ユニクロの店舗に、アルバイトとして長期潜入した横田増生氏。福島第一原発の作業員として働いた鈴木智彦氏。異色の潜入ジャーナリスト対談第2回のテーマは「潜入取材の方法と掟」。身元がバレないように採用されて働く秘訣と、自らに課す取材ルールとは。

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鈴木 横田さんは、ユニクロ潜入のために苗字を変えたんですよね。


真夏にもかかわらずユニクロの秋物を着て対談に臨んだ横田氏

横田 妻と離婚して、また結婚して、妻の姓にしました。前にユニクロの本(『ユニクロ帝国の光と影』文春文庫)を出して裁判にもなっているので、履歴書に「横田増生」と書けませんから。結局、複数の店舗に履歴書を出しましたが、誰も気づきませんでした。

鈴木 実は俺も、同じことを考えました。本名だったので身元が割れて、原発の仕事をクビになったんですけど、女房の姓になれば、また潜入できると思ったんです。ところがバレたあとに、東芝名で「潜入ルポ等を懸念し、新規入所者を入念に確認していたはずが、東芝Gr(グループ)に潜入された」という文書が回ったんです。俺を入れてくれた会社の人にまた迷惑をかけたらシャレにならないなと思って、止めました。

横田 会社の人は鈴木さんをライターだと知っていた、と書いてありましたよね。

鈴木 俺を入れてくれた5次請けの会社は、取材と知って入れてくれたんです。俺がクビになったあとは当然、その会社は東芝から干されました。「原発の事実を世の中の人に知って欲しいから、自分はどうなってもかまわない」と経営者が腹をくくってくれたから取材が出来た。心から感謝していますし、負い目もあります。横田さんの場合、名前を変えても採用されない可能性がありましたよね。ライター仲間と話してたんです。「俺たち、そもそもユニクロに合格しないな」って(笑)。


東芝名で出された内部文書 ©鈴木智彦

面接では髪を染めて若作り

横田 Amazonやヤマト運輸みたいな作業系の現場なら、50代のアルバイトでもおかしくないです。でもユニクロは大学生と主婦が主な戦力なので、面接のときは若作りしてメガネをかけて、髪も染めて(笑)。3店舗で採用されましたけど、アルバイトで50代のおっさんはどこにもいませんでしたね。

鈴木 この仕事に関しては、採用されたらいきなり王手、みたいなものですね。

取材ノートは30冊以上


ユニクロ潜入時の七つ道具

横田 クビになったとき貸与品を返せと言われなかったので、せっかくだから持って来ました。店員がみんな腰につけているポーチです。中には、メジャー、マーカー、印鑑、裾上げに使うピン、ペンと小さなノートが入っています。ユニクロでは「必ずノートを取れ」と言われます。店長のありがたいお言葉や、日々のスケジュールで10時半から朝礼とか、全部書きます。つまり、好きなことも自由に書けるわけ。仕事しながらネタになる出来事があったら、その場でノートに書いておく。「お、仕事してる。頑張ってるな」と思われながら(笑)。家に帰って、それをパソコンに打ち込むんです。そんなノートが30冊以上になりました。

鈴木 メモしていても怪しまれないとは、好都合です。

横田 怪しまれないように目立たないように、気を遣いましたね。記事を書いて辞めさせられるところまでいって完結するので、ボロを出して途中でバレたらカッコ悪いじゃないですか。

鈴木 ストーリーとして完璧だなぁ。

ヤマト運輸潜入時の思い出の品


ヤマト運輸潜入時に実際に使用していたもの

横田 そうそう。鈴木さんが書いていた中国製のメガネカメラ。僕も使いましたよ。動画も撮れますしね。でもあれって画面を写すのはいいけれども、文書の文字まではなかなか写せないですね。

鈴木 解像度が低くて。ピンホールカメラですもんね。こっちのグッズは何ですか?

