「再発防止」だけでは不十分 今すぐ知るべき“トラブルを未然に防ぐ仕組み”とは

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近年頻発した深夜長距離バスによる事故を覚えている人は多いでしょう。
特に死亡者15人(大学生13人含む)という大惨事となった2016年の軽井沢スキーバス転落事故は、非常に衝撃的でした。

もちろん、バス業界に限らず、あらゆる業界でトラブルは起きています。本来の仕事があるのに、「もはや自分の仕事はトラブル処理」という人も珍しくありません。

あちこちの職場で頻発するトラブル。それらの処理に悩む人々の教科書となる一冊が、『なぜあなたはいつもトラブル処理に追われるのか:再発防止だけでは不十分、リスクの気付きで未然防止』(発行:合同フォレスト株式会社)。著者の林原 昭氏は、国内外の数々の現場で、コスト削減や品質改善で多くの実績を残す“リスクマネジメントのプロ”です。

本書の特徴の一つは、トラブルが起こった後に実行すべき行動を、「緊急対応」「再発防止」「未然防止」という3つのステップに分けて解説している点です。
ここでは、究極のリスクマネジメントである第3のステップ「未然防止」と、「未然防止」のために必要不可欠な第2のステップ「再発防止」の原因追究について取り上げます。

■再発防止:「なぜ」を繰り返して根本原因を掘り起こす

「再発防止」では、よくありがちな「犯人捜し」に陥らないように、チームで原因の追究を進め、根本原因を掘り起こすことが重要だとしています。

では、どのように掘り起こせばいいのでしょうか?
1つはトラブルを起こした当事者に対して徹底的にヒアリングをすること。「なぜ」を何度も繰り返し、質問を重ねる「なぜなぜ分析」を実行することで、トラブルの根本原因を掘り起こすのです。
もう1つは、第3者の視点で、当事者が気付かない、隠れた「落とし穴」を発見することです。

また、原因を探ると、ほとんどが「ミス(ヒューマンエラー)」に行き着くといい、4種類に分類して解説しています。

・知らなかった、知っていたができなかった(知識・スキル不足)
・知っていたが、わざとやらなかった(違反、大丈夫感覚)
・失念
・錯覚、勘違い、思い込み

「ミス」の内容を深堀りし、具体的に深く原因を探ることができれば、対策の精度を上がり、再発防止が可能になるのです。

ここで重要なことがあります。それは、言い訳を含めミスをした当事者の言い分を聞き、決して責めないこと。
「なんでミスをしたんだ」「言い訳をするな」と叱責しても、トラブルの根本的な解決にはなりません。林原氏はむしろ、言い訳の中にこそ根本原因を探るヒントがあると考え、「ミスをした人の言い訳を聞いて、ミスをした当事者を正当化せよ」としています。

そして、当事者の本音を聞き出すインタビューを行い、インタビューシートを作成することで、トラブルや事故が起きた背景を的確に把握し、対策を打ち出すことができるといいます。

■未然防止:リスクを未然に防ぐために日常から訓練をする

続いて、「未然防止」はリスクマネジメントにおいて極めて重要です。では、「再発防止」と一体何が違うのでしょうか? 本書からそれぞれの定義を引用します。

・再発防止対策
過去に起こった問題の原因を深堀りして、その問題と同じことが起こらないように対策すること。
・未然防止対策
過去のトラブル事例とその再発防止で実行した原因究明を参考にして、将来起こるかもしれないリスクを予想して対策を講じること。
(P126-127より引用)

「再発防止」は同じ問題(同じ事象で同じ原因)のトラブルに対して有効です。しかし、将来において、過去と同じ問題が起こる確率は極めて低いと言えます。同じ事象が必ずしも同じ原因によって起きるとは限らないからです。

冒頭に挙げた2016年の軽井沢スキーバス事故から30年ほど遡った1985年、死者25人負傷者8人を出した犀川スキーバス事故が起こりました。
この2件は同じバス事故ですが、原因は異なります。犀川スキーバス事故の再発防止策を徹底的に実施していても、軽井沢スキーバス事故は防げたかといえば、「NO」でしょう。原因が異なれば対策方法も違うのです。

しかし、この論理でいうならば、あらゆる再発防止対策は無効なのでは? という疑問が浮かぶでしょう。

結論をいえば、無効ではありません。再発防止対策の原因究明と対策の実行が十分に行われていることが、「未然防止」にとって極めて重要な意味を持ちます。

「未然防止」には、小さなリスクを発見し、改善を実行する日常的な訓練が必要です。
例えば「しょうゆ」と「ソース」は、その容器がほぼ同じ形で同じ色なので判別しにくく、取り違えてしまうことが起こりえます。では、なぜ「しょうゆ」と「ソース」を取り違えたのか。その根本原因と対策を考えることが「再発防止」だとすれば、「未然防止」は「取り違い」というリスクを認識し、別の状況でも同じ「取り違い」が起こると想定して、具体的な将来のリスクに気付き、その対策を講じることだといえます。

日ごろから将来のリスクに対する意識を持ち続けることが、「未然防止」に役立つのです。

将来のリスクに気付くことは、コスト削減や業務改革の実現に必要不可欠。いつまでもトラブル対応に追われている状態では、働き方にも悪い影響しか出ません。

ここでは「再発防止」「未然防止」について取り上げましたが、「再発防止」の前のステップとなる「緊急対応」や、「未然防止」の先にある「チーム全員参加で未然防止対策の実行」、事例研究などもぜひ知っておきたい情報です。

本書の内容は知識としてとどめておくだけではなく、実践してその効果を体感しなくては意味がありません。
小さなトラブルがインターネット上で炎上騒ぎになり、取り返しのつかないことになることが多くなった今、将来のトラブルの芽を未然に摘み取ることは、円滑な業務進行と組織体制作りにつながります。

「事が起こってからでは遅い」――ここに未然防止の価値があるのです。

(新刊JP編集部)

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