現在ロンドン五輪のメインスタジアムもウェストハムの本拠になっている。(C)Getty Images

写真拡大 (全2枚)

 2020年の東京五輪に向けて、現在建設中の新国立競技場だが、五輪後の後利用を巡りスポーツ庁の作業部会が7月26日に行なわれ、大会終了後には陸上トラックを撤去し、「球技専用スタジアム」に改修される方向で調整が進んでいる。五輪メインスタジアムの後利用について、これは妥当な判断なのか。サッカージャーナリストの後藤健生氏に見解をいただいた。

――◆――◆――

 旧国立競技場は、1964年の東京五輪で僕(筆者)が初めてサッカーという競技と出会った思い出のスタジアムだった。「サッカーの聖地」であると同時に、91年の世界陸上でカール・ルイスが疾走した日本最大の陸上競技場でもあり、また80年代にはラグビーのビッグゲームに超満員の観客が沸いた。
 
 つまり、旧国立は陸上とフットボール兼用の多目的競技場だったのだ。
 
 かつて、五輪のメインスタジアムはそのほとんどが大会後も多目的競技場として使われた。例外はサッカー専用のウェンブリー(48年ロンドン五輪)とクリケット専用のMCG (メルボルン・クリケット・グラウンド/56年メルボルン五輪)くらいで、どちらも五輪開催時には陸上競技のトラックを特設して使用し、大会後は元の形に戻している。
 
 しかし、スポーツ先進国で最近開かれた五輪のメインスタジアムは、すべて大会後に用途変更されている。
 
 96年アトランタ五輪のメインスタジアムは野球場に改装されてアトランタ・ブレーブスの本拠となり(2016年限りで移転)、00年シドニー五輪のそれは陸上トラックを撤去してフットボールとクリケットの兼用となった。そして、今まさに世界陸上が開催されている (8月13日に終了)12年五輪のメイン会場「ロンドン・スタジアム」は、陸上トラックを残したまま全面改装されてプレミアリーグ、ウェストハムの本拠となっている。
 
 つまり、今では「多目的競技場」というのは時代遅れの発想であり、メインスタジアムは五輪閉幕後に改装され、その国で最も集客力のあるスポーツに使われるのが普通なのだ。 巨大スタジアムを活用するには、そうするしかない(詳しくは拙著『世界スタジアム物語』を参照)。
 多目的競技場はトラックがあるから、フットボールの試合は観づらい。一方、芝生保護のために投てき種目での使用が制限されるなど陸上競技にも使いづらい。それで、多目的競技場は陸上にもフットボールにも使われなくなってしまうのだ。
 
 実際、88年ソウル五輪や08年北京五輪のメインスタジアムは、どちらも多目的競技場のまま残されたため、十分に活用されていない。
 
 建設中の新国立競技場は6万8000人収容だが、日本では陸上競技に2万人以上の観客が集まることはほとんどない。巨大で使用料も高い新国立は、陸上競技にはあまり使えないだろう。もちろん世界陸上でも開催すれば話は別だが、サブトラックがないので招致は難しい。
 
 都心の一等地のスタジアムが活用されないのはもったいない。だから「五輪・パラリンピック後に球技専用に改装」というのは、結論としては「是」と言わざるを得ないのだ。
 
 だが、そんなことは最初から分かっていたはず。なぜ設計前にそういう議論がされなかったのだろうか?
 
 観戦しやすい球技専用競技場とするには、単にトラックを撤去するだけでは不十分だ。フットボール観戦に最適なスタジアムを造るなら、スタンドの傾斜やピッチとの距離を考慮して設計しておく必要があった。
 
 いや、設計前から「後利用」を議論していれば、他にもさまざまな選択肢があったはずだ。スタンドの大半を仮設にして、大会後に縮小。空いたスペースにサブトラックを作れば陸上競技場にすることもできたし、あらかじめ改装を想定して設計しておけば、5万人程度収容の野球場にすることだってできただろう。
 
 新国立競技場の建設については、あのザハ・ハディド案が採用された件(高騰する建設費に批判が集中し、のちに白紙撤回)に始まり、これまで間違いだらけだったが、今後は巨額な建設費が無駄にならないよう、知恵を出し合って「後利用」を真剣に考えていくしかない。報道によると、代々木公園内に新スタジアムを建設する計画もあるようだが、既存のスタジアムを含めた「棲み分け」についても、十分議論すべきだろう。

※『サッカーダイジェスト』8月24日号(8月10日発売)「THE JUDGE」より抜粋