L’Ultimo Uomo 戦術用語辞典◆屮泪鵐帖璽泪鵑肇勝璽鵝

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従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で高い評価を得ているイタリアの新世代WEBメディア『ウルティモ・ウオモ』の戦術用語辞典は、急速に進歩するモダンサッカーのキーワードを紹介するコーナーだ。そのパート△蓮屮泪鵐帖璽泪鵝廚函屮勝璽鵝廖△海梁个砲覆觴虍システムをあらためて徹底解説。2つの思想は混交しながら共存・発展を続け、そして今日のピッチ上には様々な横断的コンセプトの手段が存在する。

文 ファビオ・バルチェッローナ
翻訳 片野道郎

 サッカーにおける守備、すなわち敵のプレーにどのように対応するかについては、一般的に「マンマーク」、「ゾーンマーク」と呼ばれる2つの異なるシステムが発達してきた。しかしこの呼称は、2つの異なる「マーク」のあり方を明快に理解する助けになるとは言いがたい。

 「マーク」という言葉は、狭い意味では、1人の敵(ボールを保持している場合も保持していない場合もある)に対し、そのプレーを妨げる目的でコントロールする(監視下に置く)ためのポジションを取る行為を指す。これは個人戦術、すなわち1人のプレーヤーがそのパフォーマンスを高めるために取るべき振る舞いに関わるコンセプトだ。

 一方、「マンマーク」、「ゾーンマーク」という言葉を使う時には、チーム戦術、すなわち複数のプレーヤーが協調して行う動きや振る舞いが問題になってくる。これを個人戦術としての「マーク」と混同しないよう、はっきりと区別して語るためには、おそらく“スペースのコントロールに根ざした守備システム(ゾーンマーク)”と、“人のコントロールに根ざした守備システム(マンマーク)”という言い方をした方がいいのではないかと思う。

人をコントロールするか、それともスペースか
Controllo gi avversari o lo spazio

 サッカーの黎明期、敵のプレーをコントロールするために使われたのは、原始的なゾーンマークだった。歴史上、マンマークの発明者とされているのは、1925年から34年までアーセナルを率い、WMシステムを生み出したハーバート・チャップマンだ。それ以降およそ30年にわたり、マンマークシステムはほぼ全面的にシーンを支配した。スペースのコントロールに主眼を置くという実験があらためて始まったのは1960年代初頭のこと。それ以降は、2つの思想がそれぞれ浮き沈み、そして限りなき混交を続けながら共存してきた。

 その一方の端に位置するマンマークシステムは、敵の各選手をマンツーマンでマークすることを通して敵のプレーをコントロールしようとするものだ。この発想に基づくならば、個々のプレーヤーのポジションは、まずマークすべき敵のそれによって決定されることになる。しかし解釈のレベルがより緻密になると、敵に対するポジションの取り方は、ボールの位置、そしてさらに(優先順位は下がるが)他の味方の位置にも影響を受けるようになる。歴史的にいえば、マークする敵を逃した味方の背後をどうカバーするかという問題は、最後尾からスペースをコントロールする役割を担ったリベロの導入によって解決されることになる。

 

ほぼ完全なマンマークシステムの最も最近の事例:マルセロ・ビエルサ率いるアスレティック・ビルバオが、バルセロナの全選手をマンツーマンでマークしている。リベロが最後尾にポジションを取っているのがわかる

 
 もう一方の端に位置する、最も純粋なゾーンディフェンスのシステムは、敵の攻撃を妨げるのに、可能な限りコンパクトかつ合理的な布陣を敷くことを通してプレーを展開するのに必要なスペースを削減し塞ぐというアプローチを採る。

 この発想に基づくならば、守備においてはすべてのプレーヤーがスペースと時間のいずれにおいても常に連係を保って動く必要がある。したがって個々のプレーヤーのポジションは、まずボールの位置、続いて他の味方の位置によって決定されることになる。北極星のごとくすべての基準点となるのはボールだ。そのボールに対するポジション、そして選手相互の距離と位置関係は、あらかじめピッチ上の様々な状況に対応できるように設計され、パターン化されている必要がある。

 

