元自衛官の奥茂治氏が慰安婦問題で韓国と歴史戦を戦っている。その背景には原因を作った2人の人物がいる。

 1人は済州島で女性を強制連行し、日本軍の慰安婦にしたという作り話を書き、韓国天安市の国立墓地に「謝罪碑」まで建てた吉田清治氏である。

 もう1人は政府の文献調査でも見つからなかった「強制連行」を、官房長官談話発表時の記者会見で認める発言をした河野洋平氏である。

 吉田氏の一連の言動は主として朝日新聞を通して世界に広まり、河野談話は日本政府が強制連行を認めた根拠として国連の特別報告者などによって引用され、日本に汚名を着せる決定的な文書にされてきた。

 いま、2人の子息が「日本国」を思う心から、親がもたらした不名誉を雪ぐために直接的あるいは間接的に行動できる立場にあり、関心がもたれる。

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日本に汚名を着せた2人

 吉田氏は、日本を貶める途方もない作り話を書き詐話師とも言われた。吉田氏の言動を主として報道したのは朝日新聞であった。

 朝日の権威が作り話を「事実」と錯覚させ、政府が調査した資料からは「強制連行」を見い出せなかったが、河野洋平官房長官は記者会見で「強制連行」を認める答弁をした。

 初出から32年後の2014年8月5日以降、朝日は吉田氏に関連する記事18件を取り消すが、「河野談話」は依然として存在し続けている。

 談話の存続が日本を貶め、国益を毀損していることは、事実と異なる慰安婦像や同碑文が世界のあちこちに今なお設置されていることから明らかである。外国に住む日系人をも困惑させ、不利益をもたらしている。

 いわれなき負の遺産に苦しむ日本にした河野洋平氏にとって、談話を検証した安倍晋三首相は許し難い人物のようで、5月31日には都内のホテルでの講演で痛烈に批判している。

 「安倍さんは、自民党は一貫して改憲を主張し、目指している政党だと言うが、間違いだ」と断言。昭和30年の自由党と民主党の合流の経緯で、「護憲党と改憲党が一緒になって改憲党になるはずがない」と語り、首相(党総裁)を「理解のしようもない」と猛批判したという(「産経新聞」6月1日付、以下同)。

 自民党総裁までやった人物が自民党の党是ともしてきた改憲を、合併前の状況で判断するとは、事後法で裁判するのと同じではないだろうか。

 そのうえで、「9条は触るべきでない。国民は納得しているのだから、このままでよい」と強調。さらに持論の憲法を現実に合わせるのではなく、「現実を憲法に合わせる努力」を唱え、「安倍という不思議な政権ができ、その人が指さす方向に憲法を変えていくなんて納得できない」と首相を呼び捨てにし言いたい放題だったと報道した。

 「河野談話」こそが日本を苦しめ続ける最大の汚点であり、今年死去した渡部昇一氏は河野氏を国賊と呼び、授与した勲章を返還させるべきだとまで語っていた。

責任感を滲ませる息子たち

 いま、焦点は夫々の息子たちに向けられている。

 吉田氏の長男は日本が蒙る汚名に堪えられず、奥茂治氏に処置のすべてを依頼した。奥氏は何度も現地を訪ね、謝罪碑に「慰霊碑」の石板を張りつけるが、韓国警察に呼び出されて渡韓後は出国禁止となる。それでも意気軒昂で、「吉田証言の嘘を訴えたい」として、公判を待ち望んでいる。

 河野太郎氏は政界の異端児と言われ、変人扱いされてきた。父と間違われ「従軍慰安婦の嘘を広めた野郎だ!」とツイッターに書き込まれた時は逆ギレして、「俺が何かしたか?」と反論している。

 1回生議員の時、先輩議員であった安倍氏の事務所を訪ねて、「安倍さんの集団的自衛権論に全面的に賛成します。安倍さんが将来、旗を揚げたら応援しますよ!」と熱く語りかけたそうである。

 河野氏を評価する安倍氏は第3次政権第1次改造内閣(2015年10月)では国家公安委員長で入閣させ、今度は外務大臣として起用した。独特の発言力や表現力、バイタリティ、創造性を生かして「地球儀を俯瞰する外交を展開してほしい」とエールを送った。

 太郎外相は「河野洋平の息子だが『洋平ではない!』」と語っているから、まずは一安心である。たとえ親父の所業とはいえ、国益を毀損することには敢然と対処してもらいたい。

 就任3日後にはフィリピンに出かけ、ASEAN(東南アジア諸国連合)や東アジアサミット外相会議に出席し、米ロ中などの外相と会談した。王毅外相は「あなたが外相になると知って、多くの人が期待を抱いたが、東アジアサミット(EAS)での発言を聞いて率直に言って失望した」と面罵し、反発したそうである。

