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「プレゼンテーションの準備」と聞くと、パワーポイントを開いて「うーん、どうするか……」と悩むイメージがありますが、実はこの段階で既に「負け」が確定しているってご存じでしょうか?

というのは、プレゼンテーションの「中身」を考えるよりも先にやるべきことがあるから。これを知らずにプレゼンテーションの準備をしてしまうと、「自分勝手」なプレゼンテーションで聞き手から嫌われてしまうケースが多いものです。ここでは、プレゼンテーション準備の「王道」とでも言うべき法論を解説します。

○プレゼンテーションはABCで

プレゼンテーション準備の「王道」を表したのが、ABCDDEからなるサイクルです。

それぞれ、

Audience (オーディエンス): 聴衆の分析

Basho (場所): 場所などの運営面

Contents (コンテンツ): 何をどういう順番で言うかのプレゼンテーションの構成

Documentation (ドキュメンテーション): スライド作成

Delivery (デリバリー): 実際のプレゼンテーション

Evaluation (エバリュエーション): 評価

の英単語の頭文字をとったものです。そう、実はプレゼンテーションの最初は、聴衆(聞き手)の分析なのです。

ちなみに、ここで聞き手の「分析」とちょっと堅い言葉を使っているのは、聞き手をより深く知る、と言うニュアンスを出したかったから。プレゼンテーションの目的<ゴール>である「聞き手に期待した行動をとってもらうこと」(LeADER原則というキーワードとともに以前のコラムで紹介しました)のためには、単に表面上の人数や役職だけでなく、一歩掘り下げた「分析」が重要なのです。

○痛みと喜びを想像せよ

分析というのは具体的には、聞き手の頭の中を想像し、その「痛み」と「喜び」を明確にすることです。「痛み」というのは、聞き手が何としても解決したい問題。よく「頭が痛い問題だ」何て表現をしますが、聞き手を悩ませているものは何でしょうか? 「これが解決できるなら、喜んでお金を払うよ」という「困りごと」は何でしょうか? 逆に「喜び」は、その名の通り「うれしいこと」を指し、聞き手にとってのメリットを想像するのです。

具体例で考えてみましょう。例えば、あなたはパソコンのアンチウィルス・ソフトを販売している会社の営業マンだったとします。ウィルスの脅威やデータ流出による被害など、ネット時代に私たちはリスクに取り巻かれています。今営業をかけている先のA社に対してプレゼンテーションを行うとして、どのような内容にすべきでしょうか?

「当社のアンチウィルス・ソフトの性能は……」、「他社製品と比べても値段が……」のように、自社のことを語り出すのはダメ。ここまでお読みの方ならばピンときてもらえると思いますが、聞き手からは「そんな話を聞きたいわけじゃない」と思われる、典型的な「自分勝手なプレゼンテーション」です。

そうではなく、考えるべきは聞き手の痛みと喜びです。

当社のアンチウィルス・ソフトを導入すれば、ウィルス感染のリスクが下がります。

と、聞き手の痛みを改善することにフォーカスしてプレゼンテーションをスタートするべきです。

○聞き手が食いついてくるプレゼンテーションとは

そして、ここで想像力を働かせて、聞き手の痛みをより明確にしてあげることがポイント。なぜならば、聞き手のA 社の担当者は、必ずしも痛みに敏感でない場合もあるから。

ウィルス感染のリスク? そうは言っても、現状でも問題ないしなぁ。

何てのんきに構えている人も、思わず身を乗り出して、食いつくぐらいの勢いで聞いてもらえるプレゼンテーションにするために、痛みを具体化してみましょう。

ウィルス感染によるデータの流出が起こると、とてつもない金額の賠償額がかかります。例えば問題を起こしたB社では数百億円の賠償額になるとか……。

あるいは、

ウィルス感染が起こると、その対応で社内のIT部門の方は苦労されるんですよ。おまけに経営陣からもニラまれて、出世にも響くなんて会社もあるそうです。

のように、担当者個人の「痛み」を説明しても良いかもしれません。

○痛みと喜びの表組みで考える

もちろん、喜びにフォーカスを当てるというアプローチも有効です。

当社製品をご導入いただいたC社様では、先日の大規模ウィルス被害もまぬがれて、業績も好調とのことです。事前対策の旗振り役を務めた担当者の方も社長の覚えがめでたいとか……。

ちょっと言い方が露骨かもしれませんが、最初に紹介した「当社製品の性能は……」のような、聞き手を無視した「自分勝手」なプレゼンテーションから抜け出せるのがお分かりいただけるでしょう。

この聞き手の痛みと喜びを分析する際に使えるフレームワークがありますので、それを最後に紹介します。「ペイン・プレジャー・マトリクス」と呼ばれるものがそれで、「ペイン」つまり「痛み」と「プレジャー」つまり「喜び」を表形式で整理したものです。

もともとは、経営コンサルタントの船川淳志氏が提唱されていた企業変革のためのフレームワークですが、聞き手の気持ちを動かすためのアプローチとしては、プレゼンテーションでも有効です。ぜひ、ペイン・プレジャー・マトリクスを使って聞き手を分析するところから、プレゼンテーション準備を始めてはいかがでしょうか?

○執筆者プロフィール : 木田知廣

シンメトリー・ジャパン代表、米マサチューセッツ大学MBA講師。米国系人事コンサルティングファーム、ワトソンワイアットにてコンサルタントとして活躍した後英国に渡り、ロンドン・ビジネススクールの故スマントラ・ゴシャールに師事する(2001年MBA取得)。帰国後は、社会人向けMBAスクールのグロービスにて「グロービス経営大学院」の立ち上げをゼロからリードし、苦闘の末に前身的なプログラム、GDBAを2003年4月に成功裡に開校にこぎつける。2006年シンメトリー・ジャパン株式会社を立ち上げ、自ら教壇に立つとともに後進の講師の養成を始める。ライフモットーは"Stay Hungry, Stay Foolish" (同名のブログを執筆中)。