マルコ・ジャンパオロ率いるサンプドリアがインテル戦で敷いた[4-3-1-2]の布陣

メリットとデメリット
Vantaggi e svantaggi

 マンマークシステムは、1対1のデュエルを際立たせるがゆえに、敵に強いフィジカル的プレッシャーを与えるアグレッシブな守備に向かう傾向を持つ。その一方では、敵の動きに依存して動くことになるため、チームとしての陣形が簡単に乱れ、その結果スペースのコントロールにおいて問題を抱えやすいという側面も持っている。何よりもまず、あらかじめ決められたカバーリングのメカニズムを持たないため、ボールホルダーがドリブル突破やスピードに乗ったワンツーなどでマーカーを抜き去った時には、自由にプレーするための時間とスペースを手に入れることになる。それに対処するためには、残った誰かが自分のマークを放棄せざるを得ず、その時点でマンツーマンのシステム自体がドミノ倒し的に崩れていく結果になる。

 また、ボールを奪回した時点におけるチームの布陣が、ほとんどの場合、攻撃に適した形になっていないという問題もある。さらにもう一つ、スペースのコントロールが不十分になるがゆえに、後方から走り込んで来た敵への対処が難しく、ボール奪回をタックルかアンティチポ(マークした敵の前を取ってのパスカット)に頼らざるを得ないという点も指摘しておかなければならない。

 ゾーンディフェンスのシステムには、敵の振る舞いに依存する度合いがずっと少ないというメリットがある。整った陣形を維持するのがずっと簡単であり、それゆえボール奪回後のポジティブトランジション(守→攻の切り替え)においても、あらかじめ決められた明確な基準点を持つことができる。

 縦横どれだけのゾーンをカバーするかも、自らの意思によって決めることができる。逆サイドに大きなスペースを残して横幅をコンパクトに保つこともできれば、最終ラインの高さを変えることによって、敵の攻撃に合わせて様々なやり方で困難を作り出すこともできる。

 逆サイドあるいは背後にどれだけのスペースを残すかは、守備陣形の内側に相手のパスコースとなり得る空間をどれだけ残すかと、トレードオフの関係にある。布陣をコンパクトにすればするほど、その外側に残るスペースは大きくなるからだ。守備陣形の内部/外部のスペースをどのようにコントロールするかは、ゾーンディフェンスが抱える問題の一つだ。一方、ボール奪回は主にインターセプトに頼ることになる。

 

[4-4-1-1]のゾーンディフェンスで布陣したベニテスのナポリ。逆サイドに大きなスペースを残しており、ユベントスは試合の中で再三そこを利用することになる

具体例
In pratica

 上に見た両極端のシステムの間には、2つのシステムの要素を混ぜ合わせた中間的ソリューションが、様々なバリエーションとして存在している。リベロというポジションの発明自体、ゾーンシステムの基本原則であるスペースのコントロールというコンセプトをマンマークシステムの中に織り込んだものだ。

 ゾーンのシステムにおいて最もシンプルかつ広く採用されているのは、ボールの位置を基準としたポジショニングに、敵と味方という人の位置に応じた微調整を施すというバリエーションだ。具体的な例としては、特定の敵がボールの近くにいる時に特定の選手がそれに近いポジションを取る(敵がボールを保持した時にはそのまま寄せてプレッシャーをかける)ようなケースだ。

 さらに敵に基準を置いたバリエーションとしては、いわゆる「ゾーン内でのマンマーク」がある。守備陣形の中でそれぞれのプレーヤーが明確な担当ゾーンを持ち、その内部にいる(あるいは入って来た)敵をタイトにコントロールするというやり方だ。

 また、守備の局面におけるチームのポジショナルな布陣は、攻撃する敵の布陣に応じて変化し得る。例えば、攻撃の局面では2トップが横に並ぶ[4-4-2]の陣形を取っているチームが、[4-3-3]で戦う敵に対する守備の局面では、敵のアンカーとそのプレーするスペースをより効果的にコントロールできるよう2トップを縦に並べて対応する、といったケースだ。

 

ユベントスは守備の局面でサッスオーロの陣形に合わせるため中盤を「回転」させている。ピャニッチが上がってアンカーをマークし、ケディラとレミナがインサイドMFのゾーンをケア。キエッリーニは最終ラインから大きく飛び出して自分の担当ゾーンのFWに当たりに行っている

