2017年版『世界で最も稼いだDJ』と『ULTRA』から考える、EDMという言葉の“適正化”

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 アメリカの『フォーブス』誌が、「世界で最も稼いだDJ」の2017年度版ランキングを発表した。同ランキングでは、5年連続でカルヴィン・ハリスがトップを獲得しており、ほかにもティエストや、ザ・チェインスモーカーズ、スクリレックス、スティーヴ・アオキらが続く結果となっている。

1. カルヴィン・ハリス 4850万ドル(約53億円)2. ティエスト 3900万ドル(約43億円)3. ザ・チェインスモーカーズ 3800万ドル(約42億円)4. スクリレックス 3000万ドル(約33億円)5. スティーヴ・アオキ 2950万ドル(約32億円)6. ディプロ 2850万ドル(約31億円)7. デヴィッド・ゲッタ 2500万ドル(約27億円)8. マシュメロ 2100万ドル(約23億円)9. マーティン・ガリックス 1950万ドル(約21億円)10. ゼッド 1900万ドル(約20億円)

2017年、中田ヤスタカは変わろうとしている

 このランキングや直近の彼らの動きから見える、グローバルに活躍するDJ・プロデューサーたちの現在とは。音楽ジャーナリストの柴那典氏は、この並びについて、日本の洋楽公演事情と紐付けながらこう分析する。

「今回のランキングだと、カルヴィン・ハリスは『SUMMER SONIC』、ディプロはMajor Lazerとして『FUJI ROCK FESTIVAL』、チェインスモーカーズとスティーヴ・アオキ、ティエストは『ULTRA JAPAN』にそれぞれ出演し、昨年の『ULTRA JAPAN』ではスクリレックス、デヴィッド・ゲッタ、マシュメロが来日しています。ここ数年はバンドやヒップホップの旬であるアーティストが日本に来ないという状況が続いていますが、EDMに関してはその影響をほとんど受けていない。これには2つの理由があり、ひとつは各フェスが現行のダンスミュージックの人たちをしっかり呼び続けていること、そして出演する側であるDJの活動領域がますますグローバルになっていることが挙げられます」

 また、最近ではカルヴィン・ハリスが『Funk Wav Bounces Vol. 1』をリリースするなど、各人がプロデューサー・アーティストとして傑作を生んでいるが、この背景については「『EDM』という言葉の適正化がなされてきた」と続ける。

「日本で『EDM』という言葉が定着しだしたのは2012年以降ですが、その頃はパーティーピープル向けにわかりやすく盛り上がるようなビッグルームハウスやダッチトランスの音楽を指す狭義の言葉でした。でも、本来『EDM=エレクトリック・ダンス・ミュージック』は『ロック』や『ヒップホップ』と同じくらい広義のジャンルで、その下にハウスやトランスなどのサブジャンルが多種多様にあるものなんです。それを表すように、カルヴィン、ディプロ、スクリレックス、ゼッドといったランキング内のプロデューサーは、それぞれ似て非なる音楽でクリエイティビティを発揮し、リスナーも作品性を重視するようになってきました。その最たる象徴といえるのが、カルヴィン・ハリスの『Funk Wav Bounces Vol. 1』でしょう。すべての楽器のプロダクションも彼自身が手掛けているということが、同業者からも大きな注目を集めました」

 さらに、同氏は毎年公開されているこのランキングの枠組み自体に「位置付けが古くなっている」と異議を唱える。

「今回ランキング入りした面々を見て思ったのは『世界で最も稼いでいるDJ』という言葉がもはや古くなってきているということです。各自がアルバム・アーティストとして評価される作品作りに集中していたのがここ数年の動きなので、『稼いでいるEDMプロデューサーおよびDJ』という括りが正確ともいえます。かつてデッドマウスが言っていたような『DJ卓に立って再生ボタンを押して手を振るだけ』という揶揄も、もはや的外れでしょう」

 そして柴氏は、各国で行われるダンスミュージック・フェスティバル『ULTRA』の動きを踏まえ、現在のシーンを下記のように分析した。

「最近の『ULTRA』には、本国マイアミも日本もライブステージを設置するという面白い動きがあります。Underworldがヘッドライナーとして出演する『ULTRA JAPAN』だけではなく、マイアミもライブステージのヘッドライナーがJustice、The Prodigy、さらにアイス・キューブも出演するなど、かなり幅広いラインナップになっているんです。それを反映して今年の『ULTRA JAPAN』はティエストとCrossfaithが同じ日に出演するという、同フェスのイメージも変わるようなラインナップになってきました。Pendulumが別ユニットのKnife Party名義でも出演するというのも象徴的です。また、『WIRE』のレギュラーだった石野卓球やKEN ISHII、Fumiya Tanakaなどのテクノ勢が今年出演するというのも、日本における『EDM』という言葉のイメージがある種の狭義のジャンルから脱却しつつある証左と言えるでしょう」

 最後に、柴氏は今後のEDMが持ちうる可能性についてこう述べる。

「ビッグルームハウスやダッチトランスの反動で、3年前からは音圧ではなく軽めのシンセの音でリラックスさせるトロピカルハウスのような音楽が流行しました。その火付け役となったのがKYGOですが、彼が2015年に『ID』で担当し、過去にはアヴィーチーやアフロジャックも手掛けたULTRA MUSIC FESTIVALの世界公式アンセムを今年は中田ヤスタカが『Love Don’t Lie (Ultra Music Festival Anthem)(feat. ROSII)』で日本人としては初めて担当しています。これが4拍子と6/8拍子のポリリズムが強く印象に残る、非常に挑戦的な曲なんです。このあたりからそろそろ新しいムーブメントが生まれてきそうでとても楽しみですね」

 時代も楽曲もフェスも新たな局面に突入したEDMシーン。今年の『ULTRA』が打ち出した大きな転換は、今後の局面や来年以降のランキングにどのような影響をもたらすのだろうか。(中村拓海)