横田 ヤマト運輸で働いたときの思い出の品です(笑)。ヘルメット、アキレス腱を切らないためにカバーするもの、手を保護する手甲バンド。重さが300キロとか400キロもある冷蔵庫のようなコンテナを引っ張るときに、手を挟んで複雑骨折する人がいるんです。

鈴木 危険な職場なんですね。


着用イメージ

「難民より私たちだよね」

横田 原発の現場と比べると、危険と言っても程度が違いますが。原発ではメモは取れないでしょう。ICレコーダーを回しっ放しですか?

鈴木 服は全部支給されるんですが、作業着にはポケットがないんです。中の下着にだけポケットがあって、小物を入れても落ちない仕組みになっているので、そこにICレコーダーを入れてました。

横田 マイクは?

鈴木 マイクは外につけられないんですけど、みんな全面マスクをしているので大声でしゃべるんです。怒鳴り合いのような会話なので、下着のポケットでもなんとか録音できます。それを毎日、パソコンに移していました。暑さと放射線のせいで、作業は1日2時間ぐらいしかなかったんですけど、後でまとめてやるのは大変ですから。何気ない雑談で出た話を拾うのが面白かったですね。ポンと本音が出ますから。

横田 雑談はいいですね。僕も1時間半の休憩時間は、雑談を聞くためにずっと休憩室にいました。全部で3店舗働いたんですが、最初の店舗で働いているとき、売上が悪くて、「このままでは会社が潰れますから、皆さんの出勤時間を削らせてください」というときがあったんですが、実はそれはユニクロが難民を100人くらい雇用しますと発表した数日後のことだったんですよ。

鈴木 福祉事業みたいなことで。

横田 そうそう。そのときお昼を食べていたら、ある女性が「難民より私たちだよね」と言った。「座布団1枚!」と思いました。ビックロで働く前の2店舗目の店が僕にとって面白くなかったのは、休憩室がなかったためです。雑談ができなかったので、見切りをつけて早々に辞めました。

鈴木 昔の営業マンはタバコを吸えって教えられたというけど、喫煙室ってもっと気が抜けるんですよ。原発の現場で、全面マスクを外してやっとタバコに火をつける、あの一体感。俺はもともと吸うので、かなり助かりました。あと、お酒ですね。労働者から話を聞くのに、酒が飲めないとかなりのハンデです。


©鈴木智彦

横田 飲み会だと、相手のガードはさらに下がりますからね。

鈴木 おっしゃる通りです。だから積極的に飲みに行きたい。原発のあと、密漁の取材をしたんですよ。アワビやナマコやしらすの密漁って、メチャメチャ暴力団事案ですから。密漁したものを築地で売ってると聞いて、築地の仲卸に潜入取材をしたんです。

横田 どれぐらい働いたんですか? 

鈴木 12月から翌年の4月まで、ターレーという丸いハンドルの運搬車に乗ってました。でも事情を知ってる社員とサシで飲む機会がなかなかない。4ヶ月ぐらいかかってようやく飲みに行って、「密漁のアワビ売ってますよね。どこから仕入れたんですか? どうやって売るんですか?」って手口を聞いて、3日後に辞表を出した。それを聞きたいがために働いていたから、ばっくれてもよかったんだけど、それじゃあ仁義がないので、1ヶ月働いて円満退社しました。

横田 正体はバレずに? 

鈴木 まだきちんと書いてないですから。「食えないジャーナリストだ」と言って入ったんですけど、築地には食えない役者や物書きがいっぱいいるので。

バレないように東京―いわきを往復6時間

横田 原発取材のときは、現地に泊まってたんですか。

鈴木 宿舎があって3、4人で相部屋なんですけど、俺だけ泊まりませんでした。仕事ができないし、電話も取れないし、荷物でバレるから。ホテルは復興需要でどこも満室だし、1軒だけある漫画喫茶にも泊まれないときは、帰ってくるんです。東京からいわきまで約200キロを車で往復6時間かけて通勤するので、周りからおかしいと思われてました。「母が病気で」と言い訳してたんですが、「何こいつ」っていう話にはなってたみたい。

横田 原発で働きながら往復6時間ですか。

鈴木 大変でしたけど、怪しまれるから絶対に遅刻しないんですよ。働き方や取材のやり方に瑕疵があると、あとでそこからつっこまれるから。


 