 
 マンツーマンのシステムにおいても、コントロールすべき敵からの距離が広がる逆サイドに関しては、ボールからの距離も遠くなるため、スペースをコントロールするという原則が入り込んでくる。チームメイトとマークを「受け渡す」ことで守備陣形の安定を保とうというアプローチは、マンツーマンが主流だった時代からすでに広く普及していた。特定の敵(FW、あるいは攻撃の局面で特に危険な相手)だけをマンツーマンでマークするというゾーンとマンツーマンのミックスも、当初から一般的だった。

特別な状況
Situazioni speciali

 CKやサイド深い位置からのFKなど、ペナルティエリアに直接ボールが蹴り込まれることが想定されるセットプレーの守備は、独立して取り上げる必要があるだろう。

 CKの守備に関しては、純粋なゾーンで守るチームと、ゾーンとマンツーマンのミックスで守るチームの2通りがある。前者は、危険だと考えられているゴール前のスペースを、あらかじめ決められた配置を取ってコントロールするやり方。後者はエリア内に上がって来た敵をマンツーマンでマークしつつ、特に危険なスペース(典型的なのがニアポスト際だがそこだけではない)をゾーンで守るやり方だ。

例えばナポリはCKに対して純粋なゾーンで守っている。

 

 
一方セビージャは5人がマンツーマン、5人がゾーンで守っている。

 

 
 サイドからのFKに対する守備は、ボールの位置によっても変わってくる。ゴールラインに近くなればなるほど、状況はCKと類似してくる。ゴールラインから遠いほど、ラインを高く保つことによって敵が使えるスペースを狭めることが重要になる。それゆえこの場合には、陣形をコンパクトに保てるだけでなく、敵に振り回されることなく連係の取れた動き方を可能にするゾーンディフェンスが有利になってくる。

 もう一つ、個別に取り上げるべき状況はサイドからのクロスに対する守備だ。このケースに関しても、ゾーンディフェンスを基本としながらエリア内に入って来た敵についてはマンツーマンでマークすることを求める監督と、ゾーンディフェンスの原則を守ってボールの位置に基準点を置いて守るやり方を選ぶ監督に分かれる。

 後者の立場を取る監督は、ゴールに飛び込むのは人ではなくボールなのだから、ボール(したがってスペース)をコントロールするべきだと主張する。一方、前者の立場からは、誰もボールに合わせなければボールがゴールに飛び込むことはないのだから、敵のアタッカーがボールに触れないようコントロールする方が有効だという反論が出てくる。

 

セビージャはサイドにボールがある状況で、エリア内ではマンツーマンで守っている

到達点
Lo stato dell’arte

 敵のコントロールだけに基準を置いた守備システムは、もはや存在しない。スペースをコントロールするメリット、そしてボール奪回後のポジティブトランジションにおいて明確な基準点となる布陣があらかじめ整っているメリットは、あまりにも明白だからだ。

 しかし、ゾーンシステムという世界の中では、敵からプレーする時間とスペースを削り取るためのポジションを取るというアプローチが着実に広まっており、いわゆる「純粋なゾーン」は今や少数派になっている。あらかじめ定められたポジショナルな守備陣形を出発点としながらも、守備の局面においては相手の陣形に合わせて布陣を修正し、敵との距離を縮めることで人に対してよりアグレッシブにプレッシャーをかけていくというやり方だ。プレッシングのやり方も、パスコースを遮断するよりも人そのものにプレッシャーをかける方向に変わってきている。

 今日において最も広く使われている、すなわち最も勝利に近づけると考えられているアプローチは、異なる出発点から発展してきた2つの守備システムを「いいとこ取り」でミックスしたものだ。サッカーにおいて思想とは同時に手段でもあり、常に少しでも得点を増やし、できる限り失点を減らすという目的に集約されるものなのだ。

『ウルティモ・ウオモ』戦術用語辞典を一挙公開!

パート 8月16日(水)公開:「ハーフスペース」
パート 8月17日(木)公開:「マンツーマンとゾーン」
パート 8月18日(金)公開:「トランジション」
パート 8月19日(土)公開:「スイーパー=キーパー」

Photo: Getty Images