地適正化計画の策定

 これまでコンパクトシティ政策は、中心市街地活性化法の枠組みで行われることが多かった。しかし、成功事例として取り上げられるのは富山市くらいで、十分な成果が上がったとはいえない。

 そこで、新たなコンパクトシティ化の枠組みとして、都市再生特別措置法により「立地適正化計画」の仕組みが導入された(14年8月)。立地適正化計画は、住宅と都市機能施設の立地を誘導することで、コンパクトなまちづくりを目指すものである。策定する動きは急速に広がり、17年7月末時点で348都市が立地適正化計画に取り組んでおり、うち112都市が計画を策定・公表した(国土交通省調べ)。

 立地適正化計画では、住宅を集める「居住誘導区域」と、その内部に商業施設や医療施設、福祉施設などの立地を集める「都市機能誘導区域」が設定される。居住誘導区域外では、例えば3戸以上の住宅開発には届出が必要になり、開発が抑制される。

●コンパクトシティ政策の事例
 
 まちのコンパクト化に対する取り組みは、その契機や進捗度合いによって、およそ3つに分類することができる。

 第一は、財政破綻で否応なくコンパクトシティ化に踏み切らざるを得なくなったケースである。夕張市がそれで、住宅の多くを占める公営住宅(旧炭鉱住宅)の集約というかたちでまちのコンパクト化を進めている。中心市街地活性化計画や立地適正化計画によるものではなく、破綻後の取り組みという特殊なケースであるが、目指す方向は同じである。

 第二は、将来への危機感からいち早くコンパクト化を進め、一定の成果を出しているケースである。前述の富山市がそれに当たる。富山市の場合は、既存の鉄軌道を利用してLRT(次世代型路面電車)を整備するとともに、中心市街地や公共交通沿線に移り住むインセンティブを設け、近年は中心市街地の人口増加、地価回復という成果が明確になってきた。

 岐阜市は公共交通の整備を先行させてきた。路面電車が廃止された後、BRT(バス高速輸送システム)やコミュニティバスなど、バスを中心とする公共交通ネットワークの構築を進め、今はまちの集約を進めている。

 第三は、将来への危機感から取り組み始めたが、まだこれからというケースである。その一例には、LRTを導入しようとしている宇都宮市がある。富山市と異なるのは、既存の鉄軌道を活用するのではなく、全区間新設という点である。それだけに財政的負担が大きく、また、期待通りの成果が発揮されるのかの見極めが難しいものとなっている。

 埼玉県入間郡毛呂山町もこれから進めようとしている。毛呂山町の立地適正化計画は、空き家率や地価上昇率の目標値を設定している点がユニークである。空き家対策とリンクさせ、また、地価上昇によって固定資産税の税収維持を図ろうとしている。町村で最初に立地適正化計画を策定したのは毛呂山町であり、それだけ危機感が強いことを示している。

●公共交通の選択肢

 これら事例のうち、将来の衰退に対する危機感が特に強い例は、夕張市、毛呂山町である。富山市、岐阜市、宇都宮市はそれほどの危機感があるわけではないが、薄く広がったまちを維持できなくなるという問題意識が強い、地方の大都市という共通点を持つ。

 また、これら事例は、新たに整備する公共交通として、バスを重視するか(岐阜市、毛呂山町)、LRTを重視するか(富山市、宇都宮市)、それ以外か(JR廃線後はデマンド交通重視の夕張市)に分けることができる。LRTを重視する場合、既存鉄軌道を活用するか(富山市)、全区間新設するか(宇都宮市)の違いがある。

 公共交通として何を選択するかは、地域の状況によって異なる。富山市の場合は、恵まれた鉄軌道のストックを活用した。岐阜市は路面電車が廃止された上、鉄道は市外との交通手段に過ぎないため、バスネットワークを充実させるしか方法がなかった。宇都宮市では南北軸の鉄道はあるが東西軸がないため、LRTの新設で補おうとしている。毛呂山町は旧市街地の人口維持で既存の鉄道路線を保つとともに、ニュータウンと鉄道駅を結ぶバス整備に注力しようとしている。このように、コンパクト化を進めていく前提としては、公共交通の整備が重要になる。

 一方、居住誘導区域の設定は、客観的な基準に基づくのがわかりやすい。例えば富山市では、中心市街地と、鉄軌道駅半径500m以内およびバス停半径300m以内の地域としている。現状出ている112都市の立地適正化計画のうち、都市機能誘導区域、居住誘導区域ともに設定しているものは66都市(59%)にすぎない。居住誘導区域の設定は、地権者の利害に直結するため、設定を先送りしている場合も多い。居住誘導区域からはずれると、その土地の価値は下がっていかざるを得ないからである。

 それでも自治体は、将来の財政状況を考えると、いずれは居住誘導区域の設定を迫られる可能性が高い。自治体にとっては、財政破綻後に否応なくコンパクト化を迫られるか、それとも、その前の段階でコンパクト化に踏み切ることができるかという選択の問題になりつつある。
(文=米山秀隆/富士通総研経済研究所主席研究員)