 親中であった洋平氏の息子で、しかも外相として就任したばかりである。その太郎外相がEAS外相会議で「(中国を念頭に置いて)南シナ海における急進かつ大規模な拠点構築は継続しており、深く懸念している」と毅然として批判したからである。

 この発言に対し、王毅氏は「完全に米国があなたに与えた任務のような感じがした」とまで語ったと言うから、太郎氏自身はもとより、日本国家を侮辱する物言いであり、非礼である。

 こうした発想は、中国が従来ASEANの友好国などに根回しして言わせるスタイルからの連想で、日本を馬鹿にするにもほどがある。

 これに対し、河野氏は日本が戦後一貫して平和外交を進めてきたと主張した後、「中国には大国としての振る舞い方を身につけていただく必要がある」とやり返したというから、当意即妙で返り血を浴びせたように見事だ。

 外相としてのデビュー、しかも対中国の姿勢は評価できる。ただ(英語で話す)自信過剰は誤解を生みかねないし、(数日前に就任したばかりとはいえ深々と礼をして)相手外相を先輩とみる姿勢は国際社会に誤解を与える。くれぐれも日本の国益を棄損することがないような威厳と言動を願いたい。

特別報告者はNGOの意見を反映

 日本人には国連幻想があると言われて久しい。国連が決めたことだから、加盟国は守るだろう。日本は国連を尊重して、国連に協力していれば、日本の安全や国益が守られるはずである。このように国連を信じ切っているのが国連幻想である。

 国連幻想は、国連と冠のつく委員会などにまで広がっている。国連には総会や安全保障理事会、経済社会理事会、国際司法裁判所、事務局の「主要機関」があり、総会の補助機関として「人権理事会」がある。

 また、「国際原子力機関(IAEA)」などは関連機関であり、「世界保健機関(WHO)」などは専門機関である。これら主要機関、関連機関、専門機関が「国連機関」と称されるものである。

 国連は1948年に世界人権宣言を採択したのを契機に人権に関する条約を主導してきた。この条約に基づく「条約機関」として、拷問禁止委員会(拷問禁止条約に基づく)、女子差別撤廃委員会(女子差別撤廃条約に基づく)、人種差別撤廃委員会(人種差別撤廃条約に基づく)、その他、社会権規約、自由権規約、児童の権利に関する条約に基づく各委員会がある。

 人権理事会の特別報告者デービッド・ケイ氏は日本政府が慰安婦問題に関する記述で教科書に介入しているなどとみて、日本では報道の自由が脅かされていると理事会で報告した。

 拷問禁止委員会の特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏は日韓の慰安婦合意の見直しを韓国政府に勧告した。

 新聞などでは「慰安婦合意 国連委が見直し勧告」などと書かれるが、正確には先述したように国連憲章に規定がある国連機関ではない。委員会は独立した10人の専門家で構成されるが、NGOからの意見聴取が主で、政府見解はほとんんど反映されない。

日本は人権・人種差別撤廃の先導国

 よど号事件が起きた時、時の首相は「人命は地球よりも重い」と言ってテロ実行犯と交渉し、要求された身代金も与えて北朝鮮に送り出した。犯罪者の人権も擁護する日本を、世界は異様な目で見つめた。

 日清・日露戦争では国際法の専門家を同道して国際法に悖らない文明の戦争(人権を重視し、野蛮な行為をしないなど)に尽力し、国際社会の評価を得た。

 また、米国でバラク・オバマ大統領が誕生した時、世界は奇怪な目で見たが、人種差別撤廃を90年も前から主張した日本は冷静であった。

 若き日の近衛文麿が、自分の目を通して見た人種差別撤廃を論ずる会議の模様を書き残している(『戦後欧米見聞録』1919年刊)。

 「我(が)牧野男(爵)が人種的差別撤廃に関し最後の演説をさるるといふことはかねて呼(び)物になり居りしと見え、隣近所の記者連(は)余に向ひて何れがバロンマキノなりやと問ひかけ応接の煩しきに困りしも、またいささか肩身の広き心持もせり」と記す(かっこ内は筆者が補足)。

 会場には米国大統領ウイルソンや英国首相ロイド・ジョージ、仏首相クレマンソーなど、第1次世界大戦を勝利に導いた指導者たちが並びいる。そこに牧野男爵が呼ばれると「満場の視線は期せずして男(爵)の身辺に集中せり。(中略)満場は固唾を呑んで男(爵)の一言一句も聞き洩らさじとばかりに傾聴せしが・・・」と雰囲気を伝える。

 日本の提案は既に3回否決された。そのことを含んで、「日本の政府及び人民は彼らの正当なる要求が遂に委員会の容るるところとならざりしことを以て深く遺憾とし、今後なほこの提案が国際聯盟によりて採用せらるるに至るまでこれを主張して止まざるべし」と締めくくる。

人権条約から脱退を考えてはどうか

 大東亜戦争でも、日本は不必要に野蛮な行為はしなかった。言うまでもなく南京攻略戦では大虐殺は行わなかったし、また一般の子女を強制連行して慰安婦にすることはやっていない。

