12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

文・脇田尚揮

【12星座 女たちの人生】第141話 〜射手座-最終話〜

―――半年後

大きな講義室にズラリと並んだ机。その前には教壇と部屋いっぱいの、大きな黒板。

基礎薬学入門の講義が終わり、座っていた学生たちが一斉に退室していく。私は、黒板に書かれてある内容を全てノートに写している最中だ。

どんなに小さなことでも、漏れなくメモしておきたいのは、もはや性分としか言い様がない。

『よし……っと』

だんだんと日も落ちてきた。ひとり残った講義室に差す夕日は、どこかノスタルジック。不思議と高校時代を思い出す。

大学生活が始まって、もうすぐ3ヶ月が経とうとしている。履修方法、講義内容、学生食堂……。何もかもが新鮮で、驚きの連続だ。

友達は……まだ出来ていないけど……。

―――恋人はいる。

講義室を出てLINEを確認する。

「6時に迎えに行くね」

とメッセージが入っていた。

6時まであと5分。急がなきゃ!

茜色のキャンパスでは、青春真っ只中の学生たちが“サークル棟”へと向かい、ゾロゾロ歩いている。

その流れに反するかのように、小走りで正門前へと向かう。

―――いた!

見覚えのあるBMWが、ハザードランプを点滅させて停まっている。

駆け寄るとドアが空いた。

『ごめんなさい、真司さん! 講義内容を書き写すのに手間取っちゃって……』

ハアハアと息を切らせながら喋る私に、

「大丈夫だよ。さぁ、乗って」

と優しい言葉をかけてくれた。

そう、彼、真司さんが“私の恋人”―――

半年前、鍵を取りに行くという名目で、真司さんの家にお邪魔した“あの日”。

あの日から私たちは、“本当の意味で”恋人になれたんだ。

「わざわざ取りに来てもらって、申し訳ないね……ハイ、これ。」

ウサギのマスコットがついた鍵を、真司さんが差し出してきた。

だけど、私はそれを受け取らない。

『あの……真司さん……私、間違っていたわ』

「……どういうこと?」

『夢のためには、何かを我慢したり、切り捨てたりしないといけないって思っていたの。でも、人に迷惑を掛けながらでも、欲しいもの全部手に入れたい!』

「…………」

『だから、私と“付き合い直して”下さい!』

我ながら、意味不明なことを言ったと思う。しかも相当自分勝手。

だけど、頭に浮かんできた言葉を、そのまま彼にぶつけることができた。

「……初めて、ホンネで話してくれたね」

そう言って、彼は抱きしめてくれた。

「沙耶、俺って、そこまで甲斐性なしじゃないよ? もっと甘えて、頼ってくれていいんだから……」

『真司さん……、私…、私……』

言葉が出てこない。

今まで、心に浮かんだことは全て、頭の中で考え直して、結局ほとんど飲み込んできた。

でも、今回はそれとは違う。

言いたいことが沢山ありすぎて、詰まっている感覚。

ただ一言、全てまとめて、

『ありがとう』

そう言えた。

―――それから彼は、私のためにいろんな約束事を決めてくれた。

私が、恋と仕事と学業を、“両立”するための決めゴト。

効率化を考えて、一緒に住むこと。学業を最優先して、卒業を目指すこと。仕事はムリをしない範囲でシフトを組んでもらうこと。忙しくてもできる限り一緒に食事すること。月に2回はデートすること。

金融庁に勤めている彼だけあって、情報処理能力は抜群。アッサリと私の求めているものを提案してくれた。

お陰で、こうして大学生活が始まった今でも、何の問題もなく毎日を過ごせている。

私もかなり、彼に頼ることができるようになった。

夜の方も……甘え上手になってきたと思う。

結局、私が、考え過ぎていただけなのよね―――

今も彼は、こうして私を勤務先の病院まで送り届けてくれている。こんな人……多分、日本中探しても、きっといやしないわ。

「今日の予定はどんな感じですか、お嬢様?」

ハンドルを握りながら、彼が冗談めかしてきいてくる。

『そうね……到着後、患者さんの容態管理とカルテ整理、並行して急患が入れば手術サポート。終わりは……夜中の3時かしら』

「沙耶って、ホント、“マイ・ルール”大好きだよね。自分を追い詰めることに快感覚えてるんじゃない?」

『もう! そんなことないよ〜』

真司さんの肩をペシッと叩く。このやりとりが、たまらなく楽しい。

半年前にはなかった感覚。心の底から泣いたり、怒ったり、笑ったりできる。

この人となら、あらゆる感情を共有していける。

私は、“自己完結の人生”からは、もう卒業したんだ。

これからは、彼と、周りの人たちに甘えながら、色んな夢を叶えていけるだろう。

―――勤務先の救急病院が見えてきた

乙女座の女の人生は、

“I analyze.” 〜私は分析する。〜

自分の掲げた目標に対しての責任。

決して破綻することのないように組み込まれた行動原理は、機械プログラミングのよう。

だけど、ひとつボタンをかけ違うと、全てが崩壊し無駄になってしまう危うさも内包している。

自分ひとりで完結させるというのは、そういうこと。

だからこそ、周囲の人々との調和を大切にし、最適化を図ってもらうことが大事なの。

視野が狭くなってしまわないためにも……。

“目的のために手段を選ばない”なんて考えは、もう捨てたわ。“手段が目的を正当化する”ことだってあるんだから。

今、私は助けられています―――。

乙女座の女の人生 〜Fin〜

【今回の主役】鈴木沙耶 乙女座30歳 看護師眼鏡の似合うクールビューティーだが、理想が高くいわゆる完璧主義者なところが恋を遠ざける。困っている人を助けたいという思いから、看護師として8年間働いている。しかし、理想と現実のギャップに悩んでおり、さらに自分を高めるために薬学部に行こうと考えている。結婚願望はあるのだが、仕事や夢が原因で彼(辻真司)とうまくいかない。

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