横田 僕は、最初に働いた店の店長に迷惑がかかってないか、ずっと気になってるんです。その店を辞めて次へ行くとき、引っ越しを理由にしたんですよ。すると店長が、「ユニクロで働き続けるなら、次の店舗に推薦します」と言ってくれた。それなら履歴書も面接もいらないから楽だけれども、「僕を採用したのがこの人だけの責任になるやん」と思ったので、「まだ店舗を決めてないんで、自分でやります」と言って断わりました。僕より20歳若かったけれど、人望もあるし、仕事もできるし、なかなかの人物だったから。

鈴木 働いている仲間たちをかばいたい、みたいな気持ちも湧きましたね。原発でも築地でも、一緒に働いてる人らに感情移入して、勝手に仲間意識を持って。せっかく記事を書くなら、彼らの待遇が改善されるように、という思いもあるんです。

横田 パワハラやるようなイヤなやつだったら、自業自得やと思うけれども、いい人もいっぱいいるから。でも迷惑かかりますからね、いずれ活字になれば。

鈴木 迷惑かかるんですよね。そうなんです。

無遅刻、無欠勤を貫く

横田 あと僕が心掛けているのは、真面目に働くこと。潜入取材だからといって、労働に手を抜いていたら面白くないじゃないですか。だから労働時間内は、しっかりレジ打ちするし、棚の服をしっかり畳む。ちゃんと働かないと、仕事の意味が見えてこないんです。初め商品の位置がわからなくて、お客さんの質問に答えられなかったんですね。だから30分ぐらい早く出勤して、店内の地図を見ながら、商品の位置を覚えました。時給1000円でしたけど、時給分以上に働こうという気持ちでした。そのほうがストレスが少ないし。

鈴木 同じですね。だから、さぼったりしない。労働のお金が目的じゃないから、酒飲んでつぶれたら休めばいいんだけど、休まないですもんね。

横田 あとから「あいつ、いい加減に働いてたじゃん」と言われたらカッコ悪いから、遅刻も欠勤も早退もない。後ろ指はさされないように。それに、いい加減に働いて「今日は適当に休みますわ」という潜入ルポじゃ、読んでくれる人に説得力がないですもんね。

鈴木 原稿の仕事が本職だから、締め切りがあるときは休みたいんですよね。仕事のあとに書けばいいやと思っていても、ヘトヘトに消耗するので。

横田 そうそう。仕事が終わってから原稿を書くって、無理です。僕は8時間勤務の休憩1時間半だから、9時間半の拘束なんですよ。だから、働いている間、雑誌に頼まれた短い原稿なんかは、朝早く書いてました。

鈴木 休むのが不誠実な気がしたのは、あとで手の平をひっくり返すのを悪いと思っているからかな、とか自分で考えたりしましたね。

横田 正面から受けてくれれば半年で済む取材を、1年以上かけて休憩室で雑談を拾ったり、まぁ意固地になってた部分もありました。途中でバレたらカッコ悪いし、失敗できない。潜入取材は手間がかかるけれども、リアリティーが細かく積みあがっていく。その厚みが、他のノンフィクションとは違う醍醐味なんですよね。

ユニクロ×原発 潜入ジャーナリスト対談#3「奥さんに反対されませんでしたか」につづく

構成=石井謙一郎 写真=白澤正/文藝春秋

よこた・ますお/1965年福岡県生まれ。ジャーナリスト。著書に『ユニクロ帝国の光と影』『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』など。ユニクロの店舗で一年働き、長時間勤務の実態やパワハラの存在を報じた「週刊文春」の連載が話題になる(電子書籍『ユニクロ潜入一年』として発売中)。10月に連載をもとに大幅加筆した新刊を発売予定。

すずき・ともひこ/1966年北海道生まれ。雑誌、広告カメラマンを経て、ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーライターに。東日本大震災の直後に福島第一原発で2カ月間作業員として働き、『ヤクザと原発』(文春文庫)を上梓。

(「文春オンライン」編集部)