 しかるに南京戦では一般市民30万人を虐殺しただの、20万人の女性を強制連行して性奴隷にしただのと中韓は弾劾してやまない。両国は自国の内政の混乱の目を外に向けたい、あるいは日本を貶めて有利な立場に立ちたい、謝罪と補償を勝ち取りたいなどの政治的外交的意図から、虐殺や強制連行・性奴隷などを捏造し針小棒大に喧伝してやまない。

 実際のところ、近年まで軍人のための慰安婦を維持し、また人権無視の拷問を行うなど、悪辣非道な行為を行っているのは、日本を非難してやまない該国自体である。しかるに、条約機関の各委員会が、中国や韓国・北朝鮮などの人権を問題にしたことはほとんど聞こえてこない。

 その一方で、人権をことのほか重視にしている日本は批判され続けている。全く不条理である。日本を貶めたい内外のNGOなどの意見を国連特別報告者が採用して言い立てる結果である。

 拷問禁止条約や女子差別撤廃条約などに加盟しているから批判の対象にされる。ざっくり言って、拷問や女子差別などは今日の日本ではあり得ない状況である。条約からの脱退も一考に値するのではなかろうか。

外務省の答弁に異議あり

 日本人にとって外国は遠い国であり、事務を所掌する外務省は国民からかけ離れた存在であった。官僚は国益を忘れて利己に走り「害務省」とさえ揶揄されるようになる。

 慰安婦問題でも正面から否定せず、「(元慰安婦の女性たちに)哀悼の意を表明してきた」「アジア女性基金を設立し、償い金をお渡しした」などと述べるだけであった。これでは強制連行や性奴隷を認めたものと受け取られかねない。

 1996年の国連人権委員会に提出されたクマラスワミ報告で「性奴隷」と記された時、「受け入れる余地は全くない」とした反論書を外務省は一端提出するがすぐに撤回し、世界中に流布するままにしてきた。

 歯止めをかけようと努力してきたのは民間の有志で、山本優美子氏の団体「なでしこアクション」や元衆議院議員の杉田水脈(みお)氏らであった。

 外務省がようやく反論したのは、2016年2月、ジュネーブで開かれた国連女子差別撤廃委員会においてである。

 それも先述の有志がジュネーブに足を運び「強制連行」や「性奴隷」に反論してきた結果で、同委員会が日本政府に「最近、慰安婦の強制連行を証明するものはなかったとの報告を受けた。見解を述べよ」(杉田水脈「慰安婦問題 国連攻防のレポート」、『正論』2016年4月号所収)という質問書を出したからである。

 反論では代表の杉山晋輔外務審議官が「日本は女子差別撤廃条約に、1985年に締結した。従って、それ以前に起こっている慰安婦問題を取り上げることは適切ではない」と発言したという。杉田氏は「この一言で終わってしまうのか?」と不安になったと書いている。

 ところが、オーストリアの女性委員が慰安婦問題は人権に反すること、被害者への賠償や精神的なリハビリを行う用意があるのかなど多くの質問をしたことから、「日本の真実」を踏まえた答弁を杉山審議官が行なうことができたと述べている。

 日本の真実とは、強制連行は確認できない、慰安婦20万人の裏づけはない、性奴隷の表現は事実に反する、講和条約や二国間条約で個人の請求も含めて法的に解決済みなどと語ったことである。

おわりに

 一歩前進ではあったが、杉山審議官がクマラスワミ報告を否定せず、また間接的には河野談話を否定しながら、直接的に言及しなかったことは禍根を残したと言える。

 しかも外務省が「文書」で回答しなかったため、国連サイトにアップされず、せっかくの反論が国際社会で共有されることにならなかったと杉田氏は言う。

 去る8月12日には米国で白人至上主義を唱える団体と、それに反対する市民が乱闘騒ぎを起こした。その米国では、事実に反する慰安婦像を建設し続けている。

 このような理不尽かつ不条理はない。幸い河野太郎外相は英語が得意であるそうで、レックス・ティラーソン国務長官とも通訳を介せず会話したそうである。

 これまでの外務省は外国に裨益してきたきらいがあった。河野外相率いる外務省は、日本の国益を増大する官庁の認識に帰り、「日本の真実」を英語・中国語・韓国語などで発信してもらいたい。

 筆者は『外務省の大罪』(2001年刊)で外務省の無謬性を批判し、省庁改編では外務省が最初に改革されるべきと主張したが、いまだにアンタッチャブルな存在であり続けている。

 「洋平の息子だが、洋平ではない」という河野外相には、出だしで見せた官僚に操られない外務大臣として活躍し、国益に悖る「河野談話」を否定するくらいの度量を見せてもらいたい。それは総理への道にもつながるに違いない。

筆者:森 清勇